異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第12話「持たざる者の抵抗」

轟音と共に、意識がほんの少しのあいだ途切れ、次に気がついたときは瓦礫の中だった。

 

頭部をぶち抜かれた時と同じ感覚。イアリングの宝石は再び砕けている。

 

1番近い感覚で例えるなら、一瞬寝落ちしてた時とか。死ぬ感覚は眠りに落ちるとあまり変わらないというのは、一時期、過度に死を恐れていた自分を少し安心させてくれた言説だ。それが反映されていると思って良い。

 

『地中遊泳(グラウンドクロール)』を使用して、瓦礫の中を泳ぐように進む。モグラ系のモンスター専用の種族スキルだが、どうやら人間の自分でも扱えるらしい。人間以外専用の異能も使えるのは結構、嬉しい事だ。

 

瓦礫から抜け出し、何ともいえない青い空が自分を出迎えてくれる。もうそろそろ目が覚めそうだな。レーザーの足を治して、今日は終わりか。

 

 

『絶死波動(リードエンド)』は、指定した生命体1人に対して強力な即死効果を与える魔法。ただしこの魔法を使用した生命体本人も即死する事になる。

 

ところで想像してみてほしい。これを生命体以外のゴーストやらアンデッドやらがポンポン使ってきたらどうなるか。代償なしでお手軽に即死させてくるバケモノの誕生だ。

 

とあるゲームの終盤のダンジョンではこの魔法を標準搭載したモンスターがわんさか出てきて、並程度の即死耐性しか積んでいなかった自分のパーティはすぐ壊滅させられた。

 

これが自分の「初見殺し」の初体験だった。

 

なお即死耐性にリソースを割きすぎても、攻撃と防御が疎かになってじわじわと全滅に追い込まれてしまった。

 

使用者よりもレベルが30以上高いと、耐性が無くても無効化できる事を友達に教えて貰えなければ、今でもクリア出来ていなかったかもしれない。

 

全クリ後に習得出来るようになった時はこれで無双できる思い、ろくに説明分も読まずに使って、ようやく代償の存在に気がついた。あまりの卑怯さに一時期、非生命体キャラの差別主義者になりかけたのは言うまでもない。

 

懐かしい思い出に耽りながら、瓦礫の山から慎重に降りていく。

 

命のイアリングでは魔法による即死効果を防げない。だから魔法を発動させたタイミングで、倒壊するビルに直撃して即死するダメージを喰らう。

 

即死ダメージを受けた自分は一瞬「死んでいる」状態になっているので魔法の即死効果を無効化、その後、命のイアリングが即死ダメージを肩代わりしてくれて見事復活、ということだ。

 

「肩代わりする、って代わりにダメージ受けてくれるって印象だったけど、攻撃自体を無効化してくれる訳じゃないし、実際レーザーに頭貫通させられて一瞬死んだような感覚はあったから、残機みたいなイメージに近いんだろうな」

 

もし一度だけ即死するダメージを打ち消す、だったら、ビル直撃ダメージが消えて、魔法の反動の即死をそのまま受ける羽目になっていた。

 

「まぁ打ち消すならわざわざ『命の』なんてネーミングにせずに、シールドとかガードとかになるのか。異能への理解度がまだまだ足りないな」

 

異能に終わりはない。人の想像力が尽きない限り。

しかし、異能の系統はそう簡単に増えるものではない。

 

「…ちょっともやもやするよな」

 

最後まで分からなかった、滅ガキの能力。

あのまま押し切られると負けると判断し、速攻で即死魔法を使用したのは英断だった、とは思う。

 

結局、相手の異能を知るには、相手より自分が強い事が第一条件だ。

 

余裕の無い戦いで相手の力を全て引き出させる事など出来ないし、逼迫する戦闘で不必要にタネが分からない能力の解析を行うことも出来ない。

 

「…弱いな、俺は」

 

分かっている。

俺は色んな作品の異能を見て、知って、覚えているだけだ。それを最大限活かすには頭も体力も足りていない。

 

基礎能力が低いというのは致命的だ。結局異能が拮抗した場合、最後に明暗を分けるのは肉体の差。肉体強化の魔法や体術をただ「使う」だけでは、使用元の貧弱さの誤魔化しになるだけで、最大限に活かせているとは言えない。

 

集中力強化も、自動反撃の型も、もっと強く使えたはずなのに。

 

能力鑑定の魔法を使わなかったのは、そもそも自分の知識にない異能は分からないと決めつけていたのか、もし知っている異能だった時に、自分の理解度の低さが露呈するのを目の当たりにしたくなかっただけなのか。多分両方だ。

 

世界観の作り込みは確かに委員長に惨敗した。未だにファンタジー世界の夢に設定できないのも、自分に責任がある。

 

それでも、自分は誰よりも異能を知っていて、異能に詳しい自信があった。そこだけは、それだけは誰にも負けないという絶対的な自負が、今まで自分を異世界生活に向けて突き動かしていたはずだ。

 

思い知らされた。

知っているだけではうまく使えない。

知っていたのだとしても思い出せなければ意味はない。

 

「…いけね。〈何かが上手く行ったときには、一度足を止めて満足する事も大切〉を思い出せ、俺。そもそも四天王とか言ってたし、序盤の負けイベに勝っただけで上出来だ」

 

敵に囚われしレーザーを助けに行く冒険が幕をあけることなく、連行されるのを防ぐ事が出来たのだ。それは中々、ゲームの主人公にだって出来ない偉業のはず。

 

「うん、凄い。まぁ凄いのは俺と言うより異能だけど、それでも凄い!初の対人戦が敵幹部なのに勝てたのは凄い!!後はレーザー助けて昨日出来なかったヒロイン獲得!!!これで異世界に一歩____________」

 

「え〜♡誰が誰に勝って〜♡誰を助けるんですか〜♡」

 

背後から聞き覚えのある声がする。

甘ったるい、それでいて人を撫でくるように煽るような、そんな声が。

 

「しぶといね〜お兄さん♡雑魚は撤回♡雑草に格上げしちゃいま〜す♡おめでと〜♡」

 

「なんで、生きて…」

 

「え〜♡私が瓦礫程度で死ぬ訳ないじゃん♡それともお兄さん、私に何かしてたのかな♡ごめんね♡なんにも効いてなくて♡」

 

絶死波動(リードエンド)は確実に命中した。代償の踏み倒しで発動が無効になる事はない。まさか。

 

「【死の軍勢】って、もしかして、お前アンデッドか?」

 

「え〜凄い♡全然違うよ♡頭わっる♡」

 

再び目前まで一瞬で移動してくる滅ガキに対し、一呼吸遅れて守りの体勢を取る。

 

しかし、血は噴き出さない。体に衝撃も走らない。

目前には、まるで甘えるかのような視線で見上げてくる、可愛らしい幼女の姿しかなかった。

 

「チャンスなのに攻撃しないの?♡鈍くっさ♡」

 

言い終わる前に、即座に新たなノーマルソードを取り出し、首を飛ばすように斬りつける。

 

ガギン、という鈍い音と共に、首に直撃した刃が折れる。

 

ノーマルソード、名前はしょぼいが性能は悪くない。攻撃に特段の補正が乗らない代わりに、武器耐久値が極端に高いのだ。

一定以上の階級の騎士や一部の猛者キャラしか使用していなかった剣。

おそらく武器破壊をすれば極端に戦闘力が落ちるキャラへの調整だったのだろう。

 

実際にノーマルソードを壊せた事は自分は一度もなかった。一度だけ、検証系ゲーマーの動画を見て、壊せなくもない事は知っていたが。

 

今日は2度も、折られている。

 

「深く考える必要はないんだよ♡ただ私とお兄さんでは、存在の格が違うってだけ♡」

 

腹部に衝撃が走る。

そしてまた妙な感触で威力が増幅し、後方の瓦礫の山へと叩き込まれる。

 

「雑草のお兄さんは〜♡能力に恵まれた発現者ってとこかな♡それかセンスない覚醒者♡どの道、順応者の私には絶対勝てませ〜ん♡残念でした〜♡」

 

存在の格、レベルみたいな概念があるのか、この夢では。

 

『絶死波動(リードエンド)』が効かなかったのも、体格に見合わない身体能力も、いま剣撃が通らなかったのも、単にレベル差が開いていたからなのか。

 

『魔法自動行使術式』によって『高位回復(エクスヒール)』は受けたダメージを回復するまで自動で使用され続ける。

 

しかし、殴打を受けた箇所は、斬撃のような外傷を負った時よりも、何故か治癒に時間がかかる。

 

「もう一回ビルのお墓でも作ろっかな♡」

 

命のイアリングは一度の戦闘で一回しか使えない。滅ガキとの戦闘では先ほど使ってしまったから、また即死対策をするには別の異能を使う必要がある。

 

「いや、それに頼るのはどうしようもない時だ。これ以上、無駄遣いしたくない」

 

手頃なサイズの瓦礫片を右手に掴み、再び『地中遊泳(グラウンドクロール)』を使用、瓦礫の山から抜け出す。

 

そして前方の滅ガキへ『投石補助 Lv.7』を使用し、瓦礫片を投げつける。瓦礫は滅ガキの少し手前で粉々に砕ける。

 

続け様に『魔法複写行使術式』で10の魔法陣を展開、氷結弾(フローズンバレット)の使用を試みるも、魔法陣が一斉に砕かれたように割れる。

 

「まだ頑張るんだ♡いいよ♡飽きるまでは遊んであげる♡」

 

『ノーマルソード』を取り出そうと右手をかざす。その瞬間に、指、手のひら、手の甲、腕に無数の切り傷が現れ、血が流れ出る。

『高位回復(エクスヒール)』の効果が即座に傷を癒すが、また即座に傷が現れ、血が噴き出してはの繰り返し。

 

「あ、あが、いっ」

 

「これでアイテムは取り出せないね♡次はどうするのかな〜♡」

 

右手がダメなら、と左手をかざそうとした瞬間、左手、左腕にも無数の切り傷が現れる。

 

今度はそれだけに留まらない。

顔、首、胴体、背中、足、全身の至るところに無数の切り傷が現れる。

回復がギリギリ大怪我にならないように表面上は防いでいるが、全身にくまなく走り続ける痛みに耐えきれず、その場にうずくまる。

 

「っつ〜〜〜ッ」

 

「回復能力は雑魚♡回復以上のダメージを与え続ければ無意味♡でも思ったより頑張って耐えてるね♡すご〜い♡じゃあもっと威力あげるね〜♡」

 

現れる切り傷に、刺し傷が混ざり始める。針で刺したような傷が、全身に鋭い痛みを走らせ続ける。回復が、徐々に追いつかなくなっていく。

 

「ぁ、あぁ、くっそぉ…」

 

「あれ?♡お兄さん泣いてるの?♡なっさけな〜い♡もっと頑張って♡はずかしくないの〜♡」

 

「あぁ、俺は、俺は、恥ずかしい」

 

涙が出てくる。

自分の無能さに、自分の機転の効かなさに、自分の閃きの鈍さに、自分の思い上がりに。

 

 

こんな事にならないと相手の能力すら見抜けないのか。俺は。

 

 

「こんな、こんなんじゃ、世界を救う主人公になれない。異能にも顔向け出来ない。異世界なんて、行けるわけがない…」

 

「はぁ?♡意味分かんない♡脳みそ壊れちゃった〜?♡」

 

脳みそなんてとうの昔に壊れている。

あの日初めて、異世界に触れてから、異能を知ってから、俺の脳みそはその衝撃で変形したままだ。

 

「死の軍勢、四天王の滅ガキ。お前に、回復魔法のありがたみを教えてやる」

 

 

『持たざる者の抵抗』発動開始。

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