異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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「第15話」道連れ

「回復魔法のありがたみ、しっかり味わえよ」

 

そう滅ガキに言い放ったあと、ビルの窓ガラスを開け、飛び降りながら怪鳥の翼を展開、滑空してレーザーの元へ俺は向かう。

 

 

最初に違和感を感じたのは、腹を殴られた時だ。

 

殴られた箇所を始点として、衝撃が何度も体内に叩き込まれるような感覚。

内臓1つ1つに重大な損傷を与えてやろうという、殺意のこもった内部破壊。

 

それと比較すると、最初の殴打の威力はやや低かった。

 

『表皮硬化(ハードスケイル)』は斬撃だけでなく、物理攻撃全般のダメージを30%軽減する事ができる。

 

直接殴られた最初の1撃の威力は、その後に内部に叩き込まれた衝撃1発の、70%程度の威力だった、ように感じた。

 

 

次の違和感は、物と人に対する威力の差。

 

『鉄の鎧 Lv.8』は並の斬撃なら1000回受けても全壊することは無い。

『ヒーローシールド』は斬撃を数回だけ弾き飛ばして完全に無効化できる。その効果が無くても盾として優秀だ。

『ノーマルソード』は特別な効果がない代わりに耐久力が極端に高い。

 

それらを一瞬で「壊せた」。

思えばビルですら、まるでジェンガのように「壊して」いた。

 

にも関わらず、殺すつもりで放った出会い頭の一撃は俺を両断できず、「傷つける」だけにとどまった。

 

回復が使える事を知った後も、対策として用意した武装は一瞬で細切れに出来たのに、俺に与えた「傷」の深さは、初めの一撃と差が無かった。この時はまだ単なる意趣返しだと思っていた。

 

 

 

確信したのは、無数の切り傷と刺し傷に攻撃パターンが変化した時に、カマでばっさりと切りつけたようなデカい一撃を混ぜてこなかったこと。

 

長く苦しめたいなら、レーザーにやったように、足の肉を削ぎ落として逃げられないようにすれば良かったはず。

 

しない理由、出来ない理由があったんだ。

 

 

「ダメージそのものを生成する能力。固定ダメージ系統」

 

 

傷とは、ダメージから連想される代表的なもの。問答無用で一定量の損傷を与える能力といったところか。

 

もっと早く気がつくべきだった。

思えば「回復」に対して妙に当たりが強かったのも、自身と真逆の能力だからだと考えると納得がいく。

 

「物は壊れるイメージが簡単に出来るから壊せる。でも人は死ぬより怪我をするイメージの方が強いから簡単には殺せない。物と人への威力に差があった理由は、こんなとこかな」

 

固定ダメージ系統は、決まったダメージを必ず与える、という性質から威力は低めに設定されるのがセオリーだ。

 

しかし、レベルの低い、つまりHPが低い相手に、防ぐ事も耐性をつける事も出来ない攻撃を連発するのは脅威でしかない。

 

そもそもHPを上回る固定ダメージであれば、耐性をつけられない分、即死魔法よりも厄介だと言える。

 

「物体に対しては耐久力を0にする損傷を与える。人体?生物?に対しては、最初の一撃が遠距離で与えられる最大ダメージ、ただし1発使うのに貯めが必要。殴打は実際殴った威力をイメージに組み込んで、それを体内に何発もぶち込む。無数の傷はダメージを小分けにして与え続ける。100ダメージ1発じゃなくて、5ダメージ20発とか。それを斬撃と刺突を混ぜて傷の種類を変える事でインターバルを潰してた、みたいな。ただの想像だけど、俺の夢だしまぁ当たってるでしょう」

 

 

能力考察タイムを1人でぶつぶつと楽しみながら、レーザーが倒れ込んでいる場所へ着地する。

 

「ただいま。うわ、足やばいな。待ってろすぐ治すから」

 

「え…え?…何で、あいつは…死天王の、あいつの…」

 

意識が朦朧としている。出血しすぎているせいか?

 

「早く…逃げ…」

 

「置いてく訳ないだろ。まだ話聞かせてもらってないんだし。『魔法複写行使術式』からの『高位回復(エクスヒール)』

 

『高位回復(エクスヒール)』はHP、つまり生命力そのものを回復させる。傷はもちろん、血が足りなければ勝手に補充してくれるだろう。そうでないなら、俺はきっとだいぶ前に貧血で倒れている。

 

足の傷が瞬時に修復される。爪も10倍速で生えてくる。ここまでいくと再生能力みたいだ。

 

「…っ、早く逃げないと!アイツが来る前に!」

 

「ちょ、ちょっと待てって。倒したから。滅ガキは倒した。落ち着いて」

 

治るやいなや、すぐに立ち上がり俺の手を引っ張って走り出そうとするレーザーを引き止める。

 

「倒した!?それは信じられないけど、もし本当に死天王を殺したのなら、すぐここに【死の軍勢】の奴らが来る!早く逃げないと結局死ぬ羽目になるから!!」

 

「あ、なら、大丈夫だ。多分まだ死んではないだろうし」

 

「なに?何なの?ちゃんと説明してくれないと分かんない!倒してないならどの道早く逃げないと、アイツが本気出したら私達なんてすぐに」

 

「動けなくしてから毒をぶち込んだ。だからもうすぐ死ぬんじゃないかな」

 

言い終えた直後に地面が鳴動する。

周囲に地割れが発生し始める。

周りの高層建築物が傾き、崩壊していく。

 

「あぁ…終わった…アイツが本気を出した。この街は、区画ごと更地にされる…」

 

「はぁ!?」

 

おいおいおい、そんな広範囲を破壊できるのかよ。だとしたら、さっきまで手を抜きすぎだろ。

 

「知ってるでしょ。能力の強度は支払った代償の大きさに比例する。自分が死ぬ寸前なら代償なんて払い放題。アイツは街もろとも、私達を道連れにするつもり」

 

代償、どっかでも同じような事を聞いたな。

俺は異能を使った時に、特に何か消費してる感じがしないから、あんまりピンと来ない。

 

「回復のありがたみを理解させられた腹いせかよ。性格悪いなぁ。じゃあ早く離れるか」

 

「……逃げ場なんかどこにあんの。見えないの?数キロ先のビルだって崩れ始めてるじゃん。地面だって、もう地割れだらけじゃん。走ったって逃げ切れる訳ない。もし逃げ切れたって【死の軍勢】が見逃してくれる訳ない。もう終わり、終わったの」

 

広範囲の地中に莫大なダメージを与え続けているんだろうか。確かに大地そのものを破壊し続ければ、建物の上に逃げても意味はない。結局地面が全てを支えているのだから。

 

「死んだらこの夢、終わってくれるのかな。それとも2度と目が覚めなかったりしてね。去年に比べて今年は死者とか行方不明者が倍になってるってニュース見てから、私は怖くて堪らない。半年前から、この夢を毎日毎日見続けてるから」

 

広がっていく無数の地割れ。倒壊する数多のビル。鳴動は更に激しさを増していく。

 

「ごめん。ごめんなさい。私と会わなければ、アンタはまだ死ななくて済んだかもしれないのに。巻き込んでごめんなさい。本当に、ごめんなさい…ごめん…なさ…」

 

「よし、準備完了。レーザー、今からお前を投げ飛ばすから、その瞬間にコレの面に向かって光線を打ってくれ」

 

振動で倒れないように『鉄の鎧 Lv.8』を地面にしっかりと打ち付け、それに斜めに立てかけた『ヒーローシールド』に向かって、指を差す。

 

「何それ…何言ってんの…?何やってんの…?」

 

「一緒に逃げるんだよ、友達だから。頼んだぞ」

 

レーザーは何か言いかけたが、無言のまま頷いた。

 

レーザーの両手を掴む。

 

『投石補助 Lv.7』を使用して、『ヒーローシールド』の面が向いている方へ、レーザーを斜め方向に投げ飛ばす。

 

レーザーは視界にヒーローシールドを何とか捉え、光線を放った。

 

俺はレーザーを投げ飛ばしてから即座に両手で『ノーマルソード』を持ち、『自動反撃の構え』を使用する。

 

光線がヒーローシールドに直撃する間際に、『自動反撃の構え』で『ノーマルソード』を振り下ろす。

 

剣撃は『ヒーローシールド』の斜面に直撃するが、斬撃を弾き飛ばすように無効化する。そのノックバック効果で、俺は斜めに吹き飛ばされる。

 

すかさず『怪鳥の翼』を装備、その勢いのままレーザーの手を掴み、離陸した飛行機のように高度を上げていく。

 

「このまま範囲外に脱出する!しっかり掴まってろよ!!」

 

地面を見下ろす。

次々と崩れ落ちていくビル。自分達がいた場所も既に地割れが広がっていた。

 

かつて都市だったものの残骸を見届けながら、遥か遠方の安全圏、ビルが立ち並ぶ都市へ向かって空中を直進し続ける。

 

「あんたやっぱりイカれすぎだって…」

 

「折角の夢なんだからイカれないと勿体無いだろ。現実では使い道がまるでないんだし」

 

レーザーの呟きに、俺はそう返す。

お互いに堪らず吹き出し、そのまま大笑いする。

 

崩壊する都市の轟音に、2人の笑い声は小さく、しかしハッキリと混ざり合って響いていた。

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