異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第16話「夢が明ける」

1つ1つ、何が起きたのかを思い出していく。

 

自分は、まず死にかけの男にトドメを刺そうとしていたはずだ。そいつが何か喋ろうとしていて、それを聞き取ろうとした所まではハッキリと覚えている。

 

その時に視界が暗転した。

 

初めはそこで、夢が覚めたのだと思った。

いつも夢の終わりは突然で、何かの拍子にふと現実に戻るから。

 

だが妙だった。

今まで数多くの者を屠り去ってきたが、仕留める直前に夢が覚めた事は、一度もなかった。

 

何が起こったのか思考を巡らせていると、両腕と両足に叩かれたような感触が走り、次の瞬間には、手足の感覚が消えた。

 

そして背中に痛みが走った。

 

「回復魔法のありがたみ、しっかり味わえよ」

 

男の声が聞こえたのが最後だ。

 

「…………は?」

 

分からない。分からない分からない分からない分からない。

 

何が起きたのか。思い出しても何も分からない。

 

「なにこれ…意味わかんないんだけど…」

 

なおも視界は暗いまま。四肢の感覚もない。身動きが全く取れない。苦しい。しんどい。

 

両目と四肢を切り落とされたにしては痛みがない。感覚だけが抜け落ちているような感じ。息がしにくい。頭が痛い。

 

「ざっ…けんな……何が、どうなってんの!」

 

声だけが虚しく響く。男の気配はもう無い。逃げやがった?体が怠い。辛い。

 

「はぁ…ふざけん……はぁ…何、なん…ぐ、ぐふっ……」

 

口から何かが吐き出る。

なぜか先ほどから寒気がする。頭が割れそう。息が苦しい。心臓がバクバクする。

 

「………ざけん……はぁ………けんなよォォォォ!!」

 

精一杯叫んでも、もう遅い。

 

ようやく気がついた。あの男に何かやられた。

 

両目と四肢の感覚を奪うアイテムと、毒か何かで、私をこんな状態にしたんだ。

 

「……ッソ……卑怯じゃん……んなの…隠し…….油断……しなきゃ…………ァァァァア!」

 

死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ。死が近づいてくる。

早く夢が覚めろ、覚めろ覚めろ覚めろ。

覚めて覚めて覚めて覚めて。

お願い、お願いだから。

 

嫌だ。嫌だ死にたくない。

ここで死んだらどうなる?もうこの世界に来られないのは分かってる。でも現実には?現実にすら戻れないの?そんなのはあんまりだ。

 

ただ楽しんでいただけ。この夢を楽しんでいた、それだけなのに。

 

惨めで弱い雑魚が何人死のうが、それはそいつらが弱いせいだ。強くない奴が悪い。

 

私は強い。強いから何をしても許された。だから誰を殺しても何を壊しても良かった。

 

死将のような超越者に殺されるなら、まだ納得がいく。

しかし、今の男は違う。違うはずだ。あんな惨めに這いつくばって、回復しか取り柄のないような奴に、私が、私が……!!

 

「……逃がすか……全部……代償にして……広範囲………この区画ごと………破壊し尽くして……殺してやる」

 

あの男は得意な顔をして逃げているのだろう。

回復が使えたら毒を耐えれたのに、ざまぁみろとでも思っているのだろう。

それをレーザーの女に自慢しに行ったのだろう。

死天王を倒したなどと言いふらして、これからこの夢を楽しんでいくつもりだろう。

 

全部反吐が出る。逃がすものか。

 

 

全てを代償に注ぎ込み、広範囲の地表に、ありったけの破壊を引き起こす。

 

街の区画は10キロ×10キロ。その範囲内なら、全部支払えばギリギリ破壊し尽くせる。

 

逃げられるものなら逃げてみろ。

区画から出る前に全て崩壊させてやる。

 

地鳴りが聞こえる。ビルが軋む音がする。

 

勝利に酔いしれていたあの男の顔が、絶望と恐怖に歪み、泣き叫び、女を置いて走り出し、それでも崩壊していく街から出る事は叶わず、瓦礫と共に地割れに落下して死ぬ。

 

その光景を想像する。

 

「…あは♡……あははは……あはははははははは」

 

愉快だ。実に愉快。これなら夢の終わりに相応しい。

 

激しさを増す鳴動と共に、自分のいるビルも傾き出す。それでも別に構わない。

 

もはや口の中は血が溜まりすぎて、鉄の味しかしない。

 

意識が朦朧とするなか、何度もあの男が情けない顔で地割れに落下していく様を思い浮かべる。あぁ面白い。

 

初めてここに来た時、チンピラみたいな奴の皮を剥いで、ビルから落としてやったっけ。その時の顔に似てるなぁ。

 

3人で組んで私を倒そうとした奴らもいた。

一瞬で2人をズタボロにしたら残った1人が土下座して謝り込んできたんだっけ。それを踏みつけて地面にめり込ませるの、楽しかったなぁ。

 

あと、なんだっけ、色々あったな。本当に楽しかった。

 

「君のような存在が、無意味に暴れて朽ちていくのはただの損失なんだよ」

 

これが、走馬灯ってやつかな。

そうだ、死将のこと、あの時。何か気になってたんだ。

 

何だったのか、もう思い出せないや。

 

意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

「どうやって倒したの、あの怪物を」

 

もはや瓦礫の海となった街に目をやりながら、レーザーは俺に話しかける。

 

ノックバックの反動を利用して高速飛行できた怪鳥の翼を使い、破壊が及ばない都市まで辿り着けた俺達は、適当なビルの屋上に着陸し、崩壊していく街を眺めていた。

 

「ちょっと前までハマってたゲームに『持たざる者の抵抗』ってスキルがあってさ。それは発動してから1秒間生き残るごとに、次に使う状態異常付与の技の成功率が1%ずつ上がっていくんだよ」

 

「え?何の話?私あんまりゲームとか知らないんだけど」

 

「えぇ、じゃあ説明むずいなぁ。まぁつまり100秒耐えたら、相手の身体に異常が起こせる攻撃が100%成功するようになるって感じ。それで成功率が低いけど当たったら長時間目が見えなくなる魔法を当てて、戸惑ってるうちに、数秒間に4連続で両腕両足に攻撃を当てると四肢の感覚を奪う剣技で動きを止める、切りつけた剣は異常を負ってる相手に強力な毒を与える『錆び果てた剣』ってのを…」

 

「ちょっと、ちょっと待って、何?あんたは何の話をしてるの?」

 

怒涛の情報についていけなくなったレーザーからストップが入る。

 

まぁゲームの話が分からないとそういう反応になるよな。

俺も分からない英単語だらけの長文聞かされた時は、待ってくれとしか言えなかったし。

 

「そうだな、ぜひ詳しく教えたい。1つ1つの能力と、その能力が登場した作品と、それに関する思い出と、全部詳細に伝えたい。けど」

 

____リリリ____

 

「もう終わりみたいだ。今日は色々あったから、初日よりも長く感じるな。けどあっという間だったよ」

 

「待って、ねぇ待ってよ。何にも分からないんだけど」

 

昨日の夢は続かなかった。

軍服刀剣使いの才女もドラゴンも、今日の夢には全く関係なかった。

 

レーザーがこちらを見つめる。

多分もう会う事は無いんだろう。何となく分かる。

 

俺が追い求めている異世界の夢で、一度だけ出会った仲間たちも、もう声も姿も思い出せない。その一員に、レーザーもなるんだ。

 

「もういい。あんたがどっかの組織の一員でも関係ない。私はあんたの事、何も知らないままで終わらせたくない」

 

レーザーは左手の甲に、右手の爪でガリガリと傷をつけ始める。

 

「お前何して….」

 

「左手出して早く!痛くても治さないでよ」

 

俺の左手を奪うように引っ張り、同じように右手で爪を立ててガリガリと傷つけ、正の字が一本たりないような、アルファベットのEの上下の線が左に飛び出したような傷をつけていく。

 

皮がめくれて非常に痛い。治すなと言われたせいか、余計に痛く感じる気がする。滅ガキにボコボコにされた時とは、別種の痛みだ。

 

「同じ人がつけた同じ刻印を持つ者は、次の夢でもまた会える」

 

レーザーは自分の左手の甲を見せつける。俺の手の甲につけたのと同じような傷跡がついている。

 

「私自身が刻印を付けた事はないし失敗するかもしれないけど。まだあんたには聞きたい事が山ほど残ってる。それを…」

 

「ちょっとカッコいいなこれ、なんかの儀式みたい」

 

「ねぇ聞いてんの?」

 

 

____リリリリリリリ________

 

 

「じゃあなレーザー。今日は楽しかった!また会えたら会おう!もし今度会えたら、俺がどうやって滅ガキを倒したのか、小1時間解説してやるから楽しみにしとけよ」

 

「…あんたやっぱイカれてるよね。決めた。私は誰が何と言おうと、あんたのことイカちゃんって呼ぶから」

 

「えぇやめてくれよ。俺、コレクターって呼んで欲しいんだけど」

 

レーザーは呆れたようにクスっと笑う。

恐らく一生会えないであろう、俺が作り出した幻想。

ならせめて、最後は笑ってお別れしたい。

 

「異能を溜め込んでるとか言ってたでしょ?異能収集家、それを略してイカちゃんってことで」

 

 

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ

 

 

「無理矢理だなぁ。でも能力を隠せるネーミングってのは割とアリか?」

 

寝ぼけながら目覚まし時計を止める。時刻は7時。

 

すぐに起き上がって夢日記を書く。

今日は色々ありすぎたせいか、細部までなかなか思い出せない。

 

デカイモムシ倒す、奴隷少女助ける、メスガキ倒す。名前がイカに決定。

走り書きする。何で名前がイカになったのかは、もう思い出せなかった。

 

夢日記を閉じ、今日はちゃんと棚にしまっておく。

 

「また明日、だな」

 

不意に左手の甲が気になって目をやるが、特に何もなっては、いなかった。

 

 

また1日が始まる。

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