異能コレクターは気がつかない   作:素路

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第1話「夢と現実の境界」

そこは都市だった。

 

数多の高層建築物が建ち並び、地面は地表を制圧したかのように舗装され、木や草は、街路やちょっとした広場にしか生えていない。

 

しかし都市であれば当然あるはずのものが欠けている。

 

人、住民、活気。

 

それらが不足したこの都市は、不気味なほど静まり返っている。

存在する全てのものが今この瞬間に作られたかのように、綺麗な街並みが広がっているのにも関わらず。

 

そこには1人の少年がいた。目の前に広がる光景をただ呆然と見ていた。そのうち、脱力していた右手をおもむろにグーっと握り、パーにして緩める。

そして目線を下げて、手のひらを見つめる。

 

「ぁ」

 

小さく声をあげ、自分が今、人の気配がまるでない街の、交差点のど真ん中で突っ立っている事に気がつく。

 

「ぁぁあ」

 

自分の置かれた状況が分からず、無意味に唸る事しかできない、誰かに聞こうとしても自分一人、孤独と絶望が胸の内に膨らんでいく_______

 

「あああああぁぁぁぁあぃよぉぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!」

 

________ことはなく、少年は猛烈な歓喜の雄叫びをあげる。

 

 

「遂に来た!!!遂に来ちゃったね!!!あーーー!!長かった!!!苦節5年?4年?もう忘れたけど、ようやく、ようやくようやくようやく!ようやくぅぅぅー!!!」

 

静まり返った街に狂喜乱舞する少年の声が響き渡る。

反響した自分の声が、若干遅延して少年の耳に戻ってくる。

 

「街でやまびこってどんなだよ。それより初の明晰夢、俺の長年の夢を叶える時が来ました来ましたわぁ!!!」

 

明晰夢。

通常の夢とは違い、自分の思い通りに行動できる夢。

 

「手の平に描いた棒人間くんが消えてるし〜!?手足も自由に動きま〜す!?自分の意思で喋れて〜!!そして明らかに変な世界!!」

 

目の前の異様な光景は、変な世界の一言で片付けられてしまう。

 

「てか何でスタートが中世ヨーロッパのゴリゴリファンタジーじゃなくて、新品未使用!みたいな都市なんだよ。てか何だあのスカイツリー2倍盛りみたいなクソ高い塔。どういうコンセプトなんだ」

 

夢の世界をハッキリと意識して見ると違和感だらけだとはよく言うが、それにしてもビルよりも遥かに高く、雲に刺さるレベルで高い塔とは。

 

「せっかく膨大な異世界アニメを見漁ったのに、幼少期に観光して圧倒された東京の街並みやスカイツリーの思い出の方が深く残ってるってことなのかね…」

 

空は、夕方に入り始めたような早朝のような微妙な水色、雲はところどころにうっすら存在するが、動いてなくない?手抜きか?

 

「まぁよい、こんなつまらない世界抜け出して、最高のファンタジー世界へ!!いざ!いでよ!!ゲームみたいな中世ヨーロッパ風の世界!!!!!!!」

 

少年の声と共に世界は歪みだし、異様な光景が書き替えられ_______ない。

 

「???、、!!ケルト音楽!!!ギルド!!!城壁都市!!!!魔法!!!!ステータスオープン!!冒険者!!!!ダンジョン!!!仲間!!!魔王軍!!!!」

 

少年の声が街に虚しく響き渡る。

おかしい、明晰夢は自分の思い通りにコントロール出来るはずでは無いのか。

 

「え、えーと、ほ、放棄された街並み!温泉街!!雪山!魔王軍より普通に強い野生モンスター!!あと、あとは、武器!あ!イカついけど優しい鍛治職人のおじさん!!!その服で聖職者は無理だろってお姉さん!!過去に何かあってサボってるけど実はめちゃ強いおっさん!!!軍服刀剣使いの才女!!」

 

ありったけの異世界を思い描くが、街並みは変わらない。何で、俺は、心の底から異世界に行きたかったはずなのに。

 

「……あ、愛とかすぐに言う胡散臭い敵、目的の違いで敵対する転生者……選民思想の狂人貴族とか…後でよく考えたら悲惨な境遇だった嫌な奴とかも……」

 

変わらない。何も変わらない。世界は変わらずビルだらけの都市。

 

異世界に憧れた。自由な世界に。ここではないどこかに。

トラックに轢かれて転生できると誰かが証明してくれたなら、迷わずに轢かれていたかもしれない。

流石にフィクションと現実の見分けはつくから転生は無理だ。しかし、夢ならどうだろう。

 

自分だけの夢の世界で、自分の理想の世界で冒険をする。好きなものに囲まれて、圧倒的な強さで敵を倒したり、時には困難にぶち当たって、夢なら、きっとそれが出来る。はずだったのに。

 

「……いや、何をクヨクヨしてんだ俺」

 

明晰夢は一度コツを掴めば、もう一度見るのは簡単らしい、という事を思い出した。

そうだ、もう2度と見れない訳ではない。少なくとも今日寝る前にやった事はメモに取ったから、その通りにやればまた見れるはずだ。

 

「感情の浮き沈みが激しいなぁ。やっぱり夢だと気分がハイになってるのかね」

 

冷静に考えて、最初から全部上手くいく訳がない。そもそもここに辿り着くまでに相当な時間がかかったんだから、向いてる方ではないんだろう。世界の設定は、また何年かけてでも練習していけばいい。

 

「まだ沢山、見てない異世界アニメはあるし!何なら原作を読んでみても良いかもな。夢を見るのは映像を見るのに近い、と思ってアニメに絞ってたけど、世界設定なら漫画や小説の方が頭に入れやすそうだ。色んなゲームは引き続きやるとして、後は今日のこれも記録に取って…」

 

何かが上手く行ったときには、一度足を止めて満足する事も大切。立て続けに目標を更新するのは素晴らしい上昇志向だけど、まずはそこに到達した自分を認めてあげて。

 

「やっぱりスクールカウンセラーのおばちゃん、あの人はSSRだったな」

 

深呼吸をする。

ここまで来れた自分の努力を、自分で認める。

長い間よく頑張った。続きは俺に任せておけ。お前の努力を無駄にはしない。

 

「……よし!誰かを大切にするのは当然だけど、自分もその中に入れてあげないのはおかしな話!すごいぞ俺!!!こんなに長く何かを頑張れたのは人生初だろ!!!よくやった!!!」

 

目の前に4年前の自分が浮かび上がり、笑顔に変わって、そして消えていく。なんか縁起悪。

 

「とりあえず思い通りに動けるなら、目が覚めるまで探索とかしてみるか」

 

再びこの世界に向き合う。

無人の都市、現実では見る事がないだろう光景。

いや深夜とか思ったより人いなかったりするかも。

 

とにかく、いつかファンタジー世界に塗り替えるその日まで精々遊んでやると、そう俺は心に決めたのだった。

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