異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第17話「危機的状況」

今日の朝ごはんは、食パンに野菜にフルーツ。

 

納豆ほどではないが、パンも口の中が妙にパサついて喉を取らない事がある。

 

しかし今日は何の問題もない。

何なら2枚食える、などと思いながら、朝食をぺろりと平らげ、テレビを見る。

 

暴走族が集団で意識不明になったニュース、可愛い動物のコーナー、死者行方不明が去年の2倍になった事を報じるニュース、それに対して見た事もない専門家が得意げに原因を推測するコーナー…

 

あんまり面白く無いな、と思いつつテレビを見るのをやめる。

 

それでも、まだ出発するには早かったので、自分の部屋に戻って、夢日記の追記でもしようとするが、全く手が進まない。

 

まぁ分かっていた。夢は目が覚めてからすぐにメモしないとあっというまに忘れてしまう。

少なくとも自分はそういうタイプ。

全部準備が終わった後に余裕が出来てからやろうとしても無理なのだ。

 

だから昨日の遅刻にも一定の価値があったと言っていいだろう。

 

結局少し早めに家を出て、昨日必死こいて走っていた道を悠々と歩く。

日は照りつけているが、そこまで暑くはない。

春は終わりつつあっても、猛暑の夏にはまだ遠いのだろう。

 

昨日トラックに轢かれかけて、カバンが破れた交差点を通過する。

よく思い返してみれば、あのトラックはスピード出しすぎだったと思う。

警察がいても同じように怒鳴るのだろうか。

何にせよもう出会いたくは、ない。

 

いつもより2本前の電車に乗る。

その時、なぜ自分がわざわざいつも時間ギリギリの電車に乗っていたのか気がつかされる事になる。

 

結局のところ、早ければ早いほど通勤通学する乗客で混み合うので、学校の最寄り駅に到着するまで、どんどん増える人にぎゅうぎゅうに押し込められて苦しい思いをしなくてはならない。

 

だからギリギリに乗った方が快適に過ごせるという事を忘れていた。失敗だ。

 

まぁ今日は委員長に一言謝っておきたかったし、そのために早く乗った、という事にしておこう。

 

満員電車の中で昨日の夢を思い返そうとするが、今日は中々思い出せない。

 

やけに長い夢だった気がするが、デカい虫を倒して女の子を助けた後に、固定ダメージ使いのメスガキを不意打ちで倒したくらいしか、覚えていない。

 

何で俺の夢にメスガキが出てきたのだろうか。あんまりファンタジー要素はないような気はするが。

 

いや、国1番の天才魔法使いの幼女、とか、自分の身長よりもデカい武器を扱う幼女、とか、その辺の記憶がメスガキでコーティングされた可能性は無きにしも非ず。

 

ただデカい虫を倒してメスガキが出てきた意味も分からない。虫がメスガキになったんだっけか。

 

うーん、と考え込んでいる内に最寄駅に到着。

 

降りたホームが学生で溢れかえっている光景を見て安心する。

 

いつもの景色、いつもの混み具合。

いつもの通学路に、いつもの学校が見えてきて、いつもの下駄箱で靴を履き替え、いつもの教室に入る。

 

チラホラと人はいるが、委員長はまだ来ていない。早く来てるイメージはあったが、実際どうだったかは記憶にない。まぁ待ってれば来るだろう。

 

席に座り、ぼーっとする。

特にやる事もなければ喋る相手もいない。

かと言って自習に励むほど熱心でもない。

 

仕方ないので、腕を組んで机に突っ伏し、寝る事にする。

ちゃんと長時間睡眠を取ったにしては、今日は妙に眠たい。やはり夢を見ていると眠りが浅くなるんだろうか。

 

誰かと誰かの話し声が聞こえる。

スズメか何かの鳥の鳴き声が聞こえる。

連続するおはよーという挨拶、朝練か何かで騒いでいる誰かの声、その全てが混ざり合って喧騒を成すが、特に耳障りではなかった。

 

 

 

 

「………して……」

 

「仕方ないの。そう仕方ないのよ」

 

「……ろ……し……」

 

「私もあなたのような人は出来れば殺したくはないのよ。でもルールだもの。女王の命令に逆らうほど、私は恩知らずではないのよね」

 

「……もう……ろして……」

 

「あなたと境界の話をしていた人の名前、特徴、それらを教えてくれれば、すぐに楽にしてあげる。何度も言ったと思うけど、私はちゃんと約束は守るから安心して欲しいわ」

 

「……もう……私を……」

 

「あなたみたいに粘り強い子は初めてよ。爪を剥がれ、皮を剥かれ、あちこち針で刺されても根を上げないなんて。拷問対策の訓練でも受けていたのかしら」

 

「………う……私を…ころして……」

 

「そこまで庇うから、お姉さん逆に興味が湧いちゃったのよね。あなたの大切な人なのかしら?それとも境界で強力な能力を扱える人?どちらにせよちゃんと殺さないと安心出来ないわ」

 

「……お願い…もう……私だけで……」

 

「あなたが話さないと、心苦しいけどあの学校にいる全ての人間を殺さないといけなくなってしまうの。犠牲は少ない方が良いでしょう?あと3時間だけ猶予をあげるから、その間に決めて頂戴ね」

 

「……何で……んで……」

 

「何度も言わせないで。仕方ないの。仕方ないのよ。私もこんな事はしたくないのだから。不幸な時間が長引いているのはお互い様なの。やっぱり1時間経つごとに、次は目を潰していくわね」

 

「………誰か………」

 

「良いわ。いくらでも助けを求めなさい。出来れば能力が使える人に聞こえるようにするのがオススメよ。そうでなければ何も状況は変わらないでしょうから」

 

「………だれか……たすけ……」

 

 

 

 

「おい!たっつん」

 

肩を揺すられて目を覚ます。思ったより寝ていたのか、教室は先ほどと比べて人がかなり増えていた。

 

また変な夢を見た気がするが、今度は何一つ思い出せない。

 

「おはようテラ。朝練終わりか?凄まじい体力でございますね」

 

俺を起こしたテラの額にはまだ汗が滲んでいる。確か陸上部だったか。朝から尋常では無い距離を走らされたりするのだろう。よく体を壊さずに生活できるものだ。素直に尊敬する。

 

「お前鬼島に呼ばれてるぞ。数学の課題ちゃんと出したのか?」

 

「うぇ、、?」

 

視線をやると、教室の入り口に学年主任の数学教師、鬼島が険しい顔で立っている。

 

「いやいやいや鬼島の課題に限ってやり忘れる訳ないだろ」

 

「なんか睨んでるしさっさと行ってこいって!後の授業に響いたら全員に恨まれるぞ」

 

慌てて席を立ち上がって鬼島の元へ向かう。

 

昨日課題は結局委員長が出してくれたはずだが、朝一が提出期限だとする遅れた事に変わりはない。

 

謝罪も無しに委員長1人に課題を出しに行かせたのは、やっぱりまずかったか?

 

「あの、先生、おはようございます。あ、すみません、課題のことなん___」

 

「いいから早くついてきなさい」

 

終わった。これはダメなやつだ。

 

教室を振り返ると、クラスメイト全員から同情の目を向けられる。

何とか後に引かないようにカバーしてやるから勘弁してくれ、と思いつつ教室に背を向け、鬼島の後を追う。

 

もはや静かになった廊下に自分と鬼島の足音だけが冷たく響く。

特に会話もなく、やや早歩きで職員棟へ向かっていく。

 

何だかなぁ、という感じだ。

真面目に生きるくらいはやっておこうという俺のポリシーが、ここ2日でズタボロになってきている。

 

というか、よくよく考えたら腹が立ってきた。

 

ヤンキーが猫を助けたら実はいい奴という評価になるのに、今まで真面目に生きてきた人が少し失敗したら無能でダメな奴という評価になるのは、やはりおかしい。

 

俺は今まで警察のお世話になる事は当然ながら一度もなく、遅刻も提出物を忘れたことも一度だってなかったのに。

 

たった一回遅刻しただけで2日に渡ってクラスメイトに公開処刑された上、これから密室で説教されるなど、そんな事があって良いのか。

 

つかつかと歩いていく鬼島の背中は、会議室で止まる。こういう説教って相場は狭い個室みたいなとこじゃないのかよ。怒鳴り声が広い部屋によく響きそうで本当に嫌だな。

 

鬼島のノックに、中からどうぞという返答が返ってくる。何これ。もしかして俺は今から複数の教師から説教される事になるのか。

 

委員長、まさか腹いせに俺の課題捨てたりしてないよな?流石にそんな事しないと思うけど…

 

扉を開け、失礼します、と一礼しながら部屋に入る鬼島に倣い、自分も部屋に入る。

 

「え?」

 

そこにいたのは校長と教頭、そして2人の警察官だった。

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