異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第18話「散々な迷走」

「どうぞ、おかけになってください」

 

校長に促されるようにして、パイプ椅子に座る。鬼島は扉の側に立ったままだ。まるで逃げ道でも塞ぐかのように。

 

何だか懐かしい緊張感だと思ったが、これはあれだ。ちょうど高校受験の時の面接みたいな。

いや横に受験生もいないし、警察もいるし、流石に緊張感の質は違うけど。

 

対面に校長と警察官2人が座っており、校長の横に教頭が立っている。4対1とは豪華な面談だ。出口には鬼島がいるから実質5対1か。

 

 

さて、何も心当たりがないと言えば嘘になる。

 

中学生の頃の例の喧嘩を根に持っていた「敵」が、高校3年生の受験シーズンになった瞬間に、この学校にある事ない事チクりに来て大事になっている、というのが第一予想。

 

第二予想は、昨日轢かれかけたトラックの運転手が、制服から学校を特定して、言いたいだけクレームをつけて警察沙汰になり、人物の特徴が見事一致している俺が呼び出されたということ。

 

第三予想はない。俺の人生のデカいやらかしはこの2回しかない。真面目に生きると決めたから。

 

俺は、真面目に生きるくらいは最低限やらないといけないんだ。

もう、あの時みたいに、親に迷惑はかけたくない。

 

誰に後ろ指を差されても構わないし、失望されても気色悪がられても特に気にしなかった。

でもあの時、あの喧嘩の後、両親がしていたあの顔は、忘れられない。あの顔はさせちゃダメだ。ダメなんだ。

 

覚悟を決める。何とでも言ってきやがれ。

都合のいいように真実を捻じ曲げても許されるのは夢の中だけだって、思い知らせてやる。

 

「えー、天童、達志くん?で合ってるかな」

 

向かって右側の、50代くらいの警察官がゆっくりと口を開く。

 

「はい、合ってます」

 

名前を誤魔化しても仕方がない。というか嘘をついたら信用がなくなる。

信用がないと分かれば警察は職務上、より一層厳しく対応しないといけないだろう。嘘はつかない。1つも。

 

「えーまず、昨日君が何をして、どう過ごしていたのかを、全部一度しっかり思い出してみて、何となくまとまったら私達に話してみてくれるかな」

 

昨日?やはりトラック関連か。

あいつクラクション鳴らして怒鳴るだけじゃ飽き足らず警察まで呼ぶのかよ。自分だってスピード出してたくせに。

 

「昨日は、人生で初めて……寝坊しました。それで、朝焦って、連休中にやった課題をカバンに入れるのに手間取って、電車通学なので、遅れると間に合わないから駅まで走っていて……」

 

何と言うか、覚悟を決めた割には緊張で結局、口が上手く回らない。

左の若そうな警察官がメモを取っていく。

 

だってもう、こんなの取り調べじゃないですか。

事情聴取じゃん。証言集めてるんです〜風にして犯人しか知らない情報が出ないか精査するやつじゃん。

 

「ちょっとごめんね。人生で初めて寝坊した、ってのは何か理由があったりするのかな?」

 

はい!明晰夢を初めて見た事でテンション上がって、その内容を夢日記に沢山書いていたら時間がいつの間にか過ぎて遅刻しました!

などと言う必要はない。

 

「連休中に生活リズムが崩れてしまって、何とか立て直そうとはしたんですけど、やっぱり連休の合間って事で気が緩んでいた部分はあったのかもしれません」

 

嘘をつかないということは、言わなくても良いことまでベラベラ喋らなくてはならないという事ではない。

 

自分は、必要以上に自分の能力について喋ったせいで隙を突かれて負ける噛ませキャラと同じ道は歩まないのだ。

 

「はい、はいありがとうございます。続けてください」

 

一度警察が鬼島の方に目配せをしたような気がする。本当に人生で初めて寝坊したのか後で確かめるつもりだろう。好きにすれば良い。

俺の真面目の積み重ねを存分に評価してくれ。

 

「えーと、それでもまだ何とか間に合いそうだったので、走って向かってところ、交差点に差し掛かったところで、トラックがクラクションを鳴らしながら目の前を横切り、運転手から罵声を浴びせられました。確かに僕も飛び出し気味ではありましたが、向こうもスピードが出ていたと思います。その時に尻餅をついたせいでバッグの底が抜けました。荷物を集めて何とか駅に辿り着いた頃にはもう電車はおらず……」

 

警察は、特に反応はない。若い方は相変わらずメモを取っているし、若くない方は相槌をしながら聞いている。

 

校長と教頭は一瞬顔を見合わせ、鬼島に視線をやったようにも見える。

 

やはりトラック関連か?だったらもうそろそろ会話が打ち切られても良いような。

 

「その後は遅刻して、ちょっと注意されましたけど、まぁ普通に学校生活を過ごしました。親切な友人がカバンをくれ……貸してくれたので、帰りはそれを使いました。底の抜けたバッグはロッカーに置いてあります。以上です」

 

まぁこんなとこだろう。

俺は何一つ嘘はついてないし、しっかりと話した。また詳しく聞かれたら適宜答えれば良い。

 

若い警察のメモを取る手が止まり、もう1人の警察と顔を見合わせ、首を傾げる。

そこで、やはり好きなように言われていたのだろうと確信する。相手は警察を舐めすぎだ。法に従って行動する警察官を、感情でいいように扱えると舐めていたのだ。

 

「えっと、もう終わりかな?もう何も話す事はない?」

 

若い警察官がこちらに問いかける。

これ以上無理に何か話そうとして、適当な事を口走ったら、こちらの信用がなくなるだろう。

 

こういう時は「ありません」で良いのだ。

感想とかと違って、喋れば喋るほど点数が稼げるわけじゃない。

 

「はい。大丈夫です」

 

警察官たちは困ったように首を傾げたまま、小さい声でどう思う?とか直接聞いてみます?みたいな事を喋っている。

 

しかしあの運転手が自信満々に因縁をつけてきたという事は、ドライブレコーダーを付けてないか、都合の良いように喋るためにデータを消している、まで考えなくてはならない。

 

あの辺りに監視カメラがあるかどうかは知らないが、周辺のどこかしらにはあるはずだ。

まぁあの様子なら、すぐに荒い運転をしてることがバレて信頼を無くすだろう。

 

警察官も大変な仕事だなぁと思う。自分だったらすぐに心が荒みそうだ。本当に尊敬する。

 

「えー多分君は、その交通トラブルで呼び出されたと思ったんだろうけど、実はその事は全く関係なくてね。昨日、まだ他に何かあったことがあれば、教えて欲しいんだけども」

 

「…………?」

 

え、違うの?えー、違うのか。

おいおいおい。えーなんか恥ずかし。

うわぁちょっと推理キャラの気分入ってたのに。

恥ずかし〜恥ずかしすぎる。

 

てか先生達にトラックに轢かれかけた事、全部聞かれたやん。これは親に話が届くやつやん。

 

終わったー。あーあ。

何が「能力バトルで喋らなくても良い事をベラベラ喋るような噛ませキャラにはならない」だよ。そのものだよ。そのもの。

 

「あの、本当に、心当たりあるの、こんくらいしかなくてぇ、あの、これ以外なら、多分違う人だと思いまぁす」

 

張り詰めていた気が、一気に抜けていく。

もぉ知らないよ。昨日はそれ以外で何一つ心当たりないよ。俺に双子はいないから赤の他人だよ。

そっくりなら多分ドッペルゲンガーだよ。

 

俺の顔は、目の前を男子高校生30人が通ったとして、美醜関わらず記憶に残る顔をしているのが20人いるとしたら、絶対に残りの10人の中にお前の顔がある、と昔友達に揶揄われたことがある。

 

そんな印象の薄い顔だから、あらゆる犯罪者の顔の特徴に当てはまる点を見出そうと思えば見出せる、と言われたら反論できない。が、流石に勘弁して欲しい。

 

警官達は、もう普通に聞いた方が早いだの、どこまで話して良いのか、みたいな事を校長と教頭にも軽く確認を取ってから、こちらに改めて向き直る。

 

「これは、無用な混乱を避ける為に、くれぐれも内密にしておいて欲しいんだけどね」

 

なんだろうか。俺に似た奴が同じ制服を着て「俺の名は天童達志!」とか言いながら犯罪でもしてるんだろうか。

 

「君のクラスメイトの崎野美良さんなんだけど、昨日から行方不明になってるんだ」

 

さきのみら、崎野美良?

いや誰だよ。女子の名前は覚えにくくて、アキラくらいしかフルネーム知らないのに。

 

「彼女は、君がさっき言ってた提出物を職員室に出しに来たのを最後に、行方が分からなくなっているんだ。些細な事でも良いから、知っていることがあれば何か教えてもらえないかな?」

 

顔の血の気が引いていくのが分かった。

 

委員長のことだ。

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