「行方、不明って……」
「まだ事件性があるかどうかって話ではないんだけどね。ほら、最近何かと物騒でしょ。それで_____」
俺のせい、か?
あの時、俺が断ったから、委員長は自暴自棄になってしまったのか?
あの時、正直俺は自分の事で精一杯だった。
委員長が話してた事も、あまり覚えてない。
どうにかして誤魔化すこと、どうにかして自分の平穏な生活を守る事、どうにかして中学の二の舞にならないようにする事、それだけを考えていたから。
委員長は自分なんかよりも遥かに、重度の中二病だったと思う。
俺は、自分に特別な能力が宿っていると考えた事はなかった。精々、現実でも出来そうな異能を習得した風に振る舞ってた事があるくらい。
だってフィクションはフィクションだ。
どれだけ祈っても本気を出しても、手から炎が出たり、瞬間移動したり、物を触らず動かしたりなど、現実では出来ないのだから。
でも委員長はあの時、未来が視える能力を使って、世界を守る戦いをしている、と言っていた。
未来を見た代償だから、体調不良なのも仕方がないと受け入れていた。
そう言われた時に、自分が途轍もなく惨めに思えた。
勉強の出来も負けて、中二病の質すら敵わず、夢の中ですら異世界に行けない自分の事が、堪らなく無価値な存在に思えて仕方がなかった。
だから怖くなって、話を終わらせた。
でもそれは全部自分の都合だ。
あの時の委員長の気持ちを、全く考えていなかった。
委員長だって相当な覚悟で話したはずだ。
きっと同じ話題で盛り上がれると期待したはずだ。
俺はそれを踏みにじった。遠ざけた。
今この瞬間に遠ざかっていく相手の「またいつか」なんて言葉には、何の期待も抱いてはいけないと、自分自身が、1番よくわかっていたはずなのに。
「多分、最後に会ったのがそこにいる鬼島先生で、その前に会っていたのが君だと思うんだ。何か思い出す事はないかな?様子がおかしかったとか」
こんな話をしても意味はないだろう。
無論、するつもりはない。
「…………委員長…崎野さんは、昨日体調が悪そうでした。何回か授業中、席にいなかったとも思います」
若めの警官がまたメモを取り始める。
若くない方の警官は、なるほど、というような顔をしながら、こちらの目を見て続きを促してくる。
「……提出期限を過ぎた課題は、学級委員が職員室まで出しに行く決まりがあるんです。だから僕は昨日、放課後に委員長が来るまでしばらく待ってました。荷物が置いてあったから教室に戻ってくると思ったのと、朝に提出物の事で声をかけられたからです」
警察が校長と教頭の方に少し目をやると、校長は少し、教頭はぺこぺこと、いずれも頷いている。
この学校には、期限を過ぎた提出物は、職員室に学級委員が届けに行かなければならない、というルールがある。
出された課題を紛失して出していない事にした教師がいたとか、提出していないのに出したと言い張って問題になった生徒がいたとかで、そんな規則が出来たらしい。
自慢ではないが、今まで提出物を忘れた事などなかった俺は、昨日の朝、委員長に話しかけられるまでこのルールの存在を忘れていた。
「やる事も無かったから全然待たされてもよかったんですけど、教室に戻ってきた委員長は凄く申し訳なさそうにしてて、自分が出しに行くから先に帰っていいよって言ってきたんです。流石に体調不良だった人に1人で出させに行くのは心配だったし、提出物も沢山ノートがあって重いだろうから同行するよ、と言ったんですけど…」
一度呼吸をおく。
夢日記のくだりをバッサリ切り落として、なるべく嘘のないように喋らなくてはならない。
例え後から誰かに聞かれても、何も間違った事は言ってないと分かるように。
「……委員長が突然、私が出しにいくって言ってるでしょ!って怒鳴ったんです。いつもそんな風じゃないので、結構びっくりしたというか。反射的に教室を飛び出したんですけど、後から考えてみたら、やっぱりまだしんどかったんじゃないか、と思って」
違和感は、無いだろう。
実際、自分も委員長が何で怒鳴ったのか、はっきりとは分からないのだから。
若い警官はメモを取ることをやめ、もう1人の警官に何やら小声で話しかける。
まぁそうだね、だの、だと思います、などとやり取りをした後、再びこちらを向く。
「えーと、他に何か気がついた事とかはないかな?」
「はい。昨日委員長……さんと話したのはこれで全てです」
もう委員長の名前を忘れてしまった。
昔から人の名前を覚えるのは苦手なんだよな本当に。
「なるほど。はい、では、特にこちらからは何も、ない?ないね。ご協力ありがとうございました。あ、そうだ。また何か分かった事があれば、こちらの電話番号までお願いします」
電話番号が書いてあるメモ紙を貰う。
使う事はないだろうけど、一応確認するフリをして、ポケットにしまう。
椅子から立ち、取り敢えず全員にぺこぺことお辞儀をして、会議室を出る。
鬼島の、失礼します、という声と共に扉が閉じられる。俺はその様子を呆然と見ていた。
現実味がない。なんかふわふわする。
思えばこんなに警察と長く喋った事が、今まであっただろうか。
鬼島の、ちょっと職員室まで来れるか?という声が遠くから聞こえる。トラックの事で何か聞かれるのだろうか。それとも課題の事か?
視界がチカチカして、歪む。立ちくらみか?これちょっと、酷い……
床に叩きつけられる。つめた。あー、なんか眠たいな。本当に、これが、全部夢であれば良いのに。
鬼島の大丈夫か!?という声が、うっすら聞こえる。
血も涙も無さそうな鬼島が人の心配をしているとは、あぁ、やっぱり、これは夢だな。
「……………」
「さて、そろそろ1時間経つわね。約束通り目を潰すから」
「……………」
「助けを求める事もやめてしまったの?声をあげれば、誰かが助けに来てくれるかもしれないのに」
「……………」
「お姉さん優しいから、右か左か選ばせてあげるわ。何も言わないならお任せって事になるけど?」
「……………」
「意志が固いのね。もっと刹那的に生きれば良いのに。じゃあ右にするわね」
その女が手をかざすと、アイスピックのようなものが右手に現れる。
そして特に躊躇する事なく、椅子に縛り付けられた委員長の右眼にそれを突き刺す、はずだった。
ガギン
鈍い音と共に、アイスピックの針は、突如現れた透明な壁に阻まれ、右眼を貫く事に失敗する。
「……………?」
「あらあらあらあら、向こうから来てくれるなんて、手間が省けて助かるわね」
山奥の小さな小屋、その一部をくり抜くように、立方体の透明な結界が出現する。
それは丁度、椅子に縛られた委員長を外に、凶器を持った女を内に閉じ込めるように、構築されていた。
「青の騎士、ランド・ブルータス、参上!!!!!」
青の全身鎧に身を包み、空のような色のマントをはためかせ、刀身がコバルトブルーの長剣を携えた、青づくしの騎士が上空から降り立ち、剣を前に構えてポーズを決める。
決まった。これはやっておきたかった。
さぁ、委員長。騎士が助けに来たぞ。