異能コレクターは気がつかない   作:素路

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第2話「チュートリアル」

足を一歩、また一歩と踏み出す。

 

今気がついたが、靴を履いていた。いつも履いてるやつだ。

 

一歩、また一歩と踏み出し、やがて一連の動作を「歩く」という行動に落とし込んでいく。

 

そして「歩く」を更に「前に進む」にまで省略、そうすれば「前に進まない」を選択すれば止まる。

 

夢で動けなくなるのは、いちいち細かい動作まで意識を向けるから。何も考えなくても行えるまで動作をパターン化する。

 

呼吸する時に酸素を吸って肺に空気を送り全身に空気をめぐらせ胸を膨らませた後、肺から全身を回った空気を排出しながら胸を萎ませ二酸化炭素を吐く、などと考えなくても、ぼーっとしている間も呼吸を忘れないように。

 

「夢での動作は問題なし。今までの思い通りにならない夢で慣れた分、余計に動きやっすい気がするなぁ」

 

銃を持った男が走ってきているのにモタモタ足がもつれそうになりながら逃げる夢を見た時は、流石に恐怖より何で撃たれてないのか疑問が勝ったものだ。

 

「現実的な体の動かし方はOK。問題はファンタジー身体能力のほう」

 

ビルからビルを飛び移る、ビルの屋上までジャンプする。落下してもノーダメージ。車みたいな速度で走る、この辺はやっておきたい。

 

「焦るな…無理でも仕方ない…いずれ来たる異世界生活において最強であるためには、身体能力は必須。イメージトレーニングはバッチリ!!電車の窓から自分の分身が走る妄想とかよくしたし、いける!!」

 

目標を適当な前方のビルに定め、道路のど真ん中で、一応クラウチングスタートを切る。

どたどた、どたどた、どてん。

転んだ。普通に痛い。

 

「ダメだ、多分オリンピック見たせいだ。それか何故か陸上大会で1人だけ一般人として走らされて物凄い置いてきぼりにされる夢見たせいかも」

 

クラウチングスタートは無理だ。やめよう。

 

「走るのはあとにして、ビルの屋上に地面からジャンプして着地。こっちのが現実味はないけど…」

 

充分に膝を曲げ、曲げて、勢いよく伸ばし、足で地面を蹴り上げ、飛び上がる。地面はその衝撃でひび割れ、クレーターのような穴ボコが出来上がる。特に何の感動もなく、ごく当たり前の現象かのように、ビルの屋上の少し上まで飛び上がり、着地した。

 

「まじか」

 

少年は柵越しに地面を見下ろす。先ほどいた場所に小さなクレーターが出来ている。

 

「いや、まじか」

 

嬉しさよりも困惑が強い。やってはいけない事をしてしまったような感覚だ。

 

「あーー、いやあまじかぁ」

 

徐々に喜びが奥底から溢れてくる。子供の頃に妄想したであろう行動ランキング第20位圏内には入るだろう事を、自分の意思で、自分の体で、実行してしまった。

 

「やば、めっちゃくちゃ楽しい」

 

唯一不安だとするなら、夢から覚めたときに同じようなことをしてしまわないか、という点。

それほどまでに、今の超跳躍は、自然に、自分が出来る行動として、受け入れ、実行することが出来た。

 

「さて、どうやって降りようか。網を乗り越えて飛び降りても良いんだけど、んー、バンジージャンプは見るだけでも怖いし、着地できるイメージが湧かないな」

 

飛び降りるのは恐怖でしかない。というかこの世界で死んだらどうなるんだ。その瞬間に目が覚めたり?それともイタタで済むのか。

 

「魔法が使えて治せたりとか出来たらなぁ。あ、魔法も一応やっとこ、『風の刃よ金網を切り裂け(カマイタチ)』」

 

構えた手から鋭い鎌のような風が勢いよく射出され、金網の1面を両断した。

 

「う、うぉぉ」

 

使えた。また特に何の疑問もなく、すんなりと、あっさりと、まるで今まで使えなかった事の方が異常だったかのように。

 

「………夢じゃないよな、いや夢なんだけど…」

 

魔法が使いたい、特殊能力が使いたい、誰もが小さな頃には抱いたはずの、他愛のない、くだらない、何の役にも立たない、ゴミみたいな、無価値な、無意味な、捨てて当然の、いつまでそんな物を大切に抱えて生きていくつもりだ、と嘲笑われて当たり前の、そんな夢。

 

「なんだ、使えるじゃん魔法。意味あったじゃんかよ」

 

夢だ。たかが夢。でもこの感覚は忘れない。この感動を、独りよがりで誰にも共感されないこの気持ちを、俺の初めての魔法を、俺は絶対に忘れない。

 

「カマイタチ、好きなんだよな。技名はよく考えたら妖怪の名前なんだよね。真空刃の方がそれっぽいけど、真空じゃ物を破壊できないだか何だかで、いや、ほんとに、風属性魔法でさぁ」

 

駄目だ止まらない。感情が溢れ出してしまう。

 

「斬撃攻撃って基本的には接近戦でしか使われない、刀剣や刃物による裂傷を与える物理ダメージが殆どなのに、カマイタチは無理なく遠距離かつ斬撃っていう要素を無駄なく取り入れていて、更に風という不可視の攻撃だから何が起こったのか分からず相手を切り落とせるし、例え風の動きを読まれてもサイズ変更や手数の差で回避不能の攻撃も出来る訳で、殴打刺突粉砕に比べて攻撃範囲の広さと威力が丁度いいバランスだし、ほんとに、いや本当に、最高の魔法なんだよ」

 

使わせてくれたこの世界に、自分と出会ってくれたカマイタチに、合掌。

 

しかし、折角両断してもらったが、流石に飛び降りるのは難易度が高い。建物内に入れる扉があるし、面倒くさいが徒歩で降りよう。

 

「多分エレベーターは動いてないよな。どこも電気ついてないし」

 

扉に向かってもう一度手を構える。いや、折角なら色んな魔法を使った方が良いのか?やはり手数の多さは強さに比例するだろう。

 

「なんか魔力とか消費する様子もないし、バンバン色んなワザ使って全部極めるか〜!!」

 

ドゴォォォォォォン

 

遠方から轟音が鳴り響く。

 

「なんだ?爆弾でも落ちた?俺の夢、物騒すぎだろ」

 

手元に望遠鏡が現れる。

 

とあるカメラアクション系のゲーム内で、ロケーションを発見するたびに性能が上がっていく望遠鏡を貰った事がある。

そしてその望遠鏡は観察したいと思った時に瞬時に手元に現れる。それの応用。

 

「こういうアイテムの瞬時手持ち移動って、描写の省略なのか使用者の能力なのか、それともアイテム自体に自動装備機能がついてるのか、大体の作品で特に説明ないんだよね。いや殆どの人はマジでどうでもいいんだろうけど」

 

望遠鏡を覗いて操作する。触るのは久しぶり、懐かしいのに手に馴染む感触だ。

この望遠鏡と共に様々な地形を旅した。戦闘能力は皆無だからモンスターに気が付かれて攻撃されて運命を共にしたり。

 

レベルMAXにするお題はキツすぎて変なYouTuberしかやってなかったんだよな。だから俺の望遠鏡はレベル84で止まっている。まぁレベル80からは大した新規能力が解放されるわけでもないから、良いんだけど。

 

「……またやるか」

 

ごちゃごちゃと湧き出る思い出を振り払って覗き込み、爆発のような音がした地点をズームする。

 

「なんかあの辺りだけやけに空が暗くないか?落雷とかあるのかな、この世界。てか、え?」

 

高解像度モードをオンにするまでもなく、それを捉えた。ビルが直線上に破壊されている、更にその先に、それはいた。

 

「ドラ、ゴン?」

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