異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第4話「夢の代償」

今日は5月7日の木曜日。

 

前日まで超最高の連休期間、通称ゴールデンウィークを過ごしていた、はずだったのだが膨大な課題によって、それも殆ど無かった事にされてしまった。

 

残酷な事に連休の谷間にもしっかりと授業は存在しており、木金と2日だけ学校に行って土日という、楽なんだか辛いんだか、よく分からない日程となっている。

 

「軍服刀剣使いの才女……」

 

「早く食べないと遅刻するよ」

 

母に急かされ、朝食を喉に流し込む。

 

朝ごはんの納豆は、個人的に気分がいい日と悪い日がある。この日はいつになく喉をすんなり通らない、つまり気分が悪い日だ。

 

彼女を助け損ねた後悔のように、喉につっかえて仕方がない。

 

[……市では、少年らが相次いで意識不明の状態で発見されており、警察は事件事故の両面から……]

 

テレビで時刻を確認する。夢日記を書くのに夢中になっていたせいで、割と遅刻寸前だ。

 

悪い事ばかりではないと、明晰夢を見る事に成功した喜びを噛み締めようとするが、口にネバネバした感触が広がり、慌てて無理やり味噌汁で流し込む。

 

天童達志。高校3年生。

正直勉強が出来る方でも、かといって運動が出来る訳でもない、特に取り柄のない人間。

 

そんな人間なので、せめて真面目に生きる事くらいはやっておかなければならない。提出物を出し忘れた事はないし、遅刻など論外だ。

 

[……………の件を受けて警察関係者らが調査したところ、全国的に死者、行方不明者数が前年よりも倍以上増加している事が明らかとなりました。これを受けて警察は、パトロールを強化すると共に……]

 

当然、事件事故に巻き込まれた事もなければ、犯罪行為をはたらいた事もない。危ない事はしないし、危険な場所には近づかない。

 

「ごちそうさま、いってきます」

 

「落ち着いて行きなよ。忘れ物ない?」

 

「ん。んなぁ、やべ課題入れてないじゃん!」

 

慌てて2階へかけあがる。そして自分の部屋を見て絶望する。

ロクに整理整頓されておらず、勉強机や床にはノートがあちこちに散らばっている。

 

「あー最悪最悪最悪最悪、どこだどこどこどこ」

 

このくだり、何回もやったような気がするが、未だに汚部屋綺麗大作戦は実行されていない。

 

下手に整えると逆に物が無くなるという持論を展開すれば、キレられること間違いなしなので、いつかやる事にして先延ばしにしている。

 

「あーーー??今日はやばいぞ、マジかよぉないないない」

 

普段なら長くても2日前の記憶を辿ればどこに何を置いたのか思い出せるが、今回は連休序盤の自分が相手だ。どこに課題をほっぽり出したのかなど、まるで覚えていない。

 

「時間ない時間ない時間ない時間ない……おーーーっけ!!おけ!!よし、この辺のノート全部持っていきましょう。後悔させんなよ〜」

 

捜索は打ち切り。電車に乗り遅れたら課題提出どころの話ではない。バッグに無理やりそれっぽいノートを全部詰め込んでいく。

 

パンッパンに膨らんだバッグはボーリングの玉でも入れたのかという重さになった。しかしもう迷っている暇はない。無理やり全てを封じ込んで背負い、玄関を飛び出す。

 

「行ってきまーーーす」

 

「車に気をつけなさいよ〜!!」

 

後ろにとてつもない重量を感じながら走り出す。駅まで走れば10分。遅刻ギリギリの電車が駅に到着するまで残り10分。あ、今残り9分になった。

 

「重すぎる……くそー俺が何の罪を犯したって言うんだ」

 

走り出してからようやく気がつく。

やばい、これ間に合わないぞ。こんなの持って走っても絶対間に合わない。

 

「いや。無理だ。これは。無理。あー無理。これは」

 

体から汗が吹き出す。肩紐がめり込んで痛い。足も重い。肺が苦しい。心臓が裂けそうだ。なんか、目眩もするし。やばい納豆出そう。

 

諦めそうだったその時、ボヤけた視界が、信号のない交差点を捉えた。

それは希望。家から駅までの中間ポイント。

あれを超えてもう少し走れば間に合う。

腕時計を見る。残り4分。ここが本気を出すときだと言い聞か__________

 

ビイイイイィィィィィィィィイイィィイ

 

けたたましいクラクションを鳴り響かせながら、すぐ目の前をトラックが通過していく。

 

「あぶねぇぞバカガキゴルァぁあー!!」

 

走り去って行くトラックの運転手に罵声を浴びせられる。

何が起こったんだ。分からなかった。

 

「あ」

 

尻餅をついた衝撃でバッグの底が破れたのだろう。立ち上がった瞬間に、中から大量のノートが溢れ落ちた。

 

「あーーーー」

 

拾い集めて、どうする?バッグを逆さまにして持っていけば、何とかなるか?

 

家に戻りたくはない。事故りかけた挙句に整理整頓してないのが理由でこんな目に遭ったなど、言いたくない。いやそんなことよりも。

 

慌てて腕時計を見ると、電車の出発時刻を指し示していた。

なぜこう言う時の時間は無意味に早く過ぎ去るんだ。

 

「あーあ、あのトラックに轢かれてれば、異世界転生できたかもしれないのになぁ…なんて。へへ」

 

誰に言い訳するでもなく、ヘラヘラしながらノートを拾い集めて、穴が空いたバッグを逆さにして詰め込む。

 

もう走らない。というより走る気力がない。

弾けそうなバッグを前に抱えながら、情けない格好でトコトコ歩いて行く。

 

 

その日、俺は人生で初めて遅刻をした。

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