異能コレクターは気がつかない   作:永戸陽介

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第6話「相対的な世界」

窓ガラスの向こうの赤くなった空を見て、時間の流れはやはり一定ではないものだなぁと、改めて感じる。

 

朝、立て続けに起こったトラブルの連続。しかしそれ以降はごく普通の1日と何ら変わらなかった。

 

授業が始まり、授業が終わり、授業が始まって、授業が終わって、授業が始まったと思えば、授業が終わっていく。

 

昼飯を食い、テラに炭酸を奢り、大量のノート達を課題とそれ以外に選別し、その様子をアキラに笑われ、そしてまた授業のはじまりと終わりが繰り返され、現在に至る。

 

普通なら即行で帰るところだが、教室に一人きりで残り、ボーッと外を眺めている。

 

楽器の音が聞こえる。吹奏楽部か軽音部だろうか。何やら歓声が聞こえる。運動部が何かの記録でも更新したのだろうか。

 

部活の掛け声、鳥の鳴き声、廊下を通る喋り声、階段を降りていく足音、窓を閉める音、何やら注意している野太い声。

 

「あ、ご、ごめんね。すごく待たせちゃって」

 

そして後ろから聞こえる誰かの声。待ち合わせでもしてたのだろうか。

 

「………あ俺か」

 

朝よりは多少顔色が良くなった委員長が教室へ入ってくる。待ち人来たる。結構待った。

 

一限のあの時以降、やはり体調が優れなかったのか、委員長の席は午後の授業中、荷物だけが取り残されて、空いたままだった。

 

そんなこんなで声をかけるタイミングがなく、とは言っても、流石に保健室まで確認しに行くのは気持ち悪い奴だと思われかねない。

 

よって、荷物を取りに来るであろう時間まで待つ、との結論に至ったのだ。

 

「いえいえ。ボーッとしてただけだからお気になさらず。てか本当に大丈夫?体調悪いなら別に明日以降でも…」

 

別にいいけど、と言いかけて気がついた。

 

普通にそこそこの時間、誰もいない教室で待ち続けているのも、それはそれで気持ち悪い奴じゃないか。

 

「ううん、もうほぼ治ったから大丈夫。提出物はそれかな?私が職員室に持って行っておくから、先に帰って大丈夫だよ」

 

「え?いや流石に申し訳ないって。元はといえば俺の遅刻が…」

 

朝と同じようなことを言いながら椅子から立ち上がる。焦ったせいで机の角に足をぶつけ、積まれていた課題のノートがばさばさと床に落ちる。何てダサさだ。

 

こんな時に主人公の勇者であれば、「気を使わせてすまない。だがこれは俺の責任でもある。君は俺を見守っていてくれるだけで充分だ(キリッ)」くらいは言ってスマートに課題を…いや、俺が言っても気持ち悪いだけか。

 

またどうでもいい事を考えながら、床に散らばったノートを拾おうとする。

 

「は?」

 

体が硬直する。全身の血の気が引いていく。

 

散乱したノートの中に、1冊だけ開いた状態のものがあった。

 

<<5/7木 前記。

睡眠前に行った事。腹筋背筋を各150回ずつ行ったのちに入浴。風呂上がりに歯を磨きながら体を冷やす。今回は上裸。そのままゲームを行う。肌寒くなったら服を着る。今日は明日までのランキングマッチを詰めるが、眠気が来たら電気を消して布団に寝転がる。

 

後記。

遂に明晰夢を見る事に成功。だがしかしそこはファンタジーな異世界ではなく、人のいない綺麗な都市だった。試しに異世界に変われと念じてみたが効果はない。どうやら体は自由に動かせるが、舞台を変える事はまだ難しいらしい。しかしその程度でへこたれてはならない。世界を操作できるようになるまでに、完璧に体を動かせるように練習をしておく。まずは超速ダッシュ。しかしこれは失敗。もっと自分が早く動けるイメージをすることが大切か?次に超高度ジャンプ。なんとこれは成功。幼少期からの妄想が遂に身を結んだ。一応魔法も使ってみる。まさかの成功。風の刃、カマイタチで金網を切り裂いた。そうこうしていると街にドラゴンが出現。街といえば怪獣だが、それにしてはファンタジーな見た目の赤黒いドラゴンを、以前遊んでいたゲームの不遇魔法、ドラゴンバスターキャノンで一撃粉砕。やはり汎用性の低いワザが真価を発揮した時の喜びは代えがたいものがある。カメラアクションゲームのアイテム達もかなり役に立ってくれた。すんなりと呼び出す?用意する?事が出来たのは、やはり思い出深かったからだろうか。勇敢にドラゴンと戦っていた軍服刀剣使いの才女を救出しようとしたところで、目が覚めた。続きは見れるのだろうか>>

 

 

俺の、今日書いた夢日記だ。何で、こんなところに。

 

委員長に目をやる。ノートを凝視して固まっている。終わった。見られた。見られている。

 

まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずい。

 

どう誤魔化す?どう切り抜ける?どうすれば助かる?どうやって、どうにかして、どう、どうすれば、どうやれば。

 

委員長はこれを言いふらしたりするような人では、無いと思う。無いと信じたい。

だが人間の本心など、誰にも分からないものだ。

 

すました顔でのうのうと学校生活を送りながら、頭の中では異世界に行きたいなどと本気で考え、ゲームに登場したワザやアイテムをメモしながら異世界生活に備え、転生は怖いから思い通りの夢を見ることで叶えようと真剣に画策している自分が、最もいい例だ。

 

人間の本心などぱっと見でわかるものではない。

 

「あ…あの、委員長、これは…えっと」

 

委員長は、ゲームで遊んだりしないはずだ。

見た目的にそうだ。そう判断した。

このノートはゲームの日記だという事にする。

 

誠心誠意の対応をする事で誰も幸せになれないのなら、最もらしい嘘でその場を包んで、お互いに傷がつかないように解決するしかないのだ。

 

どうにかしてこれをゲームの日記だと思い込ませる。

覚悟を決めろ、天童達志。

2度と同じ過ちを繰り返さないと、誓ったはずだ。

 

しかし自分から声が出るより僅かに早く、委員長の口から言葉が発せられる。

 

「天童くんが…そう…なんですか?」

 

え、なんだ。なに。何が。

何も分からない一言から、その意味を汲み取ろうと集中していると、更に言葉が発せられる。

 

「私も、私もなんです。私も、同じなんです」

 

何が同じなのか。

その意味を理解するまで、既に薄暗くなってきた教室は、まるで時間が止まったかのように、静寂に包まれていた。

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