アークナイツ「慈悲光塔」RTA 1098年10ヶ月 作:おじさん
本筋には影響しない話(つまり自己満足)なので、飛ばして、どうぞ。
「本当に覚えていないんだな!?」
「覚えていない! 何度聞くつもりだお前は! これでも俺は怪我人なんだがな!!」
「もう痛くないだろ」
「痛いわ!!」
「なんと喧しい……」
レヴァナントは横たえていた身体を持ち上げる。眠ることを諦めたのだった。
「ホルス・モーヴィスト……と言ったか? 俺はここ数日寝たきりのお前のことしか知らん。そもそもお前、立てるのか?」
「立てるとも。立ってみせようか」
「駄目だってば! 安静にしてくれと言っただろう!」
寝床の縁に手をついたところを騎士に止められる。なんと心配性なことかとレヴァナントは不満気な顔をしたが、現在のレヴァナントは未だ足に大きな打撲痕を抱えているため、当然であった。
「そのように貧弱な身体、俺はさぞ割を食ったことだろうなァ」
「まあ……貴方に手伝って貰ったという意味ではそうだな。嫌そうな態度の割には真面目にやるものだから、驚いた」
「当然だろう。そういうものだ」
「そうか、では有言実行しているというわけだ。貴方は覚えていないだろうが、貴方に庇ってもらったからな」
「フン、俺に庇わせておいてその体たらくか? 底が知れるな」
「エドウィンッ……!! すまないホルス嬢、こいつは昔からこうなんだ……!!」
「構わない。子猫の威嚇みたいなものだろう」
「なんッだとお前ッ!! 誰が子猫のぁイダッ!!」
「静かにしてくれ、頼むから……」
「おまっ、お前ッ……怪我人の頭を殴ったのか……!?」
信じられない、という顔で高慢な騎士が振り向く。
騎士は、旧知である高慢な騎士の前ではどうも粗雑になるきらいがあった。
見ていて面白いから止めはしないが、とレヴァナントはそれらを眺めていた。
「以前の情報の共有は必要か?」
「……粗方はこいつから聞いている」
「そうか。貴方が台車で怯えていたのもか?」
「怯えてなどおらんわ馬鹿者。お前の目は節穴のようだな」
「いやーあれは怯えてたな。あんなに全力で縁を掴んでおいて怯えてないは無理があるッダァッ!!」
「お前は黙っていろ!」
信じられない! という顔で騎士が高慢な騎士の背中を見つめる。
高慢な騎士は、旧知である騎士が調子に乗ると力で黙らせるきらいがあった。
これもまた見ていて面白いから止めはしないが、とレヴァナントはそれらを眺めていた。
「俺が気になっているのは、真にお前があれを御したのかだ」
ふむ、とレヴァナントは思案する。
御したという表現は恐らく適切ではない。レヴァナントは推測に推測を重ね、なにもかもが不確定な状況で賭けに出たのみだ。
ただ、運よくそれに勝利したに過ぎない。
……が、しかし。それらは一旦別として、説明は必要であろう。
レヴァナントは思考を振り切り、高慢な騎士な騎士へと向き直った。
「アレに攻撃が通らなかったのが何故か分かるか?」
「知らん。分からん。お前は分かるのか」
「推測の域を出ないが」
「構わん。話せ」
「ふむ……では貴方の知る岩角獣に付着していた黒色を崩壊、貴方が吹き飛ばされた後に出てきた化け物を悪魔と呼ぼう」
「悪魔? サルカズということか?」
「違うな。それはテラに生きる者がその姿をなぞらえた呼び名だ。サルカズはサルカズに過ぎず、悪魔は悪魔に過ぎない」
そういうものか、と高慢な騎士は素直に頷く。
騎士はどこか気まずそうな表情をしていた。
「本題に入ろう。まずあの岩角獣の動きは崩壊によって本来の生態から逸脱していた。恐らくだが、崩壊が深くまで侵食した者は自身を認知した者を排除しようとする性質があり、我々はそれに巻き込まれただけだ」
「……なるほど、最初はあのエラフィアを排除しようとして、次に追ってきた騎士を排除しようとしたわけか」
「そうだろうな。そして崩壊という現象は、侵食した箇所の現実性を下げる特性がある」
「……??」
高慢な騎士は首を傾げる。種族が種族だったら背後に宇宙が透けて見えるような表情を浮かべていた。
まあそうか、とレヴァナントは苦笑する。レヴァナントもまた自身が直面した現象を正しく語れる訳ではないのだ。人にそれを伝達するのも容易ではない。
「……この辺りは私にもよく分からない。ゆえ、上手く説明が出来ない……崩壊に侵食されたら、“あり得ないこと”が起こるのだと思ってくれ」
「……???」
「あ、あー……えっと。剣で切っても切れていないとか、そういうことか?」
「ああ、それだな」
騎士が咄嗟に出した助け舟にレヴァナントは乗る。
それで合点がいったのか、高慢な騎士も曖昧ではあるが頷いた。
「話を続けるぞ。しかしあの岩角獣は全身が崩壊していた訳ではない。たとえ崩壊が付着していたとしても、付着箇所を避ければ攻撃は通る」
「まあ、だから俺も騎士を相手に出来たわけだからな」
「……ああ、そういえば追手もその崩壊とやらが付着して正気を失っていたのだったか」
「問題は悪魔だ」
「俺がお前を庇ったとかいう、あれか」
「それだ」
レヴァナントは頷く。
高慢な騎士の全く覚えていない記憶。己の知り得ない、怪我の原因。カジミエーシュにとって──この大地のほとんどにとって、未知なる脅威。
「悪魔は……恐らく、その存在自体が崩壊で形作られている。全身崩壊野郎といったところだな」
「どこを切ってもまるで切れなかったからなあ」
「それをお前たちは撃退したという話だったな」
「ホルス嬢が攻撃出来るようにしてくれたからな」
「どうやった?」
レヴァナントは当時の思考を思い出すようにして、脳裏で説明を組み立てる。実際に合っているだとかどうかはさておき、現象の説明は必要だ。
ここからは殆どが推測だが、と言葉を置いてからレヴァナントは口を開く。
「源石には恐らく崩壊に対抗する力がある。私は源石をエネルギー化した空間を作り出し、悪魔はそれに取り込まれた」
「お前の作り出した空間とやら……対抗する力が強力だったから、奴の崩壊は剥がれたということか?」
「剥がれたというのは適した表現ではないな……中和……否、こちらの土俵へと引きずり込んだ、とでも言うべきか? 表現が難しい」
「いいだろう。お前が成した現象への説明は後だ。なにはともあれ、それによって攻撃が通るようになったということだな?」
「ということになるだろう。何せ私の知らない脅威だ。これがすべてとは言えまい」
「そして、アルバートがそこを攻撃した」
「目が潰れるかと……」
「気絶していてよかったと初めて思ったよ」
「クッ………!!」
悔しげに歯噛みする騎士を、高慢な騎士が鼻で笑う。どうやら彼もまた騎士の光を直接目にしたことがあるらしい。
騎士に『蛍光虫野郎』とあだ名をつけたのは恐らく高慢な騎士なんだろうな、この二人はどうやら相当な仲良しのようだから。とぼんやり思案する。
「つまりお前の術というのは……源石をそのままエネルギーに変換するアーツ、ということか?」
「いいや? 巫術だ」
ピク、と騎士の耳が揺れる。
耳に現れた動揺も、驚いたような表情も、騎士より前にいる高慢な騎士の目に写ることはない。
しかし、向かい合っていたレヴァナントはそれに気付きながらも言葉を止めることはなかった。
「……巫術? それはアーツと何か違うのか?」
「そうだな、別の技術だ。調べてみるといい」
「お前が直接教えれば済む話だろう。なぜ俺が……」
「ここで教えても面白くない。それともなんだ、サー・エドウィン。調べものは苦手か?」
「言ってくれるな! 行くぞアルバート、このクソ度胸に一泡吹かせてやる!!」
「ッだから安静にしてろ! ホルス嬢も! 分かってて煽っているだろう!」
「すまない。いやなに、こうも愚直に反応してくれると面白くてな……」
レヴァナントのすべての煽りに真面目に反応する高慢な騎士は、言わば打てば響く状態だった。
もはや隠す余地などはないが、高慢な騎士はプライドが高い割には驚くほど真面目かつ律儀であった。
これを信頼する仲間はさぞ多いだろうなあ、とレヴァナントは微笑む。
「資料が見つからなかったときは、王に尋ねてみてはどうだ。医者から王は知に富んでいると聞いたが」
「ふむ……まあ、それもいいか」
思考の落とし所を見つけたのか、高慢な騎士は頷いてから己のベッドへと戻っていく。
かと思えば間髪入れずにサイドテーブルに置かれた、びっしりと文字の記された羊皮紙に目を滑らせるものだから、本当に真面目な奴だなあ、とレヴァナントは感心しつつ笑うほかなかった。
そこに、気まずそうな表情のままに騎士が寄ってくる。
小さく声を潜めて、内緒話でもするかのような声量で騎士はレヴァナントに声をかけた。
「ホルス嬢……」
「なにか」
「いや、その……巫術というのは……」
「知っているのか?」
レヴァナントは白々しくそう尋ねる。
騎士がそのような表情を浮かべる理由をレヴァナントは察している。
きっと騎士の周囲には知識人が居たのだろう。それこそ、サルカズにしか扱えないアーツを知るほどの知識人が。
知っているはずだ。そうでなければあのような反応をしたりはしない。
それでも騎士がそれを口にしないのは、親愛ゆえだろうか。それとも、恐れているのだろうか。
「……なんでもない。少し無理をさせたかな、悪い」
「問題ない。しかし、我々ほどでは無いとはいえ貴方も無理をしたんだ、少し休んだらどうだ」
「それもそうだな。少し仮眠を取ってから行くよ」
「チェスでもするか?」
「怪我人をを寝床から引きずり下ろす馬鹿がどこにいる! 俺はこの椅子で寝るに決まっているだろう! 借りても!?」
「ッフフ、どうぞ」