3-3
夜の体育館
ガルデモのライブが響く中、空気は熱を帯びていた。
Alchemyの激しい演奏と観客の歓声が夜の校舎を震わせる。その裏側では、誰にも知られないもう一つの戦いが静かに始まっていた。
体育館の外
仮面の戦士へと変身した乾巧――ファイズと、生徒会長・立花奏が向かい合う。
先に動いたのは奏だった。
右腕のハンドソニックが閃く。 一気に間合いを詰め、鋭い斬撃を放つ。
ファイズは後方へ跳びながらそれを受け流すが、直後には左腕の刃が追撃のように襲いかかった。
止まらない連撃。
ファイズは装甲と最小限の動きで攻撃をいなし続けるが、反撃へ転じる余裕はない。
監視映像を見ていた日向が思わず声を上げる。
天使の部屋
「うわっ、やっぱ天使速ぇな……!」
「でも普通に受けてるわね、アレ」
ゆりは腕を組んだまま画面を見つめる。
「少なくとも、生身じゃないのは確かみたいだけど」
音無が小さく呟く。
「変身しただけであそこまで動けるのか……」
だが、ゆりの視線は鋭いままだった。
防げている。 しかし押されてもいる。
奏は相手の性能を測るように、少しずつ圧力を強めていた。
「……様子見されてるわね」
その頃、ファイズも攻めあぐねていた。
隙を見て拳を叩き込む。
だが攻撃は奏へ届く直前、見えない壁へ弾かれる。
鈍い衝撃。
「っ……!」
さらにもう一撃。
再び防がれる。
「またアレかよ!」
苛立ち混じりに放った拳が、三度目の衝突を起こした瞬間だった。
透明だった防壁に、小さな亀裂が走る。
ゆりの目が細まる。
「……今、ヒビ入った?」
日向も画面へ身を乗り出した。
「マジだ!」
奏の表情が僅かに変わる。
「……干渉」
小さな呟き。
同時に、竹山が勢いよくキーボードを叩く。
「保護層への侵入成功……! 今です!」
「竹山くん、維持しなさい!」
「だからクライストと――いや今はいいです!」
珍しく名前への拘りを捨て、竹山はモニターへ食らいつく。
画面の向こうでは、バリア表面へノイズが走り始めていた。
防御システムそのものが不安定になっている。
ファイズはその隙を逃さない。
腰のホルダーからファイズポインターを取り出し、右足へ装着する。
『Exceed Charge』
低い電子音。
赤い光が全身を走る。
「また何か始まったぞ……」
日向が呟く横で、ゆりは黙ったまま映像を見つめていた。
空気が変わる。
ファイズが跳ぶ。
高く。
さらに高く。
空中で身体を捻りながら、一点へ力を集中させる。
その瞬間、モニター越しに戦闘を見ていた音無の脳裏に、さっきの光景がふとよぎった。
(そういえば今日は、よく喋ってたよな)
――なんかやり切ったみたいな顔してなかったか?
――おい、お前…
(もしかして、アイツ…)
……一瞬だけ、思考が戦場から外れかける。
だが次の瞬間には、目の前の光景に意識を引き戻されていた。
赤い円錐状の光。
その先端が、亀裂の入ったディストーションを捉えた。
奏も即座に反応する。
防壁を重ねるように、さらにディストーションを展開していく。
「うわ、まだ増やせんのかよ……!」
日向が引き気味に漏らす。
音無も思わず息を呑んだ。
「……あの高さから蹴る気か」
ゆりは小さく目を見開く。
「何する気……?」
次の瞬間。
ファイズが赤い光を纏ったまま急降下する。
「はああああっ!!」
激突。
赤い光が防壁へ突き刺さる。
一枚。
また一枚。
ディストーションが砕け散っていく。
それでも奏は防御を維持し続けた。
だが――
「保護層、崩れます!」
竹山の声。
その瞬間、ディストーション全体へ大きなノイズが走る。
限界だった。
防壁が崩壊する。
砕け散る光。
クリムゾンスマッシュが貫通する。
奏は崩壊の瞬間を察知し、紙一重で後方へ回避した。
直後、校内放送からギターの音色が流れ始める。
静かなバラード。
切なく響く旋律。
ゆりの表情がわずかに変わった。
「……この曲」
聞き覚えがある。
今朝、岩沢が聴かせてきた曲だった。
作戦には向かない。 そう言って却下した曲。
その旋律が、夜の校舎へ静かに広がっていく。
モニター室の空気が、一瞬だけ止まった。
誰もすぐには喋らない。
最初に口を開いたのは日向だった。
「……今の、決まったよな?」
「……分からないわ」
ゆりは画面から目を離さず答える。
その視線の先では、奏がまだ立っていた。
そして、ファイズも。