乾巧は死後の世界で目を覚ます。   作:小虎555

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EP5-1

 朝、9時。

 

SSSのメンバーが集まり、今日の作戦について話し合っていた。

モニターには、ゆりが書いた作戦名が表示されている。

 

『天使赤点大作戦』

 

「今回の目的は、天使にテストで赤点を取らせることよ」

ゆりが説明する。

 

「竹山くんは天使の答案を入れ替えて」

 

「了解です」

 

「日向くん達は先生と天使の注意を引いてちょうだい」

 

「任せろ!」

それぞれが役割を確認していく。

 

その少し離れたところで、巧は黙って話を聞いていた。

やがて、作戦の説明が終わる。

 

「……で、乾はなんも無いのな」

 

 岩沢が巧を見る。

 

「ああ」

 

「乾くんは別にいいわ」

 

 ゆりが面倒くさそうに言った。

 

「そうか」

 

「……なんか安心してないか?」

 

「……よく分かったな」

 

「認めるのかよ!」

 

 日向が突っ込む。

 そんなやり取りをしながら、作戦会議は終わった。

 メンバーが次々と部屋を出ていく。

 やがて残ったのは、ゆり、岩沢、そして巧だけになった。

 巧は腕に着けている時計型のデバイスを確認する。

 

「……」

 

ボタンを押す

反応がない。

もう一度押す。

 

「……電源入んねぇ」

 

「壊れたの?」

ゆりが尋ねる。

 

「修理したんじゃなかったか?」

岩沢も覗き込む。

 

「……アイツ忘れてやがる」

 

「じゃあ、持っていけば?」

 

「またあそこまで行くのかよ……

てかこのケースいい加減手が塞がってめんどくせぇな」

 

「そういえば音楽室にエナメルバッグがあったな」

 

岩沢が言う。

 

「エナメル?」

 

「野球部とかが使ってるバッグだよ!肩に掛けるやつ。

それ使えばいいんじゃないか?」

 

「ああ、アレか……いいのか?」

 巧は立ち上がった。

 

「ずっと放置されてるし持ち主いないんだろ。いいよ使いな」

と岩沢も立ち上がる。

 

「じゃあ行くぞ」

岩沢も続く。

ゆりは二人の背中を見送った。

 

「……アンタら仲良いわね」

 

巧は振り返らない。

岩沢だけが少し笑った。

二人は地下を出て、学校の廊下を歩いていく。

朝の校舎は静かだった。

 

そのまましばらく歩いていると、廊下の向こうから一人の少女が歩いてきた。

 

岩沢が何気なく視線を向ける。

 

「あ」

向こうから歩いてきた少女も、岩沢に気づいたようだった。

 

「あ、岩沢さん」

 

「長田か」

 

その少女――長田結花は、SSSの服飾関係を担当しているメンバーだった。

 

制服の修繕や衣装の準備など、表立って目立つことは少ないが、SSSの日常を支える仕事をしている。

 

長田は岩沢の隣にいる巧へ視線を向けた。

 

「岩沢さんが最近よく一緒にいる人って……乾って名前ですか?」

 

「そうだけど…」

岩沢が答える。

 

「知り合いなのか?」

 

「ええ……多分ですけど」

長田は巧を見つめた。

 

「もしかして菊池クリーニングで働いてた乾さんですよね?」

巧は少し眉をひそめた。

 

「記憶喪失なんだから知り合いかどうか分かるわけないだろ」

 

「あ」

岩沢が一瞬固まる。

 

「おっと、そうだった。すまん」

 

「長田、聞いての通りコイツ記憶喪失でな。で、見た感じどうなんだ?」

長田は少し困ったように巧を見る。

 

「記憶喪失…そうなんですか……」

少し考えてから、改めて巧の顔を見る。

 

「見た目はかなり一致してますし、名前も乾で合ってるようなので……知ってる乾さんだとは思うんですが……」

 

「とりあえず、俺のこと知ってるのか?」

 

「あ、はい」

長田は頷いた。

 

巧は持っていたケースを下ろし開けて中を見せる。

 

「じゃあ、これ知ってるか?」

中からファイズフォンを取り出して、結花に見せる。

長田は首を傾げた。

 

「……なんですか、それ?」

 

「……」

 

 巧の手が止まる。

 

 岩沢も長田を見る。

 

「初めて見ました」

 

 短い沈黙が落ちた。

 

「そうか…」

 

少し残念そうに巧は呟くと

いつの間にか近くに来ていたひさ子が横から口を挟んだ。

置いてあるアタッシュケースを見る。

 

「それ、長田は見たことないのか?」

 

「はい。初めて見ました」

 

「そっか……」

 

 ひさ子は少し考える。

 

「そういやちっちゃい頃、暇だったから見てたテレビのヒーローが、仲間に隠れて怪獣と戦ってたりしたな」

 

「それがどうした?」

岩沢が尋ねる。

 

「いや、そこの乾も似たようなことやってたんじゃないか?」

ひさ子が巧を見る。

 

「だから長田は知らないとか?」

 

「凄いなひさ子」

と岩沢は感心する。

 

「……なるほどな」

巧も納得したようにケースを見る。

 

「そこの乾は、そのベルトを使ってあの天使と一対一で戦って、退かせたんだぞ」

長田が驚いたように巧を見る。

 

「そうなんですか? あの天使と?」

 

「そういうことだ」

ひさ子が肩をすくめる。

 

「まあ、知らなかったならしょうがねぇな」

巧も特に疑問を持った様子はない。

 

「……そうだな」

長田はもう一度ファイズフォンを見る。それ以上は何も言わなかった。

 

「じゃあ、今いろいろ聞いても混乱しそうですし。私はそろそろ戻りますね」

 

「ああ」

 

 長田は岩沢に軽く頭を下げ、そのまま廊下の先へ歩いていった。

姿が見えなくなってから、ひさ子が岩沢を見る。

 

「岩沢」

 

「ん?」

 

「ライバル出現だな」

岩沢は少しだけ眉を上げた。

 

「なんの話だ?」

 

「……いや」

ひさ子は呆れたように笑った。

 

「なんでもねぇ、忘れ物取ってくる」

ひさ子は少し考えてから、廊下の先を見る。

 

「……まあ、ちょっと面白くなりそうだな」

 

その後、ひさ子は一度忘れ物を取りに戻ることになった。

岩沢と巧は、そのまま音楽室へ向かう。

 

「ここだな」

 

「ああ」

 

音楽室の隅に、黒いエナメルバッグが置かれている。

巧がバッグを開く。

中身を確認する。

 

ファイズドライバー、ファイズフォン、、ミッションメモリー

腕時計型のデバイス、デジカメ型のデバイス

 

全部入れても、まだ余裕があった。

 

「……お、いいなこれ」

巧はバッグを持ち上げる。

 

「楽だ」

 

「最初からそうしとけばよかったな」

 

「ほんとにな」

 

二人はそのまま音楽室を出た。

校舎の外へ出る。

 

しばらく歩いていると、校舎裏の静かな道に出た。

そこで、巧が足を止める。

 

「……お」

 

少し先に、黒いバイクが停まっていた。

巧は近づいていく。

その車体に手を触れる。

 

「……好きそうだな」

 

 岩沢が言う。

 

「まぁな」

巧の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

 

「……今、笑ったな」

 

「……気のせいだろ」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

 そこへ、工具箱を持ったチャーが歩いてきた。

 

 巧は腕時計型のデバイスを外す。

 

「おい」

 

 そのままチャーへ投げる。

 

「修理忘れてただろ」

 

「うわっと」

 

 チャーが慌てて受け取る。

 

「あー……悪い」

 

「忘れてたんだろ」

 

「忙しかったんだって」

 

「……」

 

 巧は無言で見る。

 

「今からやるの面倒くせぇな」

 

「おい」

 

「後でやる」

 

「……」

 

 チャーがふと巧を見る。

 

 そして、さっきからバイクを見ていることに気づいた。

 

「気になるなら乗ればいいだろ」

 

「別に」

 

 巧は一度否定する。

 

「……まぁ、ちょっとだけ」

 

「全然隠せてないな」

岩沢が笑う。

 

チャーはバイクを見る。

「これ、職員のやつ盗んだんだけどな」

 

「盗んだのかよ」

 

「正確には拝借だ」

 

「変わってねぇよ」

 

「まあNPCのだからな。どうせ数日経てば忘れてるさ」

 

「アタシのギターの入手経路も似たようなもんだ」

と岩沢も苦笑いしながら言う。

 

「そうなのか?いや、そういう問題じゃねぇだろ……ってかお前もかよ」

巧は呆れたように言った。

 

「誰も使ってねぇし、修理してる間好きに乗っていいぞ」

 

「……いいのか?」

 

「ああ」

 

「じゃあ借りる」

 

 返事だけは早かった。

 

「返事だけ早いな」

岩沢が笑う。

 

巧はバイクに跨がりエンジンを確認する。

そして岩沢を見る。

 

「……お前も乗るか?」

 

「乗る」

岩沢も後ろに乗った。

 

二人を乗せた黒いバイクが、静かな道を走り出した。

 

 

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