乾巧は死後の世界に迷い込む   作:小虎555

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EP1-3

 

熱々の鍋焼きうどんと格闘して、ようやく食事を終えた巧は、岩沢とひさ子に先導される形で廊下を歩いていた。

「ったく、1回の食事に時間かけすぎだ」

ひさ子は呆れたように前を歩く。

 

「仕方ないだろ、流石に熱すぎだ」

巧が不満げに返す。

 

視界の先には、青髪の青年と、岩沢とひさ子も見覚えのない青年が歩いている。

「もう一人の方は見ない顔だな……もしかしてアイツも新入りか?」

 

窓の外には森だけが広がっている。校舎のはずなのに、どこか現実感が薄い。

巧は周囲を見回しながら小さく呟く。

「……学校って感じはするのに、中身が妙だな」

「まあ、死後の世界だからな」

岩沢が慣れたように言う。

 

少し歩いたところで、巧が前を行く二人に視線を向けた。

「で、どこに連れてく気だ?」

ひさ子が振り返らずに答える。

「説明は後。まずは話す場所だ」

先を歩いていた二人が、ある部屋の前で立ち止まり、そのまま中へ入っていく。

 

岩沢が淡々と続ける。

「やっぱアイツらも拠点に向かってたんだな」

 

巧は眉をひそめる。

「拠点?」

「校長室だよ」

ひさ子が答える。

 

その単語に、巧の足が一瞬だけ止まった。

「校長室?」

ひさ子が肩越しに笑う。

「正確には“だった場所”だな」

 

岩沢は短く続ける。

「今はオペレーションルーム」

 

巧は視線を上げる。

「なんでそんなとこ使ってんだよ」

 

ひさ子が軽く肩をすくめた。

「元は生徒会の管理下だった部屋を、必要だからってゆりっぺが我儘言うからそのまま奪ったんだよ」

 

岩沢は淡々と補足する。

「使えるから使う。それだけ」

 

巧は少し黙る。

(奪った、か)

理屈ではなく、意思で塗り替えられた空間という感じがした。

岩沢が前を指す。

「ほら、ここだ」

ひさ子が扉の前で止まり、軽く振り返る。

 

「入るぞ」

扉が開く。中にはすでに数人いた。

校長の机の前には、食堂で見かけた少女――ゆりが立っている。

 

その後ろには、本来校長が座るはずだった椅子が置かれていた。

 

その少し横には、先程見えたもう一人の青年が静かに立っている。まだ状況を完全には飲み込めていないようだった。

 

壁際には、さっき自分達の前に部屋へ入っていった二人組の片方――青髪の青年が、壁にもたれて腕を組んでいる。

 

さらに部屋の奥には、改良されたくノ一のような制服姿の静かに立つ少女。

整った姿だが、どこかくノ一のような張り詰めた空気をまとっていた。

(……本当に乗っ取ってんだな)

ひさ子は慣れた様子で部屋のソファへ腰を下ろす。

 

「ふぅ、やっと着いた」

岩沢も近くの椅子へ座り、壁に立てかけてあったギターを何気なく手に取った。

軽く弦を鳴らす音が、静かな部屋に小さく響く。

(……自由な連中だな)

 

巧がそんなことを考えていると、ゆりは机から離れ、そのまま二人の前まで歩いてくる。

「来たわね」

 

ひさ子が軽く顎をしゃくる。

「連れてきたぞ、新入り」

 

壁際の青髪の青年が軽く手を上げる。

「コッチも、新入り連れてきた」

 

ゆりが二人へ視線を向ける。

「名前は?」

「乾巧」

巧は短く答える。

少し遅れて、もう一人の青年も口を開く。

「……音無」

 

青髪の青年が続ける。

「日向だ」

 

ゆりは一度だけ頷き、それから淡々と説明へ移った。

ゆりは一瞬巧を睨む。

「アナタ、鍋焼きうどん一つに時間かけすぎよ!」

 

巧はバツが悪そうに顔を逸らした。

「うるせぇなあ、どいつもこいつも」

 

「まあ、いいわ……ここは死後の世界」

その言葉に、音無がわずかに目を細める。巧は眉をひそめたままだ。

「生徒会長――天使がルールを管理している」

その瞬間、部屋の奥に立っていた少女がわずかに目を細める。

「……浅はかなり」

それだけ言って沈黙する。

 

「私たちはそれに抗う組織」

ゆりは軽く手で室内を示す。

 

「このメンバーが戦線よ」

「さっき乾くんを連れてきたのが岩沢さん。バンドのボーカル」

岩沢はギターを軽く鳴らしながら、音無へ視線を向ける。

「よろしくな」

 

「こっちがひさ子さん。ギター」

ひさ子もソファに座ったまま小さく手を上げた。

「まぁ適当によろしく」

 

「音無くんを案内してたのが日向くん」

日向は軽く親指を立てる。

「よろしくな、新入り達」

 

「で、奥で浅はかなり……って言ってたのが椎名さん」

部屋の奥に立っていた少女が、わずかに目を細める。

「……浅はかなり」

音無が思わず眉をひそめた。

「それしか言わないのか?」

「……浅はかなり」

返ってきた言葉は同じだった。

巧はそのやり取りを見ながら、わずかにイラついたような表情になる。

 

一通り紹介が終わったところで、ゆりは視線を巧へ向ける。

「それと乾くん」

巧が反応する。

「……なんだよ」

ゆりは淡々と続けた。

「天使の攻撃を“変なケースで防いだ”件は報告を受けてるわ」

部屋の空気が一瞬だけ動く。

 

ひさ子が小さく吹き出す。

「変なケースって言い方雑すぎだろ」

 

巧が即座に返す。

「変な言うな」

 

ゆりは気にせず続ける。

「戦線に入るかどうかは自由。だけどアナタは出来れば入って欲しいわね」

 

巧は眉をひそめる。

「……なんでだよ」

「少なくとも、天使の攻撃を防げる時点で普通じゃないもの」

ゆりの視線が、巧の持つケースへ向く。

 

「まあ、二人とも来たばっかで混乱してるだろうから今は保留にするわ。詳しい話は後で聞く」

巧は短く答える。

「……ああ」

ゆりは締めるように言う。

「今日はここまで。後は自由に動いて」

ひさ子が軽く笑う。

「じゃあ新入り二人セットって扱いでいいな」

巧が即座に返す。

「雑すぎだろ」

日向が音無に笑いかける。

「まぁ、よろしくな」

音無は小さく頷いた。

ゆりは短く締める。

「解散」

扉が開き、外へ空気が流れる。

巧と音無は廊下へ出る。

同じ場所から出たはずなのに、一歩外へ出るだけで世界が少し軽くなった気がした。

しばらく無言のまま歩いていたが、やがて音無がぽつりと口を開く。

「なぁ」

巧が横目だけ向ける。

「なんだよ」

音無は少し言いづらそうに視線を逸らした。

「お前も新入りって事は……死ぬ前の記憶とか、あるんだよな?」

廊下を歩く音だけが静かに響く。

巧はすぐには答えなかった。

それから小さく息を吐く。

「……ない」

音無がわずかに目を見開いた。

「お前もか」

巧は前を向いたまま続ける。

「気づいたら、ここにいた」

音無はどこか安心したように、小さく肩の力を抜く。

「俺だけじゃなかったんだな……」

廊下の先、自販機の光が静かに点いていた。

 

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