乾巧は死後の世界で目を覚ます。   作:小虎555

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EP1-4

 

1-4

 

 

戦線本部を出たあとだった。

 

「乾くん、ちょっと」

ゆりに呼び止められ、巧は校舎の奥へ連れていかれる。

案内されたのは、倉庫みたいな部屋だった。

段ボール。予備武器。雑に積まれた制服。

生活感と戦場がごちゃ混ぜになったような空間。

ゆりが制服を一着放って寄越す。

「これ、戦線の制服」

 

巧は受け取りながら眉をひそめた。

「……は?」

-

「アンタの分」

 

巧は嫌そうにその制服を見ながら

「なんで俺がこんなの着ないといけないんだよ」

 

 

「その格好、目立つから」

ゆりは即答する。

 

「戦うなら最低限合わせてもらう」

 

「別に戦うって決めた覚えねぇけど」

 

「でももう巻き込まれてる」

返答が早い。

しかも否定できない。

巧は小さく舌打ちした。

 

横で岩沢が笑う。

「まぁ着とけって。今より浮かなくなる」

 

「その黒ジャケット、夜のコンビニにたむろしてそうだしな」

ひさ子まで混ざる。

 

「うるせぇな」

不機嫌そうに言いながらも、巧は制服を受け取った。

仕方なく着替える。

鏡もない部屋だったが、袖を通した瞬間、妙な違和感が走る。

サイズが合いすぎている。

まるで最初から用意されていたみたいに。

「……気持ち悪ぃな」

 

「似合ってるじゃん」

岩沢が軽く笑う。

 

「全然嬉しくねぇ」

そう返しながらも、巧は袖口を見つめていた。

制服。

学生。

その単語だけ、記憶の奥が少しざわつく。

でも、続きは出てこない。

 

 

その夜

 

 

校舎側は岩沢、ひさ子の陽動部隊バンド

Girls Dead Monster『通称ガルデモ』の演奏で盛り上がっていた。

 

森の外れ。

昼とは違う冷気が空気に混じっていた。

木々の奥は暗い。

通信機から、ゆりの声が響く。

『出たわ。天使よ』

 

直後。

白い影が木々の間に現れる。

立花奏。

 

「来るぞ!」

日向の声と同時に、銃声が夜を裂いた。

戦線メンバーの一斉射撃。

だが。

当たらない。

奏は歩くような動きで弾道を抜けていく。

「速すぎんだろアイツ!」

 

「避けてるってレベルじゃねぇ!」

焦りが広がる。

巧は舌打ちしながらケースへ手を伸ばした。

その瞬間。

白い影が一気に迫る。

「っ――!」

 

速い。

考えるより先に、身体が動いた。

ケースを前へ出す。

キィンッ!!

金属と刃がぶつかる音。

衝撃が腕まで突き抜ける。

「……っぶねぇな」

腕が痺れる。

だがケースは壊れない。

奏は一歩引き、再び踏み込む。

速い。

今度は横。

巧は地面を転がるように回避した。

土が制服につく。

「チッ……!」

ケースを握り直す。

その瞬間だった。

頭の奥。

突然、“映像”が流れ込む。

赤い装甲。

加速。

景色が置き去りになる感覚。

風。

衝撃。

そして――

圧倒的な力。

(……なんだ今の)

呼吸が止まる。

自然と視線がケースの中へ向いた。

銀色のベルト。

ファイズギア。

使い方なんて分からない。

でも。

“これを使えば戦える”

その感覚だけが、妙にリアルだった。

無意識に手を伸ばしかける。

だが。

反応はない。

沈黙。

ただの金属の塊みたいに、そこにあるだけ。

 

「乾くん!」

ゆりの声が飛ぶ。

「無理なら下がりなさい!」

 

「言われなくても分かってる!」

叫び返す。

だが視線は離せない。

奏が再び迫る。

巧はまたケースを盾にした。

キィンッ!!

衝撃。

腕が痺れる。

悔しさが込み上げる。

(違う)

こんな使い方じゃない。

こんな“受けるだけ”の物じゃない。

理由は分からない。

でも身体がそう叫んでいた。

「クソが……!」

 

その声に、奏がわずかに目を細める。

観察するような視線。

数秒。

そして奏は距離を取った。

『撤退!』

ゆりの声。

戦線メンバーが一斉に森の奥へ下がる。

巧も息を切らしながら後退した。

ケースを握る手に、まだ痺れが残っている。

遠く。

白い影がこちらを見ていた。

立花奏。

感情の見えない瞳。

やがて彼女は背を向け、そのまま校舎の方へ歩いていく。

まるで戦闘なんて最初から無かったみたいに。

森から出た先には、校舎の明かり。

誰かの笑い声。

普通の学校みたいな夜。

なのに。

さっきまで命のやり取りをしていた。

巧は立ち止まり、ケースを見下ろす。

冷たい金属。

壊れない箱。

その奥にあるベルト。

胸の奥が妙にざわつく。

「……クソが」

小さく吐き捨てる。

その声だけが、静かな夜に落ちた。

 

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