戦線本部を出たあと、巧はゆりに呼び止められた。
「乾くん、こっち来て」
案内されたのは校舎の一角、倉庫のような部屋だった。 中には段ボールと、戦線メンバー用の制服が積まれている。
「これ、戦線の制服。アンタの分」
「……は?」
巧は眉をひそめる。
「なんでだよ」
「その格好、目立つから」
ゆりは即答する。
「戦うなら最低限は揃えてもらう」
「戦うって決まってねぇだろ」
「もう巻き込まれてる」
短い沈黙。 岩沢が軽く笑う。
「まぁ、着とけって。今よりはマシだろ」
ひさ子も肩をすくめる。
「その黒ジャケットよりはな」
「うるせぇな」
仕方なく制服を受け取る。着替える。サイズは妙に馴染んでいた。
(なんでだ……)
夜 森の外れ
空気が一段冷える。通信機が鳴る。 ゆりの声。
「出たわ。天使」
白い影。立花奏。
「来るぞ!」
日向の声。 銃声。戦線の一斉射撃。だが天使は歩くようにそれを避ける。
「当たらねぇ!速すぎる!」
巧は舌打ちする。ケースへ手を伸ばす。その瞬間。 天使が一気に距離を詰める。 「っ……!」
反射でケースを盾のように前へ出す。 キィンッ!! 金属と刃がぶつかる音。衝撃。腕が痺れる。
「……っぶねぇな」
距離を取る。
再び天使が動く。 速い。踏み込み。巧は転がるように回避。ギリギリ。
ケースを見る。握り直す。 その時だった。一瞬だけ、頭の奥に“映像”が走る。 赤い装甲。圧倒的な速度。全てを置き去りにする感覚。 (……これがあれば)
無意識にベルトへ視線が行く。銀色のケースの中。ファイズギア。
だが沈黙。反応しない。ただの金属の塊。 「乾くん!」
ゆりの声。
「無理なら下がりなさい!」
「言われなくても分かってる!」
それでも目は離れない。奏が再び踏み込む。
巧は無意識にケースを盾にする。 キィンッ!!
また衝突。腕が痺れる。だが壊れない。
「クソがっ」
一瞬の確信。
(コイツが使えれば、こんな受け方すら必要ねぇ)
悔しさだけが残る。天使は一瞬だけ動きを止める。観察。 そして距離を取る。
「撤退!」
ゆりの声。戦線が森へ退く。巧も後退しながら息を吐く。 視線がケースとベルトを行き来する。
遠く。 白い影がこちらを見ていた。
戦闘が終わった夜の森は、やけに静かだった。
さっきまでの銃声も、刃の衝突音も、まるで最初から無かったみたいに消えている。
巧は息を整えながら、手の中のケースを見下ろした。
金属の冷たさだけが、妙に現実だった。
それでも、壊れていない。
それが余計に気味が悪い。
視線が自然と、ケースの奥へ向かう。
銀色のベルト。
ファイズギア。
遠く、校舎の明かりの方へ白い影が戻っていく。立花奏。
まるで、何事もなかったように“日常へ帰る”動き。
巧は小さく舌打ちした。
「……クソが」
その声だけが夜に落ちる。
そして――森を出た先には、いつもの校舎の明かりが続いていた。
なるべく記憶にあるエンジェルビーツと555を合わせながら書いていこうと思います。