乾巧は死後の世界に迷い込む   作:小虎555

5 / 7
EP2-1

 

 

 

 

作戦室の空気は重かった。

机の上には地図と簡易武器、そして戦線メンバーの資料が散らばっている。

 

その部屋の隅にはガルデモのメンバーもいた。

岩沢は壁に寄りかかり、ひさ子は腕を組み、入江と関根は周囲を見ている。

 

乾巧は壁際に立ち、その様子を黙って見ていた。

戦う準備というより、寄せ集めの即席作戦。

だが昨日の“天使”を思い出せば、それが冗談ではないことは分かる。

 

ゆりが地図を指で叩く。

「武器が足りないわ」

短く、しかし確実な判断だった。

 

「昨日ので分かったはずよ。あの“天使”は想定より速い」

誰も否定できない。

 

日向が肩をすくめる。

「じゃあ補給か?」

「そうよ」

ゆりは即答する。

「ギルドに行く」

その瞬間、空気がわずかに変わる。

「ギルドって……あの地下の?」

「罠だらけだぞ」

誰かの声。

 

ガルデモ側も一瞬だけ視線を交わすが、岩沢は何も言わない。

だがゆりは揺らがない。

「知ってる」

一拍置いて続ける。

「でも、そこしかない」

乾巧はそのやり取りを黙って聞いていた。

ゆりが視線を上げる。

「準備するわ。すぐ行く」

 

そして乾巧を見る。

「乾くん、そのケースを見せなさい」

乾巧は無言でケースを持ち上げる。重い。

机に置く。

金属音が部屋に落ちる。

 

ゆりが蓋に手をかける。開いた瞬間。

「なんだコレ!?」

日向が身を乗り出す。

銀色のベルト。ガラケー型の装置。

音無が横から覗き込む。

「……普通の道具じゃないな」

日向は軽く笑う。

「これさ、小さい頃にテレビで見た変身アイテムっぽくね?」

「昔そういうのあったな」

音無も小さく頷く。

 

その横で、ゆりはベルトではなく乾巧を見ていた。

昼の戦闘を思い出している。

あの異様な反応速度と、ケースを絶対に離さなかった動き。

ゆりは静かに言う。

「これ、何に使うの?」

乾巧は少し間を置く。

「……何かと戦うための物だったはずだ」

ゆりは短く息を吐く。

「そう」

そして決断する。

「これは持っていく。もしかしたら修理とか出来るかもしれないわ」

 

 

 

森へ向かう道中、空気は徐々に変わる。

木々の密度が異様に高くなり、音が吸い込まれていく。

 

話し声が少しずつ減っていく。

誰かが冗談を言おうとして、やめる。

そんな空気。

 

日向が前を見ながら言う。

「また行くのかよ……」

 

ゆりは振り返らない。

「ワガママ言わないで!武器を取りに行くのよ」

 

やがて森の奥に、鉄の扉が見える。

地面に半ば埋もれるように設置された人工物。

周囲の自然と完全に不釣り合いな“異物”。

「ここよ」

ゆりの声が低くなる。

誰も冗談を言わない。

乾巧は扉を見た瞬間、わずかに目を細める。

(……嫌な感じがする)

理由は分からない。

ただ身体が先に拒否している。

 

岩沢が小さく息を吐く。

「相変わらず薄気味悪いな、ここ」

 

ゆりは即答する。

「行くわよ」

 

迷いがない。

鉄扉が開く。

中は一気に空気が変わった。

湿気。鉄の匂い。

人工的な冷たさだけが肌に残る通路。

音が消える。

自分の呼吸だけがやけに大きい。

「罠だらけだと思って進め」

ゆりの声が落ちる。

誰も返事をしない。

ただ一歩、踏み出す。

 

数分後

 

通路はまだ“静か”だった。

湿った空気と、鉄の匂いだけが続いている。

 

足音がやけに響く。

ゆり達より先に、すでに別の影がそこにいた。

 

懐中電灯の光が揺れる。壁際。

そこに、人影。そこを照らすと野田だった。

 

ここに来ることを予想していたのか一足先に来ていたようだ

「……おい、馬鹿がいたぞ」

と日向が呆れていた。

 

野田は振り返る。

その顔に、軽い余裕が残っていた。

「ふんっ」

と何故か怒りもせずドヤ顔である。

「いや、ここヤバいぞ」

その瞬間だった。

 

カチ。乾いた音。

乾巧の視線が動く。

 

ゆりが低く言う。

「……止まって」

だが遅い。天井が、割れる。鉄塊が落ちる。

一撃。空間が潰れるような速度。

ドンッ!!

衝撃。遅れて誰かが悲鳴を上げる。

一瞬、何が起きたのか分からない。

ただそこにあった“野田”という存在が、

視界から消えている。

沈黙。

 

そして少し遅れて、ひさ子が小さく呟く。

「……バカが一人減ったな」

軽い、冗談みたいな声。

でも誰も笑わない。

日向が顔をしかめる。

「いや今の……見えねぇだろ普通……」

 

岩沢は言葉が出ない。

懐中電灯の光が揺れている。

その光の先に、さっきまで人がいた“場所”だけが残る。

ゆりが前を見る。

声は冷たいまま。

「行くわよ」

乾巧はただ、その場を見ていた。

(……罠だ)

それ以上でも以下でもない。

ただ“ここはそういう場所”だと理解するだけだった。

そして通路は、何事もなかったように続いている。

まるで、最初から誰もいなかったように。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。