自分用   作:raian sinra

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間章

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】間章:野良犬の咆哮と、海賊の祈り

### 第一章:地下空間の静寂と、刃禅の海

四楓院夜一の手引きによって隠された、瀞霊廷の地下深くにある広大な修練場。

そこは今、絶え間なく続く金属音と、空気が焼け焦げるような濃密な霊圧に支配されていた。

「はぁっ……! はぁっ……!」

「どうした一護! お前の力はそんなものか! 卍解に至るには、まだまだ足りんぞ!」

具象化した斬魄刀『斬月』の本体である黒衣の男と、無数の刀が突き刺さる荒野で死闘を繰り広げる黒崎一護。ルキアの処刑が刻一刻と迫る中、彼に与えられた猶予はたったの三日間しかなかった。

その過酷な修行空間の片隅で、宝鐘マリンは静かに胡座をかき、膝の上に自身の斬魄刀『紅海月』を置いて目を閉じていた。

市丸ギンとの戦いで負った右肩の深い傷は、夜一の持参した特殊な薬と、四番隊の山田花太郎の懸命な治療によって、なんとか剣を振れる程度にまでは回復していた。

(一護の霊圧、どんどん研ぎ澄まされてる……。私も、負けてられない)

マリンの行っているのは『刃禅(じんぜん)』――己の斬魄刀との対話であり、精神の同調だ。

彼女の魂の奥底には、未だに恐ろしい『虚(ホロウ)』の力が眠っている。一護が卍解という極限の力を引き出そうとしているその強大な霊圧の余波を受け、マリンの中の虚もまた、呼応するように時折不気味な産声を上げようとしていた。

それを押さえ込み、純粋な死神の力である『紅海月』との繋がりだけを強固にする。それが、今のマリンにできる最大の修行であり、来るべき戦いに向けた準備だった。

「……焦ることはありません、船長」

精神世界である瑠璃色の海の中で、優美な海賊の姿をした紅海月が静かに語りかけてくる。

「あなたの魂は、あの暗い嵐を乗り越える強さを持ち始めている。……今はただ、この静かな波の音に耳を澄ませなさい」

「うん……わかってる。ありがとう、紅海月」

精神を統一し、深い集中状態に入っていたマリンだったが。

――ズドォオオオオオオオオンッ!!!

突如として、地下空間の天井の遥か上……地上から、大地そのものを揺るがすような凄まじい衝撃と、爆発的な霊圧の波が降ってきた。

「……っ!」

マリンは弾かれたように目を開けた。

刀を交えていた一護と斬月も動きを止め、岩の上で見守っていた夜一も鋭い視線を天井へと向ける。

「……始まったようじゃな」

夜一が、低く、しかし確かな緊張を孕んだ声で呟いた。

「この霊圧……」

一護が額の汗を拭いながら、上を見上げる。

マリンもまた、その霊圧の主をはっきりと感じ取っていた。

燃え盛る炎のように荒々しく、そしてどこか悲痛な叫びを上げているような、巨大な獣の霊圧。

(恋次……!)

マリンは自身の胸に手を当て、少し前にこの地下空間で交わした、赤い髪の死神との会話を思い出していた。

### 第二章:赤い髪の野良犬

それは、一護が卍解の修行を始めて間もない頃のことだった。

地下修練場に、全身を包帯で巻かれ、痛々しい姿の男がふらりと現れた。

護廷十三隊六番隊副隊長、阿散井恋次。

現世でルキアを奪い去り、マリンを圧倒的な力でねじ伏せた敵。そして、瀞霊廷に突入してきた一護と激突し、敗北した男だった。

彼がこの地下空間に現れた時、マリンは思わず紅海月に手をかけそうになったが、恋次から放たれる気配には、かつてのような敵意は微塵もなかった。

『……勘違いすんなよ。俺はてめぇらと馴れ合うつもりはねぇ』

恋次は壁際に座り込み、自身の斬魄刀を膝に置きながら、マリンと一護に向かって吐き捨てるように言った。

『俺は、俺の意志で、ルキアを助けに行く。そのために……俺もここで、卍解を修得する』

その瞳には、並々ならぬ決意と、深い自責の念が渦巻いていた。

マリンは警戒を解き、彼から少し離れた岩場に腰を下ろして、黙って彼を見ていた。

現世では冷酷な死神に見えた彼が、なぜこれほどまでにルキアに執着し、己の命を削ってまで彼女を助けようとしているのか。

修行の合間の短い休息の中、恋次はぽつりぽつりと、誰に言うでもなく語り始めた。

『俺とルキアは……流魂街の第七十八地区、戌吊(いぬづり)っていうスラム街の出だ。あいつとは、ガキの頃からの付き合いでな。家族みたいなもんだった』

恋次の語るルキアの過去は、マリンにとって初めて聞くものだった。

貧しい生活。仲間たちの死。そして、死神になるために共に真央霊術院へ入学したこと。

しかし、ルキアは四大貴族である朽木家に養女として引き取られ、雲の上の存在になってしまった。恋次は彼女を引き止めることができず、ただ見送ることしかできなかったのだという。

『俺は……ただの野良犬だ。星(ルキア)に憧れて、届かねぇって分かってても、吠えることしかできねぇ』

恋次は自嘲するように笑い、自身の包帯だらけの手を強く握りしめた。

『あの時、俺の魂には、朽木白哉っていうデカすぎる壁に対する「恐怖」が刻み込まれちまった。……だが、もう逃げねぇ。あいつの首に鎖を繋いだのが朽木白哉なら……俺の牙で、その鎖を噛み砕く』

その言葉を聞いた時、マリンの心の中で、恋次に対する「敵」という認識が完全に崩れ去った。

マリンには、血の繋がった家族の記憶がない。黒崎家という温かい場所に引き取られ、一護や遊子、夏梨たちを「本当の家族」として愛してきた。だからこそ、家族同然だった幼なじみを奪われ、自分の無力さを呪い、それでも立ち上がろうとする恋次の魂の叫びが、痛いほどに理解できたのだ。

『……野良犬、か』

マリンは立ち上がり、恋次の前に歩み寄った。

『……あァ? なんだよ』

恋次が顔をしかめて見上げる。マリンはふっと柔らかく微笑み、両手を腰に当てて言った。

『ダサいね。星に憧れて吠えるだけなんて、ただの負け犬の遠吠えじゃん』

『てめぇ……!』

怒りで立ち上がろうとする恋次を、マリンは手のひらで制した。

『でも、牙を剥く覚悟を決めた犬は、もうただの野良犬じゃない。……立派な「狂犬」だよ。海賊(あたしたち)の世界じゃ、そういう執念深いヤツが一番恐れられてるの』

マリンは、恋次の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

『ねぇ、恋次。私は海賊船長で、ルキアちゃんは私の大事なダチだ。船長としては、仲間を助けに行くのに誰の手でも借りたいところだけど……これは、あんた自身の戦いなんだよね』

恋次はハッと息を呑み、そして、力強く頷いた。

『……あァ。ルキアは、俺が助ける。誰の指図も受けねぇ』

『いい覚悟だ。だったら、しっかり準備しなよ。……あんな冷たい壁(朽木白哉)、あんたのその熱い牙で、粉々に噛み砕いてきな!』

マリンの言葉に、恋次は少しだけ目を見開き、やがて鼻で笑った。

『……生意気な小娘だぜ。てめぇも、あの市丸の野郎から逃げ切ったわりには、随分とボロボロじゃねぇか。人の心配してる暇があったら、自分の刀と向き合え』

『ふふん、船長を舐めないでよね!』

悪態をつき合いながらも、確かな絆のようなものが芽生えた瞬間だった。

恋次はその後、一護よりも一足早く卍解を形にし、傷だらけの体のまま、ルキアの待つ懺罪宮へと向かっていった。

その後ろ姿は、もはや現世で敵対した時の迷える死神ではなく、愛する者を護るために死地へと赴く、一人の誇り高き戦士のものだった。

### 第三章:激突する霊圧、祈る海賊

(恋次……!)

地下修練場に響き渡る衝撃。マリンは岩山に駆け寄り、天井を見上げた。

地上では今、阿散井恋次が、己のすべてを懸けて朽木白哉に挑んでいるのだ。

「すげぇ霊圧だ……」

一護もまた、修行の手を止めて上を見上げていた。

「……阿散井の小僧の卍解じゃな。あれほど巨大で、粗削りで、しかし熱意に満ちた霊圧……あやつ、本当に白哉坊を本気で倒すつもりじゃ」

夜一が目を細める。

マリンの特異な感知能力は、地上で起こっている霊圧の激突を、まるで肌で直接触れているかのように詳細に感じ取っていた。

燃え盛る炎のような、巨大な蛇と狒々が入り混じったような恋次の霊圧。それが、白哉の放つ、まるで真冬の吹雪のような、冷たく、鋭く、絶対的な静寂を伴う霊圧と激しくぶつかり合っている。

(噛みつけ、恋次……! あの冷たい壁を、お前の牙で壊してやれ!)

マリンは両手を固く握り締め、祈るように目を閉じた。

現世で自分を一瞬で絶望に陥れた、あの朽木白哉の圧倒的な力。あの絶望を前にして、それでも退かずに立ち向かっている恋次の勇気に、胸が熱くなる。

『うおおおおおおおおおおッ!!!』

マリンの脳裏に、恋次の雄叫びが響いた気がした。

恋次の霊圧が、限界を超えて爆発的に膨れ上がる。彼の魂そのものが燃え尽きるような、文字通りの決死の一撃。

その熱量は、地下にいるマリンの肌をジリジリと焦がすほどだった。

「いけぇっ……!! 恋次!!」

マリンは無意識のうちに叫んでいた。一護もまた、拳を握りしめて地上の戦いの結末を見守っている。

だが。

『――散れ、千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)』

その声が聞こえたわけではない。

しかし、マリンは確かに感じ取った。白哉の霊圧が、常軌を逸した規模に膨れ上がり、そして数億の刃となって全方位から恋次を包み込むのを。

圧倒的、絶対的、不可避の死の舞。

恋次の燃え盛る炎のような霊圧が、冷たい桜の刃によって次々と削り取られ、切り裂かれていく。

「あ……」

マリンの目から、すっと一筋の涙がこぼれ落ちた。

抵抗する恋次の霊圧が、徐々に弱まっていく。

それでも、彼は決して膝をつかず、最後まで前に進もうとしているのが分かった。ルキアの元へ、あと一歩でも近づくために。彼の魂が、そう叫んでいるのが霊圧を通して伝わってくる。

『……ルキア』

最後の微かな瞬き。

野良犬が、夜空に浮かぶ星に向かって精一杯伸ばした手。

だが、その手は星には届かず、恋次の霊圧は、ぷつりと糸が切れたように完全に消え失せた。

### 第四章:受け継がれる牙

「……終わった、か」

静寂が戻った地下空間で、夜一が重々しく呟いた。

恋次の霊圧は消えた。だが、それは無駄死にではない。彼の決死の戦いは、白哉という巨大な壁に確かに亀裂を入れ、そして何より、残された者たちの心に強烈な炎を灯したのだ。

「恋次……っ」

マリンは膝から崩れ落ち、自身の両膝を強く抱きしめた。

唇を噛み締め、声を出さずに泣いた。

彼がどれほどの想いで立ち向かったかを知っているからこそ、その敗北が自分のことのように悔しくて、悲しかった。

「……マリン」

不意に、頭の上に大きな手が置かれた。

見上げると、そこには顔を影で覆い隠した一護が立っていた。彼の手には、真っ黒に染まった斬月が力強く握られている。

「……泣くな。あいつは、逃げずに戦い抜いたんだ。なら、俺たちがやるべきことは一つしかねぇだろ」

一護の言葉に、マリンはハッとして顔を上げた。

一護の瞳には、悲しみ以上に、決して揺るがない強烈な殺気と、ルキアを必ず助け出すという絶対的な意志が燃え盛っていた。

「あいつがこじ開けた道だ。絶対に、無駄にはしねぇ。……俺が、白哉を倒す」

その言葉は、誓いだった。

倒れた仲間の牙を拾い上げ、必ず目標(ルキア)まで届かせるという、黒崎一護の誓い。

「……うん」

マリンは涙を乱暴に拭い、立ち上がった。

悲しんでいる暇はない。恋次が命を懸けて繋いだこの時間を、無駄にしてはならないのだ。

「私だって……負けてられないワゾ。船長として、あんなにカッコいい生き様見せられちゃったら、うかうか休んでなんかいられない」

マリンは紅海月の柄を強く握りしめ、再び結跏趺坐(けっかふざ)の姿勢をとった。

彼女の心の中から、恐怖は完全に消え去っていた。

あの朽木白哉に、そして市丸ギンに、この先どんな恐ろしい敵が立ち塞がろうとも。恋次が見せた「狂犬」の覚悟が、マリンの魂に強い勇気を与えてくれたのだ。

「必ず、卍解を完成させてよ一護。……私も、絶対にこの力を完全に手懐けてみせる」

一護は無言で頷き、再び斬月へと向き直った。

地上で散った一匹の誇り高き野良犬。

彼の咆哮は、地下深くで戦う死神代行と海賊の少女の心に、決して消えることのない炎を灯した。

ルキアの処刑まで、残り僅か。

双殛の丘での最終決戦に向けて、彼らの刃は今、極限まで研ぎ澄まされていくのである。

 

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