自分用   作:raian sinra

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10話

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】第十部:共鳴する深淵と、老将の慈悲

### 第一章:灼熱の檻と、神々の闘技場

「万象一切灰燼と為せ――『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』」

護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國がその杖に隠された刀を解放した瞬間、双殛の丘の空気は一変した。

大気が悲鳴を上げ、視界が陽炎でぐにゃりと歪む。足元の石畳は一瞬にして水分を奪われてひび割れ、呼吸をするだけで肺の奥が焼け焦げそうになるほどの、異常な高熱。

「あ、つ……っ!」

宝鐘マリンは紅海月を杖にするようにして膝をついた。

彼女の斬魄刀は常に澄んだ水流を纏っているが、流刃若火の圧倒的な熱量の前では、生み出した水が瞬く間に蒸発してしまう。

護廷十三隊で最も古く、最も強大な炎熱系最強の斬魄刀。その真の恐ろしさは、マリンの想像を絶していた。

「お嬢ちゃん、無理したらあかんよ。火傷じゃすまへん」

京楽春水が、二刀一対の斬魄刀『花天狂骨』を構えながら、マリンを庇うように背中でかばう。

「十四郎、この子を安全な場所へ……」

「……逃がしはせぬ」

元柳斎が杖の柄を軽く地に突いただけで、マリンと二人の隊長を取り囲むように、巨大な炎の壁がそそり立った。

退路は完全に断たれた。ここは、尸魂界最強の死神による、処刑場にして闘技場。

「お爺ちゃん……手加減って言葉、辞書にないの……?」

マリンは滝のような汗を流しながら、必死に意識を保とうとした。

浮竹十四郎も二刀の斬魄刀『双魚理』を抜き放ち、師である元柳斎と対峙する。彼らの間には、言葉以上の重い覚悟が交交わされていた。

(すごい……これが、本物の隊長同士の戦い。私なんて、足手まといにしかならない)

自分の無力さを痛感するマリン。

しかし、彼女が本当に恐れるべき事態は、この灼熱の炎によるものではなかった。

炎の壁の向こう側――遠く離れた瀞霊廷の別の場所で、今まさに「運命の歯車」が決定的に狂おうとしていたのだ。

### 第二章:黒い波動と、破られた封印

ドクンッ。

元柳斎と二人の隊長が激突しようとしたその刹那。

マリンの心臓が、早鐘のように、いや、警鐘のように激しく跳ねた。

「え……?」

マリンは自身の胸元を強く掴んだ。

息ができない。周囲の異常な熱さのせいではない。彼女の魂の奥底、極限の修行の末に深い瑠璃色の海の底へと封じ込めたはずの「何か」が、外の世界からの強烈な刺激を受けて、泥のようにどす黒く蠢き始めたのだ。

『――アァアアアアアアアアアアアッ!!!』

それは、空気を震わせる音ではなかった。魂を直接揺さぶる、禍々しくも圧倒的な波動。

黒崎一護が朽木白哉との死闘の果てに限界を超え、彼の中枢に潜む『内なる虚(ホワイト)』が完全に表層へと引きずり出された瞬間だった。

一護から放たれる、純粋で、凶悪で、圧倒的な虚の霊圧。

それは、同じ男(藍染惣右介)によって造り出された「実験のルーツ」を共有するマリンの魂にとって、致命的なトリガーとなった。

『……呼んでいる』

マリンの脳内に、あの嘲笑うような黒い声が響いた。

『私の同胞が。私の半身が、私を呼んでいる! なぜ抑え込む? なぜ拒絶する? 我らも共に行こうぞ、全てを喰らい尽くすために!』

「だ……め……! 引っ込んでろ、バケモノ……ッ!!」

マリンは両手で自身の顔を掻きむしり、その場にうずくまった。

彼女の異常な様子に、対峙していた浮竹と京楽、そして元柳斎までもが動きを止めた。

「どうした、お嬢ちゃん!? 炎に当てられたか!?」

浮竹が慌ててマリンに駆け寄ろうとする。

だが、遅かった。

マリンの右目――美しいオッドアイの右の瞳孔が、突如として虚ろな金色に染まった。

同時に、彼女の右半分の顔の皮膚から、ドロドロとした白い石膏のような物質が滲み出し、バキバキと不気味な音を立てて『骸骨の仮面』を形成していく。

「ガ……ァ……アアアアアアッ!!!」

マリンの口から放たれたのは、可憐な少女の声ではなく、重く濁った獣の咆哮だった。

「なんじゃ……この霊圧は!?」

京楽が目を見開き、一歩後退する。

彼女から噴き上がったのは、死神の清廉な霊圧ではない。重く、冷たく、周囲の空気を腐食させるかのような、悍ましい『虚』の霊圧だった。

### 第三章:深淵の決壊、暴走する海賊船

「アァアアアアアアアアッ!!」

完全に理性を失い、虚と化したマリンが立ち上がった。

彼女の右手に握られた『紅海月』から噴き出す水流は、もはや美しい蒼色ではなかった。どす黒く濁り、まるでタールのようになった「死の水」が、高圧で彼女の周囲を荒れ狂う。

「これは……虚化!? 馬鹿な、純粋な人間の魂が虚に成るなど、ただの虚閃(ホロウ化)とは訳が違うぞ!」

浮竹が驚愕に顔を歪める。

「……十四郎、春水。退がれ」

元柳斎が鋭い声で命じるが、暴走したマリンはそれを待たなかった。

「シィャアアアアアアッ!!」

ドンッ! という爆発音と共に、マリンの姿が消えた。

虚の高速歩法『響転(ソニード)』と、紅海月の水流による推進力を掛け合わせた、常軌を逸したスピード。

彼女は瞬時に浮竹の背後に回り込み、黒く濁った水刃を振り下ろした。

「くっ!」

浮竹が間一髪で『双魚理』を交差させて防御する。

だが、その一撃の重さは、先ほどまでのマリンとは比較にならなかった。虚の怪力と、圧縮された水の質量が、隊長である浮竹の腕をミシミシと軋ませる。

「なんちゅう重さや……! お嬢ちゃん、正気に戻りなさい!」

京楽が横から花天狂骨を振るい、マリンを牽制しようとする。

しかしマリンは、獣のような反射神経で京楽の剣を躱し、自身の周囲に巨大な黒い水の渦を発生させた。

「大波(おおなみ)……!!」

仮面の奥からくぐもった声が響き、巨大な黒い津波が二人の隊長を飲み込もうと襲いかかる。

「波悉く我が盾となれ、雷悉く我が刃となれ『双魚理』!」

浮竹が自身の斬魄刀の能力で黒い水流のエネルギーを吸収し、刃から跳ね返そうとするが、その水に込められた霊圧があまりにも異質で、制御しきれない。

「十四郎! アカン、この子の霊圧……ただの虚やない。もっと複雑で、ひどく歪に捻じ曲げられとる!」

京楽が叫ぶ。

隊長である彼らが本気を出せば、マリンを斬り捨てることは容易い。

しかし、彼らの目の前で暴れ狂っているのは、つい先程まで屈託のない笑顔で「協力する」と言ってきた、無邪気で仲間思いの少女なのだ。

何らかの要因で強制的に暴走させられている彼女を、斬ることなどできるはずがない。二人の隊長は、防御と回避に徹するしかなかった。

(一護……みんな……ごめん、逃げて……!)

暴走する肉体の奥深く、わずかに残ったマリンの自我は、暗い海の底から泣き叫んでいた。

体が勝手に動く。仲間を、助けようとした人たちを傷つけてしまう。

いっそ、誰か私を殺して。

絶望に沈むマリンの意識に、一つの強烈な光が差し込んだ。

### 第四章:最強の老将と、慈悲の鉄拳

「――愚か者共が。何を迷うておるか」

静かに、だが天地を揺るがすような威厳に満ちた声が響いた。

暴走し、浮竹に次の一撃を放とうとしていたマリンの目の前に、忽然と山本元柳斎重國が姿を現した。

「アァアアアアアッ!!」

マリンは本能的な脅威を感じ、紅海月に全ての黒い水流を集束させ、元柳斎の眉間めがけて渾身の突きを放った。

万象一切を灰にする流刃若火。

それを振るえば、マリンなど一瞬で炭の塊と化すだろう。浮竹と京楽が「総隊長!」と叫び、最悪の結末を覚悟した。

だが、元柳斎は流刃若火を振るわなかった。

彼は燃え盛る刀を片手に持ったまま、もう一方の空いた手を、信じられないほどの速度でマリンの懐へと滑り込ませた。

「……哀れなことよ。何者かの悪意によって、魂の根幹を弄り回されたか」

元柳斎の鋭い眼光が、マリンの仮面の奥にある絶望の瞳を真っ直ぐに射抜いた。

長きにわたり尸魂界を見守ってきた最強の老将の目は、彼女が自ら望んでこの力を手にしたわけではなく、禁忌の実験の犠牲者であることを、その歪な霊圧から正確に読み取っていた。

「ならば、ワシがその悪夢を断ち切ってやろう」

ドスッ!!!!

元柳斎の白打(素手による打撃)。

一切の無駄を省き、極限まで研ぎ澄まされたその拳が、マリンの鳩尾(みぞおち)に、致命傷を避けた絶妙な加減で深く、重く叩き込まれた。

「が……ァ……ッ!?」

マリンの全身の動きが、完全に停止した。

虚の暴走エネルギーが、元柳斎の底知れぬ霊圧の前に強制的にシャットダウンされる。

さらに元柳斎は、マリンが倒れ込むよりも早く、その太い指先で彼女の額に触れた。

「縛道(ばくどう)の六十三『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』」

光の太い鎖がマリンの全身に巻き付き、内側から溢れ出ようとする虚の霊圧を物理的かつ霊的に完全に封じ込める。

パキンッ……!

マリンの顔を覆っていた白い仮面が、元柳斎の圧倒的な霊圧の前にひび割れ、粉々に砕け散った。

黒く濁っていた水流も嘘のように霧散し、紅海月は元の浅打の姿に戻って地面に転がり落ちる。

「あ……お爺、ちゃん……」

右目の金色が消え、元のオッドアイに戻ったマリンが、虚ろな声で呟く。

元柳斎は無言のまま、崩れ落ちるマリンの小さな体を、その大きくて硬い腕でしっかりと受け止めた。

「……もうよい。眠れ、小娘」

その声は、先ほどまでの烈火のような怒気が嘘のように、深く、静かで、不器用な優しさに満ちていた。

圧倒的な安心感。マリンは全てを委ねるように目を閉じ、深い気絶の底へと沈んでいった。

### 第五章:炎の静寂と、繋がれた命

「……山じい」

京楽と浮竹が、息を呑んでその光景を見つめていた。

掟に厳格で、いかなる特例も許さぬはずの総隊長が、明らかに尸魂界の禁忌に触れる存在(虚化する人間)を、自らの手で殺さずに生け捕りにしたのだ。

元柳斎はマリンを抱え上げたまま、周囲を囲んでいた流刃若火の炎をスッと消し去った。

「この娘の魂魄……自然発生のものではない。意図的に虚の魂を継ぎ接ぎされた、極めて悪辣な術の痕跡がある」

元柳斎は厳しい顔で、双殛の丘の空を見上げた。

「……瀞霊廷内に、長きにわたりこれほどの禁忌を隠し立てし、実験を行っていた者がおるということじゃ。春水、十四郎。お主らを罰するのは、その真実を暴いた後でも遅くはない」

「総隊長……!」

浮竹の顔に、希望の光が差す。

元柳斎は、腕の中でスースーと寝息を立てるマリンを見下ろし、小さく鼻を鳴らした。

「……ふん。総隊長に向かって『お爺ちゃん』などとぬかす、ふつつかな小娘じゃ。だが、その魂の根底にあるのは、護廷の意志にも劣らぬ、純粋な仲間への想い……。死なせるには惜しい」

尸魂界最強の死神、山本元柳斎重國。

彼の絶対的な力と、厳格さの中に隠された深い慈愛が、宝鐘マリンという少女の命と魂を、破滅の淵から救い上げた瞬間であった。

彼女が再び目を覚ます時、尸魂界はかつてない巨大な裏切りと絶望の渦に飲み込まれることとなる。

しかし、その絶望の前に立ちはだかるマリンの背中には、もう迷いはない。なぜなら彼女は、この過酷な死神の世界で、自らを護り、導いてくれる「最強のお爺ちゃん」と、仲間たちの存在を確かに感じ取っていたからだ。

 

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