自分用   作:raian sinra

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13話

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】破面篇 第二部:月下の豹と、恐怖の鎖

### 第一章:騒がしい夜と、舞い降りた死神たち

ウルキオラとヤミーによる強襲から数日。

己の内なる虚(ホロウ)への恐怖と、破面(アランカル)という未知の絶望的な力を見せつけられた一護とマリンの心には、重く冷たい暗雲が立ち込めていた。

「はぁ……」

黒崎家の自室で、マリンはため息をつきながらベッドにダイブした。

傍らには、鞘に収められた愛刀『紅海月』。刃を抜けば、あの禍々しいバケモノの声が今にも聞こえてきそうで、マリンは無意識のうちに柄から手を離していた。

(このままじゃ、ダメだ。一護も私も、戦う前から自分の中の影に怯えてる)

平子真子という男の誘い。彼ら『仮面の軍勢(ヴァイザード)』の元へ行けば、何か解決の糸口が見つかるかもしれない。だが、それは同時に、己の魂に巣食うバケモノと正面から向き合い、最悪の場合は完全に飲み込まれてしまうリスクを意味していた。

マリンが布団に顔をうずめて葛藤していた、その時。

ドゴォオオオオオンッ!!

隣の一護の部屋から、窓ガラスが派手に割れる音と、鈍い打撃音が響き渡った。

「な、なに!?」

マリンが慌てて飛び起き、廊下を走って一護の部屋のドアを開ける。

そこには、後頭部を押さえてうずくまる一護と、開いた窓の枠に片足を乗せて堂々と立つ、小柄な黒装束の少女の姿があった。

「相変わらず鈍いな、一護。そしてマリン、久しいな!」

「ルキアちゃん!!?」

目を丸くするマリンの前に、見慣れた義骸ではなく、本物の死神の姿をした朽木ルキアがニヤリと笑っていた。

さらに、驚きはそれだけでは終わらない。

「おーい、黒崎ィ! 邪魔するぜ!」

「ちょっと、勝手に人の家上がらないでくださーい! あ、マリンちゃん久しぶりー!」

一護の部屋のドアからぬっと顔を出したのは、赤いパイナップル頭の阿散井恋次。その後ろから、豊満な胸を揺らして松本乱菊が現れ、さらに十番隊隊長・日番谷冬獅郎、十一番隊の斑目一角、綾瀬川弓親といった、護廷十三隊の先遣隊メンバーが次々と黒崎家に雪崩れ込んできたのだ。

「な、なんでお前らがここに……!?」

「藍染の動きを探るため、そして現世を防衛するために派遣されたんだよ。……しかし狭い部屋だな。俺と乱菊はどこで寝ればいいんだ?」

日番谷が眉間に皺を寄せながら部屋を見回す。

「あ! だったら私、マリンちゃんの部屋で一緒に寝るー! 女の子同士で恋バナしましょ!」

乱菊がマリンに抱きつき、その豊かな胸にマリンの顔をうずめさせる。

「んぐっ!? や、ちょ、松本副隊長、大きすぎ……息が……!」

あっという間に、黒崎家は尸魂界からやってきた死神たちによって占拠されてしまった。

騒がしい言い争い、乱菊が持ち込んだお酒の匂い、ルキアと一護のいつもの口喧嘩。

ほんの少し前までマリンの心を支配していた暗く重い空気は、彼らの底抜けの喧騒によって、一瞬にして吹き飛ばされていた。

(……ああ、そうか)

マリンは乱菊に押し潰されながらも、部屋中に響く笑い声を聞いて、ふっと表情を緩めた。

(私と一護が護りたかったのは、こういう騒がしくて、温かい時間だった)

彼らが来てくれたことで、心に一筋の光が差したような気がした。

自分は一人じゃない。仲間がいる。だから、絶対に立ち止まるわけにはいかないのだ。

しかし、その平穏な夜は、長くは続かなかった。

### 第二章:六つの絶望、空を裂く

死神たちが現世に到着したその日の、深夜。

不意に、空座町の空気が「重く」なった。

「……ッ!」

マリンはベッドから跳ね起きた。隣で寝ていた乱菊も、鋭い目つきで窓の外を睨みつけている。

空座町の夜空に、巨大な黒腔(ガルガンタ)が口を開けた。

そこから降り立ったのは、六つの人影。

「この霊圧……破面か!」

日番谷の声が家中に響き渡る。

「しかも六体……! 前回の二体とは数が違うぞ!」

一護とマリンも即座に死神化し、家を飛び出した。

夜の冷たい空気に混じって、肌を刺すような凶悪な霊圧が現世のあちこちに散らばっていくのが分かる。

「それぞれ散って迎撃するぞ! 黒崎、宝鐘、お前らは無理をするな!」

日番谷の指示で、先遣隊の死神たちが各々の標的へと向かって瞬歩で消えていく。

「行くよ、一護!」

マリンは紅海月の柄を握り、最も巨大で、最も凶暴な霊圧が放たれている方角――空座町の一角へと向けて駆け出した。

その霊圧は、以前遭遇したヤミーやウルキオラとはまた違う。荒々しく、好戦的で、まるで血に飢えた猛獣のような気配を纏っていた。

### 第三章:豹王(パンテラ)の強襲と、震える刃

二人が駆けつけた先には、ルキアが既に一体の破面(ディ・ロイ)を自身の始解『袖白雪』で氷漬けにし、打ち倒したところだった。

「ルキア!」

一護とマリンが合流し、安堵の声を上げた、その直後だった。

「……随分と、あっさりやられやがったな。使えねェカスが」

夜の闇から、ゆらりと一つの影が歩み出てきた。

水色の逆立った髪に、右頬に顎骨のような仮面の名残をつけた男。

その男が放つ霊圧に触れた瞬間、マリンは全身の血が凍りつくのを感じた。

第6十刃(セスタ・エスパダ)、グリムジョー・ジャガージャック。

「なんだ、てめェら。その霊圧……黒崎一護だな?」

グリムジョーは狂気を孕んだ笑みを浮かべ、一護を指差した。

「てめぇが、今回の親玉か!」

一護が斬月を構え、グリムジョーに向かって飛び出そうとする。

だが、それよりも早く、グリムジョーの姿がブレた。

「遅ェよ」

ドスッ!

「がはっ……!?」

誰も反応できなかった。

グリムジョーの手刀が、一護の背後にいたルキアの腹部を深々と貫いていたのだ。

「ル、ルキアァアアアアアッ!!!」

一護が絶叫し、血を吐いて倒れるルキアを抱き留める。

「ルキアちゃん!!」

マリンの頭の中で、何かが弾けた。

「出航せよ『紅海月』!!」

怒りに任せて始解を解放し、大量の水流を纏ってグリムジョーの背後から斬りかかる。

「死ねェッ!!」

だが、グリムジョーは振り返りもせず、空いた左手でマリンの放った高圧の水刃を、まるで羽虫を払うように裏拳で弾き飛ばした。

「チッ、水遊びか? 鬱陶しいんだよ、女」

「くっ……!」

弾き返された衝撃で体勢を崩したマリンに、グリムジョーの蹴りが襲いかかる。

マリンは間一髪で紅海月の刀身を盾にして防いだが、その規格外の脚力によって数十メートルも吹き飛ばされ、アスファルトに激しく背中を擦り付けた。

「あがっ……! い、一護……!」

マリンが顔を上げると、激怒した一護が卍解を解放し、黒い刃(天鎖斬月)を振るってグリムジョーと激突していた。

漆黒の斬撃『月牙天衝』が放たれるが、グリムジョーはそれを素手で受け止め、不敵に笑っている。

「どうした? お前の力はそんなもんかよ、死神代行!」

グリムジョーの圧倒的な戦闘力。一護は次第に押され、防戦一方になっていく。

(助けなきゃ。私が援護しないと、一護が殺される!)

マリンは立ち上がり、再び紅海月に霊圧を注ぎ込もうとした。

その瞬間。

『――だから言っただろう? お前のチンケな水では、ヤツらには傷一つつけられないと』

心臓を鷲掴みにされるような悪寒。

マリンの脳内に、あの嘲笑うような「もう一人の自分」の声が響き渡った。

『出させろ。私を解放しろ。そうすれば、あんな猫もどき、瞬きする間に引き裂いて喰ってやる』

「あ……」

マリンの両手が、ガタガタと震え始めた。

紅海月の刀身から噴き出していた水流が、見る見るうちに勢いを失い、細くなっていく。

思い出すのは、ヤミー戦での恐怖。

顔にへばりつこうとした、あの忌まわしい骨の仮面。

理性を失い、仲間すらも敵と見なしてしまいそうになった、あの破壊衝動。

もしここで限界まで霊圧を引き上げれば、また内なる虚が暴れ出す。

一護を助けたい。でも、自分がバケモノになってしまうのが怖い。

(怖い……。私が、私じゃなくなるのが……怖い!)

「マリン! 手を出すな!!」

グリムジョーの猛攻を凌ぎながら、一護が叫んだ。

一護もまた、自身の内にいる虚の暴走に怯え、本来の動きの半分も出せていなかったのだ。

互いにバケモノを抱える二人だからこそ、一護はマリンの足がすくんでいる理由を痛いほど理解していた。

「あァ? なんだ、その無様な姿は」

グリムジョーが、一護の顔面を蹴り飛ばして距離を取ると、震えているマリンの方へと視線を向けた。

「てめェ、さっきから妙に気持ちわりィ霊圧を漏らしてやがるな。死神の分際で、虚の匂いがプンプンしやがる」

グリムジョーはゆっくりとマリンに歩み寄り、その胸ぐらを掴んで片手で吊り上げた。

「がはっ……! 離せ……!」

マリンは紅海月を振り下ろそうとしたが、恐怖で霊圧が乗っていないその刃は、グリムジョーの硬い鋼皮(イエロ)を傷つけることすらできなかった。

「ハッ、刃が震えてやがるぜ。てめェ、自分が持ってる『力』そのものにビビってんのか?」

グリムジョーは、獲物に失望した猛獣のように鼻を鳴らした。

「てめェ自身の牙にビビって振れねェような刃なら、そんなもんただの棒っ切れだ。……死ね、ゴミが」

グリムジョーの手から凄まじい霊圧が放たれ、マリンはゴミ屑のように放り投げられた。

「あァアアアッ!」

建物の壁に激突し、マリンは為す術もなく地面に崩れ落ちた。

全身の骨が軋み、意識が遠のく。

薄れゆく視界の中で、一護がグリムジョーに為す術もなく蹂躙され、血の海に沈んでいく姿が見えた。

(一護……ルキアちゃん……ごめん……私……なにも、できない……)

自分の恐怖に負けた。

己の命より大事な仲間が傷ついているのに、バケモノになることを恐れて、刀を振り抜くことすらできなかったのだ。

圧倒的な絶望感の中、マリンの意識は暗黒へと沈んでいった。

### 第四章:蹂躙の終わりと、立ち上がる海賊

「……そこまでだ、グリムジョー」

突如、空座町の空に響き渡った声。

空間が裂け、目隠しをした男――九番隊隊長・東仙要が姿を現した。彼は藍染の命令を無視して独断で現世を襲撃したグリムジョーを連れ戻しに来たのだ。

「チッ……邪魔が入りやがった」

グリムジョーは舌打ちをし、足元に転がる一護を見下ろした。

「命拾いしたな、死神。次に会う時までには、てめェの中のモン、少しは飼い慣らしとけよ」

黒腔(ガルガンタ)が開き、グリムジョーと東仙の姿が現世から消え去る。

静寂が戻った空座町に、冷たい雨が降り始めた。

「……くそっ……!」

ボロボロになった一護が、地面を激しく殴りつける。

ルキアは重傷を負い、自分は手も足も出なかった。己の内に潜む虚の影に怯え、全く戦えなかったのだ。

「……一護」

瓦礫の中から、フラフラと立ち上がった影があった。

マリンだった。彼女の制服は破れ、額からは一筋の血が流れ落ちている。

彼女は、自身の右手に握られた『紅海月』をじっと見つめていた。

刀身に反射する自分の顔。

雨に濡れ、恐怖に怯え、泣き出しそうな情けない顔。

パァンッ!!!

マリンは、空いている左手で、自身の頬を力いっぱい張り飛ばした。

「……マリン?」

一護が驚いて顔を上げる。

「痛っ……あーあ。せっかくの美少女のお顔が台無しワゾ」

マリンは赤く腫れた頬をさすりながら、しかし、その瞳からは先ほどまでの「恐怖」の色が完全に消え去っていた。

「……バカみたい。何が海賊船長よ。何が仲間を護るよ。……自分の中の嵐にビビって、船室で震えてるだけの船長なんて、ただの臆病者じゃん」

マリンは、紅海月を鞘に納め、一護の方へ歩み寄った。

その足取りは、ひどく傷ついているはずなのに、どこか吹っ切れたような力強さがあった。

「ねぇ、一護。私、決めたよ」

「マリン……お前……」

「もう、逃げない。私の中にいるのがどんな醜いバケモノだろうと、私がそいつの首に鎖を繋いで、這いつくばらせてやる」

マリンは一護の前に立ち、右手を差し出した。

「行くよ、一護。あの平子真子ってやつのところに」

「……」

「私たちが仲間を護るためには、もうこれしかない。……あのバケモノ(虚)の力を、私たちの力として完全にねじ伏せるんだよ」

その眼差しは、嵐の海へと漕ぎ出す覚悟を決めた、真の海賊船長のそれだった。

己のルーツ、己に課せられた呪い。それら全てを飲み込み、自分の海の一部として支配する決意。

一護は、差し出されたマリンの手を見つめ、やがて自らの血に塗れた手でそれを力強く握り返した。

「……ああ。そうだな。このままじゃ、俺たちは誰も護れねぇ」

一護もまた、瞳に闘志の炎を蘇らせて立ち上がる。

「よしっ、そうと決まったらすぐに出発だ! 善は急げだよ!」

「バカ、とりあえずルキアと俺たちの怪我を治してからだ! お前だってフラフラじゃねぇか!」

「へへっ、船長は気合いで治るから問題なし!」

雨はまだ降り続いている。

だが、二人の心に立ち込めていた暗雲は、確かな決意という名の風によって吹き飛ばされていた。

護るために、己の内の闇を喰らう。

破面という未曾有の脅威に対抗するため、宝鐘マリンと黒崎一護は、禁断の力『虚化(ホロウカ)』を習得するべく、仮面の軍勢が待つ隠れ家へと、その歩みを進めるのであった。

 

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