## 【BLEACH × 宝鐘マリン】現世決戦篇:本物の空座町
### 第四章:卍解覚醒・神の進化に対する「海賊の逆襲」
### 第一節:岩山の死闘、蝶と無月への胎動
本物の空座町から遠く離れた、荒涼たる岩山地帯。
そこは今、およそこの世のものとは思えぬ、二つの絶大な力の衝突によって地形そのものがドロドロに溶け、無残に抉り取られていた。
「……信じられない。この私が、ただの死神相手に遅れをとるなど……!」
崩玉と完全に融合し、三対の蝶のような羽を持つ異形の神へと進化した藍染惣右介。
彼が放つ完全詠唱の『破道の九十・黒棺』。時空すら歪めるその重力暴走の檻を、黒崎一護はただ素手で振るっただけで、ガラスのように粉砕してしまった。
断界(だんがい)において、二千時間という途方もない修業を経てきた一護。
彼の右手は斬魄刀の柄と完全に融合し、その身から放たれる霊圧は、もはや死神の次元すらも超越していた。
「……藍染。あんたの理屈は、もう聞き飽きた」
一護が、底知れぬ静けさを湛えた瞳で藍染を見下ろす。
「終わらせるぞ。……あんたがまだ進化するというなら、俺はそれすらも上回る力で、あんたを斬る」
「傲慢な……! 人間風情が、私を見下ろすかァアアアアアッ!!!!」
一護のその「完全な上位者」からの視線に、藍染の誇りと怒りが限界点に達した。
彼の胸に埋め込まれた崩玉が、主の激しい怒りと焦燥に呼応し、脈打つ。
ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
藍染の顔が縦に割れ、その中から真っ黒な虚(ホロウ)の仮面にも似た異形の貌が姿を現した。羽の先端には禍々しい眼球と虚の仮面が形成され、そこから漆黒の虚閃(セロ)に酷似した絶大なエネルギーが充填されていく。
死神と虚の境界を超越した、真の神の最終形態。
「……終わるのは君だ、黒崎一護ォオオオオオッ!!!!」
藍染の六つの羽から放たれた極大の閃光が、一護に向かって放射される。
山が消し飛び、大地が蒸発する。
その絶望的な破壊の奔流の中で、一護は自身の斬魄刀の刃に左手を添え、ゆっくりとその身を『最後の力』へと委ねようとしていた。
『最後の月牙天衝』。
己自身が月牙となる、死神の力を全て失う究極の技。
——だが、その発動の直前。
「……待たせたな、一護ッ!!!!」
空座町の方角から、空気を引き裂くような凄まじい爆発音と共に、群青色と漆黒の霊圧を纏った一筋の流星が、藍染の放つ閃光の側面に弾丸のように突っ込んできた。
「何ッ!?」
藍染の六つの眼球が、驚愕に動いた。
ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!
流星——宝鐘マリンが放った渾身の水圧斬撃が、藍染の閃光の軌道を僅かにずらし、一護への直撃を逸らしたのだ。
逸れた閃光は後方の山脈を完全に消滅させたが、一護は無傷のまま、その場に留まっていた。
「マリン……! お前、その傷で……!」
一護が驚きの声を上げる。
そこに降り立ったマリンは、市丸ギンの前で負った腹部の深い傷から大量の血を流し、息も絶え絶えの状態だった。だが、彼女のオッドアイだけは、虚の黄金色に不気味なほど強く輝き、強烈な殺意と闘志を放っていた。
「……ハァッ……ハァッ……一護。……あんた、何かとんでもない力を出そうとしてたね」
マリンは、血に濡れた口元を歪めて笑った。
「その力……使ったら、タダじゃ済まないんじゃないのかい?」
一護は答えなかった。それが肯定の意味であることを、マリンは即座に悟った。
「……なら、アタシが少しでも……あのバケモノを削ってやる。……アンタが、確実にその力を叩き込めるようにな!!」
「……宝鐘マリン。まだ生きていたとはね」
藍染が、異形の貌から低く響く声で嘲笑した。
「市丸の残した安い感傷に当てられたか? しかし、泥水の失敗作である君が、神の領域へと至ったこの私に、何ができるというのだ」
藍染の羽の先端にある眼球が、一斉にマリンを睨み据える。
空間そのものが重力で圧壊しそうになるほどのプレッシャー。
「……神の領域、ね」
マリンは、自身の腰にある海賊刀『紅海月(くれないくらげ)』をゆっくりと抜き放った。
「市丸ギンが、その命を懸けて教えてくれたんだよ。……どんなに高みにいる神様でも、心臓の奥底に『猛毒のバグ』を一滴でもねじ込めば、必ず死ぬってことをね」
マリンの全身から、黒紫色に濁った、おぞましい霊圧が立ち昇り始めた。
### 第二節:死線を越えた劇毒、魂の融合
「……虚の毒か。君の中に埋め込んだその力は、確かに滅却師(クインシー)にとっては猛毒だろう。だが、死神と虚の力を完全に超越した私には、もはや何の効力も持たない」
藍染が冷酷に宣告する。
「君の存在自体が、私の過去の実験の『失敗の残滓』なのだよ。消え去るがいい」
藍染の羽から、再び漆黒の閃光が放たれようとする。
だが、マリンは一歩も退かなかった。
彼女の脳裏には、両親の死、藍染への憎悪、自身の力への恐怖、そして……それら全てを越えて、仲間たちと共に笑い合った「空座町での愛おしい日々」が巡っていた。
(アタシは、泥水なんかじゃない)
マリンは、両手で紅海月の柄を強く握りしめた。
死神の清浄な霊力。
虚の全てを腐敗させる猛毒。
そして、現世で生まれた人間としての、強く、熱い魂の執着(フルブリングの源流)。
相反し、反発し合っていた三つの力が、市丸ギンの死を看取った極限の感情の中で、マリンの魂という『一つの器』の中で完全に溶け合い、結びつこうとしていた。
「……アタシは、色んな海を渡って、色んなものを拾い集めてきた海賊だ。……失敗作でも、泥水でも……」
マリンの右目に形成されていた虚の仮面が、バキバキと音を立てて砕け散り、代わりに彼女のオッドアイそのものが、深い深淵の闇と眩い星の光を同時に宿したような、異次元の色へと変貌を遂げた。
「拾い集めたもん全部が、アタシという船の最高のパーツなんだよ!!」
マリンが、紅海月の刃を、自らの血に染まった大地へと深々と突き立てた。
「……出航の時だ」
風が、止まった。
世界中の水分が、彼女の刀の切っ先へと吸い込まれていくような、異常な静寂。
一護が、マリンから放たれる未知の霊圧の重さに、目を見開く。
マリンは、顔を上げ、創造主たる藍染惣右介を真っ直ぐに見据えて、その真の名を叫んだ。
「——『卍解』!!!!!」
ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!
「——『覇海・宝鐘紅海月(はかい・ほうしょうくれないくらげ)』ッ!!!!!!」
### 第三章:卍解覚醒・覇海・宝鐘紅海月
その瞬間、現世の岩山地帯という物理法則が、根底から書き換えられた。
空が、大地が、空気が、全て『群青色』に塗り潰される。
藍染と一護、そしてマリンを包み込んだのは、霊子によって形成された巨大な固有結界——『深海一万メートルの極大水圧の海』であった。
「……な、んだ……これは……!?」
神たる藍染惣右介の口から、初めて驚愕の声が漏れた。
彼の異形の体が、凄まじい水圧によってミシミシと悲鳴を上げる。
ただの海ではない。
空間を満たす水の一滴一滴が、純度100%の『虚の劇毒』と、死神の『重霊圧』、そしてマリンの『人間の強欲なまでの魂』が極限まで圧縮された、致死量を超えた猛毒の液体だった。
「ようこそ、アタシの海へ。……神様には、ちょっとばかし息苦しい世界だろう?」
深海の底。
マリンの姿は、先ほどまでの血塗れの姿から一変していた。
彼女が纏う真紅の海賊コートは、群青と漆黒が入り交じる霊子のオーラへと変貌し、彼女の背後には、まるで巨大な幽霊船を思わせる、骨と霊子で構成された『巨大な海賊船の幻影』が浮かび上がっていた。
そして彼女の右手に握られているのは、光を完全に吸い込む漆黒の刀身に、群青の波紋がドクドクと脈打つ、真なる刃。
「卍解……。ただの実験体の残骸が……魂の真髄に至ったというのか……!?」
藍染が、水圧に抗いながら自身の羽の眼球をマリンに向ける。
「残骸じゃない。アタシは宝鐘マリン。アンタの理屈を全部ぶっ壊す、最強の海賊船長だワゾ!」
マリンが、漆黒の刀を真横に薙いだ。
「——『断界の海流(だんかいのかいりゅう)』!!」
ザバァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!
深海全体が、一つの巨大な「刃」となって藍染へと襲いかかった。
空間そのものが斬撃として機能する、回避不可能な全方位攻撃。
藍染は六つの羽から漆黒の虚閃を放ち、海流を相殺しようとする。
だが、虚閃が海流に触れた瞬間、ジュウウウウッという異音と共に、虚閃そのものが『腐食』して霧散してしまった。
「……私の霊圧が、腐って消えただと……!?」
「言っただろ。市丸ギンの毒と同じだ」
マリンが、響転(ソニード)によって深海を音もなく滑るように移動し、藍染の懐へと肉薄する。
「アタシの海は、触れた霊子の結合を根本から溶かす『劇毒』だ! 神様だろうが何だろうが、アタシの海図(テリトリー)に入った以上、全部ドロドロに溶かしてやるよ!!」
マリンの刀が、藍染の異形の胸部——崩玉が埋め込まれた箇所を狙って、下から強烈にカチ上げられた。
### 第四章:劇毒の海、神を蝕む海賊の逆襲
ガキィイイイイイイイイイイイイイイインッ!!!!
「……調子に乗るなよ、失敗作が!!」
藍染は、間一髪で右腕を盾にし、マリンの刃を防いだ。
だが、刃が触れた瞬間、藍染の右腕を覆っていた強固な白い外殻が、劇毒の霊子によってチリチリと焼け焦げ、崩れ落ちていく。
「い、つ……!! 貴様ァッ!!」
藍染が左手でマリンの首を掴もうとするが、マリンは体を捻ってそれを躱し、さらに至近距離から連撃を叩き込む。
「オラァッ! オラァッ! オラァアアアアアッ!!」
死神の白打、剣術、虚の歩法。全てが流れるように融合した、野生と理性の完全な暴力。
マリンの斬撃が藍染の羽を切り裂き、その度に猛毒が藍染の肉体に注入され、再生を阻害していく。
(……すげぇ。あいつの霊圧……完全に一つになってやがる……)
遠くからその死闘を見つめていた一護が、驚嘆の息を漏らす。
藍染を倒すのは自分だ。だが、マリンが命を削って作り出しているこの『深海の重圧』がなければ、藍染の進化の速度をここまで鈍らせることはできなかっただろう。
「……認めよう、宝鐘マリン。君のその毒は、確かに私の進化を僅かに阻害している」
藍染が、被弾しながらも、六つの眼球を不気味に光らせた。
「だが……崩玉の力は無限だ。君の毒が私を溶かす速度よりも、崩玉が私を進化させる速度の方が速い。……君の海は、いずれ私の神の力によって干上がる!!」
ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
藍染の胸の崩玉が、マリンの劇毒に対する『抗体』を作り出すべく、さらに異様な熱量と光を放ち始めた。
マリンの展開する深海の固有結界が、内側からの熱によってミシミシとひび割れ、蒸発し始める。
空間が歪み、マリンの口からゴハッと大量の血が噴き出した。
「ハァッ……ハァッ……!」
(くそッ……やっぱ、バケモノだ……! アタシの限界の毒でも、まだ進化しやがるのか……!)
卍解の過負荷と、藍染の霊圧による内側からの破壊。
マリンの肉体は、完全に限界を超えようとしていた。
だが、彼女の瞳には、諦めの色は微塵もなかった。
「……進化するなら、すればいい。……でもな、アンタがアタシの毒に気を取られてる間に……アンタの『死神(おわり)』は、もうすぐそこまで来てるんだよ!!」
マリンは、ひび割れゆく深海の中で、残された全ての霊圧を刀身に圧縮した。
「一護ォオオオオオオオオオッ!!!! 決めろォオオオオオオオオオオッ!!!!!」
マリンの絶叫と共に、彼女は自身の背後に浮かぶ巨大な『海賊船の幻影』を、自らの刀身に完全に吸収させた。
そして、藍染に向けて、己の命の炎を燃やし尽くす最後の一撃を振り下ろした。
「——『深海極大錨(アビス・グランドアンカー)』ッ!!!!」
漆黒と群青の光が、巨大な『錨』の形となって藍染の頭上から突き刺さる。
「こんなものォオオオオッ!!」
藍染が迎撃しようとした、その一瞬。
マリンが放った錨は、藍染を物理的に破壊するのではなく、彼の霊子システム(崩玉の進化プロセス)の真っ只中に、純度100%の『致命的なバグ(毒)』として突き刺さり、その動きを【ほんの数秒間】だけ、完全に強制停止させたのだ。
「が、あァッ……!? 私の……進化が……止まった……!?」
藍染の体が、極大の猛毒の鎖によって空間に縫い付けられる。
それは、市丸ギンが遺した「心臓に毒を置く」という執念の概念を、マリンが己の卍解によって魂の次元で再現した、完全なる『隙』の創造であった。
「……よくやった、マリン」
その絶対の静寂の中。
マリンの卍解の結界が完全に崩壊し、蒸発していく蒸気の向こう側から。
黒崎一護が、右手の斬魄刀と一体化し、全身から漆黒の霊圧を静かに立ち昇らせながら歩み出てきた。
彼の姿は、腰から背中にかけて包帯のようなもので覆われ、長かった髪は黒く染まり、その瞳は、もはや神すらも哀れむような、絶対的な次元の高みへと到達していた。
「……それが、君の力だというのか……黒崎一護……!」
毒の鎖に縛られ、動けない藍染が、驚愕と恐怖に顔を歪める。
一護は、血に塗れて倒れゆくマリンの姿を一瞥し、そして、静かに右腕を振り上げた。
「……『最後の月牙天衝』だ」
マリンが全てを懸けて作り出した、神の進化の停止。
その千載一遇の死角へ向けて。
黒崎一護の放つ、己自身が月牙となる究極にして最後の斬撃——『無月(むげつ)』が、絶対的な静寂と共に、神の体へと振り下ろされようとしていた。
海賊の逆襲は、神を沈めるための「最強の錨」として、その役目を完璧に果たし切ったのである。