自分用   作:raian sinra

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23話

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】現世決戦篇:本物の空座町

### 第五章:最後の月牙天衝、そして決着

### 第一節:夜の帳(とばり)、『無月』の降臨

「——『最後の月牙天衝』だ」

黒崎一護の静かで、しかし世界そのものを圧するような声が、崩壊した岩山に響いた。

宝鐘マリンが己の命と引き換えに放った『深海極大錨(アビス・グランドアンカー)』によって、進化のプロセスを強制停止させられ、空間に縫い付けられた藍染惣右介。

その眼前に立つ一護の姿は、異様であった。

右腕の肌は斬魄刀の柄と完全に融合し、漆黒の霊圧が彼の全身を包み込む。

腰から胸にかけては包帯のような物質が巻き付き、オレンジ色だった髪は長く伸び、濡れた烏の羽のように黒く染まっていた。

「……最後の、月牙天衝だと……? それは、どういう意味だ……!!」

毒の鎖に縛られながら、藍染が血を吐きながら問う。

「最後の月牙天衝ってのは……俺自身が、月牙になることだ」

一護の瞳には、かつての激しい怒りも、闘争心もない。ただ、深い湖のような静寂だけがあった。

「俺が、月牙になる……。この技を使えば、俺は……死神の力の全てを失う。……『最後』ってのは、そういう意味だ」

その言葉を聞いた瞬間、満身創痍で瓦礫の中に倒れていたマリンの体が、ビクッと跳ねた。

「……死神の力を……失う……?」

マリンのオッドアイが、信じられないものを見るように見開かれる。

(そんな……じゃあ、一護は……もう、アタシたちやルキアちゃんたちに会えなくなるって……そういうことかよ……!)

一護の背負った覚悟の重さに、マリンは唇を噛み締めた。

彼が護りたかったもの。それは、仲間たちが生きるこの世界そのもの。そのために、彼は自分自身が「死神としての世界」から追放されることを、自ら選んだのだ。

「……面白い」

藍染の顔が、狂気に歪む。

「死神の力を失うだと? 人間風情が、私という神を倒すために、己の力を全て捨てるというのか! 傲慢な……! 私の進化は止まらない! この毒の鎖も、今すぐに……!!」

藍染の胸の崩玉が激しく明滅し、マリンの毒を完全に焼き切ろうとする。

だが、遅い。

「——さよならだ、藍染」

一護が、右手を静かに天へと掲げた。

その瞬間。

現世の空から、光が消えた。

太陽の光も、霊子の輝きも、全てが漆黒の霊圧に塗り潰され、世界そのものが『絶対の闇』へと沈み込んだ。

「——『無月(むげつ)』」

一護が右腕を振り下ろす。

音は、なかった。

ただ、空間の「縦軸」そのものが、絶対的な漆黒の刃となって、藍染惣右介の体を真っ向から両断した。

「ガ……ァ…………!!!!」

藍染の絶叫すらも、漆黒の刃に吸い込まれ、音として響くことはなかった。

光を飲み込む巨大な闇の斬撃が、岩山を、大地を、そして遥か彼方の地平線までを、音もなく真っ二つに切り裂いた。

天地を分かつ、完全なる一撃。

神の進化も、不滅の肉体も、全てを無に帰す、死神・黒崎一護の全てを懸けた最後の一振りが、ついに藍染の神話を両断したのだ。

### 第二節:分かたれた神の狂態、海賊の真理

ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

漆黒の闇が晴れ、世界に再び光が戻った時。

大地の裂け目の底で、藍染惣右介は、血の池の中に地に伏していた。

彼の体を覆っていた異形の外殻——三対の羽も、虚のような真っ黒な仮面も、全てが粉々に砕け散り、元の白い死覇装姿へと戻りかけている。

「ハァッ……ハァッ……!!」

一護は、上空からゆっくりと地上へ降り立った。

彼の体を覆っていた漆黒の霊圧の殻がパキパキとひび割れ、剥がれ落ちていく。長い黒髪も元のオレンジ色に戻り、死神の力を失う『代償』が、彼の肉体を蝕み始めていた。

「……一護……!!」

マリンが、折れた刀を杖にして、引きずるように一護の元へ駆け寄る。

「バカ野郎……! 無茶しやがって……!」

一護はマリンを見て、フッと力なく笑った。

「……わりぃ。でも、お前が止めてくれなきゃ……俺の刃は届かなかった。……ありがとう、マリン」

「……バカ」

マリンは涙を堪え、崩れ落ちそうになる一護の体を、残された右手で必死に支えた。

「……くそ、が……」

大地の裂け目から、這い上がるようにして、藍染が立ち上がった。

「……私は……負けない……。私は……まだ、進化する……!!」

藍染の右腕に融合していた斬魄刀が、ボロボロと崩れ落ちていく。

だが、彼の胸にある『崩玉』だけは、未だに不気味な光を放っていた。

「見ろ……! 私の斬魄刀が消えていく……! これは、私が死神の限界を超え、斬魄刀という道具すら必要としない次元へと進化した証だ!! お前たちのような泥水や、力を失った人間に……私が敗れるはずがないッ!!」

藍染の絶叫が空回りする。

その姿は、もはや神の威厳など微塵もない。ただ己の敗北を認められない、哀れな男の狂態だった。

「……往生際が悪いよ、藍染」

マリンが、一護を支えながら、オッドアイで冷たく藍染を睨み据えた。

「アンタの斬魄刀が消えたのは、進化したからじゃない。……『崩玉』が、アンタを見限ったんだよ」

「……何だと?」藍染が血走った目でマリンを睨む。

「海賊船(アタシたち)なら、わかるさ」

マリンは、静かに言葉を紡ぐ。

「仲間(クルー)を道具扱いし、見下し、信じようとしない船長(キャプテン)の船は……最後には必ず沈む。アンタは、あの石っころ(崩玉)の力を支配してるつもりだったんだろうけど……。本当は、孤独に怯えて、誰かに止めてほしかっただけなんじゃないのかい?」

マリンの言葉は、藍染の心の最も深い、誰にも見せなかった「底」を的確にえぐり出した。

強すぎるが故の孤独。

誰にも理解されないからこそ、神として天に立とうとした。だが、彼の魂の底では、ただ「自分と同じ目線で語り合える存在」を求めていたのではないか。

「……黙れッ!! 失敗作が、私の心を分かったような口を利くかァアアアアアッ!!!!」

藍染がマリンに向けて、残された霊圧を放とうとした。

——だが。

ブシュゥウウウウウウウウウウウッ!!!

突如として、藍染の胸の内側から、複数の巨大な「紅い杭」が突き出し、彼の体を四方八方から空中に縫い付けた。

「な……なんだ、これは……!?」

藍染が、突如として出現した鬼道の封印に驚愕する。

「——『九十六京火架封滅(きゅうじゅうろっけいかかふうめつ)』。アナタのために特別に打った、新しい封印の鬼道ッスよ」

空間の裂け目から、杖を突いた男——浦原喜助が、静かに姿を現した。

### 第三節:崩玉の拒絶、そして封印の刻

「……浦原喜助……! 貴様、いつの間に私にこれを……!!」

藍染が、紅い封印の杭に抗いながら叫ぶ。

「アナタが一番最初に、完全な変容を遂げる前……アナタの隙を突いて、別の鬼道と一緒に打ち込んでおいたんスよ。……でも、今まで発動しなかった。アナタの力が強大すぎて、封印の鬼道が抑え込まれていたからです」

浦原は、帽子を深く被り直し、冷徹な目で藍染を見据えた。

「ですが、今発動した。……宝鐘サンの言う通りです。アナタの力は今、急速に弱まっている。……崩玉が、アナタを主として認めなくなったからです」

「……馬鹿な! 崩玉は私を理解した! 私は神に……!!」

「崩玉の本当の力は、『周囲の心を読み取り、具現化する力』」

浦原の言葉が、藍染の希望を完全に打ち砕く。

「アナタの心の奥底に、『ただの死神になりたい』という願いがあったのなら……崩玉は、それに答えたのかもしれないッスね」

「……私を、封印すると……言うのか……!! 浦原喜助ェエエエエエッ!!!!」

藍染の表情が、かつてないほどの激しい怒りと屈辱に歪む。

「私は君を蔑む!! なぜ、君ほどの頭脳を持ちながら、あの『霊王』という名の『モノ』に従い続ける!? あのような無惨な犠牲の上に成り立つ世界を、なぜ良しとするのだ!!」

藍染の叫び。それは、この狂った世界に対する、彼なりの正義と反逆の意志の吐露であった。

だが。

「……霊王が居なければ、尸魂界は分裂する。アレは『楔(くさび)』です。楔を失えば、世界は容易く崩壊する」

浦原は、静かに答えた。

「それは敗者の理論だ!! 勝者は常に、世界がどうあるべきかを語らなければならないッ!!!」

藍染の絶叫が虚しく響き渡る中。

紅い鬼道の光が、彼の全身を完全に包み込んでいく。

「……アンタの言う通り、この世界は理不尽で、綺麗事ばっかりじゃないかもしれない」

マリンが、封印されていく藍染に向けて、静かに言葉を投げかけた。

「……でもさ、アタシたちは、その泥水みたいな世界でも……もがいて、笑って、生きていきたいんだよ。アンタが創る、完璧で退屈な神様の世界になんか……アタシたちの居場所はないんだワゾ」

藍染の眼が、最後にマリンと、一護の姿を捉える。

そして。

カァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

凄まじい光と共に、九十六京火架封滅が完全に起動。

最強の反逆者・藍染惣右介の体は、幾重もの剣の形をした封印石の中に完全に閉じ込められ、その霊圧は、現世から完全に消失した。

静寂。

岩山地帯に、風の音だけが戻ってきた。

「……終わったんスね」

浦原が、小さく息を吐く。

「……ああ……」

一護が、その言葉に答えた瞬間。

彼の体から、残されていた死神の霊圧の最後の一滴が、ふっと霧散して消え去った。

「一護!!」

一護の体が、完全に糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。

マリンが慌ててその体を抱きとめた。

### 第四節:力の代償、見えなくなる世界

「……わりぃ、マリン。……もう、力が入らねェ……」

一護は、マリンの腕の中で、焦点の合わない目で空を見上げた。

彼の髪は完全に元のオレンジ色に戻り、黒装束も破れ散っている。

そして何より、マリンには分かった。一護の魂から、あの圧倒的で、温かかった『霊力』の気配が、急激に萎縮し、閉じようとしているのが。

「……一護、あんた……霊力が……」

マリンの声が震える。

「……ああ。……最後の月牙天衝を使ったからな。……ここから先は、俺の霊圧は完全に消えていく。……霊の姿も、見えなくなる……」

一護は、重い瞼をゆっくりと動かし、マリンの顔を見た。

「……お前のことも……もうすぐ、見えなくなるのか……」

マリンは、唇を強く噛み締めた。

オッドアイから、大粒の涙が溢れ出し、一護の頬に落ちる。

「……バカ野郎。なんで、アタシたちのために……アンタが全部、背負わなきゃならないんだよ……」

「……バカはお前だろ。……お前だって、左腕……無くしたじゃねェか……」

一護が、震える手を伸ばし、マリンの頭の海賊帽にポンと触れた。

「……護れて……よかった。……お前らも……この、街も……」

一護の視界が、次第にぼやけていく。

霊子で構成されたマリンの体が、半透明に透け始めているのが分かった。

死神としての力が、彼の中から完全に抜け落ちていく。

「……一護」

マリンは、涙を拭い、無理やり笑顔を作った。

「……今は、ゆっくり休みな。……アンタが死神の力を失っても、アンタがこの世界を護ったって事実は、絶対に消えない」

マリンは、一護の手を、両手で強く握りしめた。

「……アンタの目に見えなくなっても……アタシたち宝鐘海賊団は、いつだってアンタの街の海を、護り続けてるからな。……だから、安心して……普通の高校生に戻れ。一護」

「……ああ……。……じゃあな……マリン……。みんなによろしく、言っといてくれ……」

その言葉を最後に、一護は完全に意識を手放し、深い、深い眠りへと落ちていった。

彼とマリンを繋いでいた霊的な繋がりが、プツンと切れる。

「……お疲れ様。アタシたちの、最高の死神代行(ヒーロー)」

マリンは、眠る一護の寝顔を見つめながら、静かに呟いた。

### 第五節:エピローグ・空座町の帰還、海賊の誓い

数時間後。

尸魂界の技術開発局と浦原喜助の尽力により、尸魂界へと転送されていた「本物の空座町」が、無事に現世へと戻された。

眠らされていた住民たちは、自分たちが一度死の淵に立たされていたことなど知る由もなく、平和な朝の光の中で目を覚まそうとしている。

空座町の、とある高台。

朝焼けが、崩壊を免れた街並みをオレンジ色に染め上げていた。

「……綺麗な朝焼けッスね」

浦原喜助が、杖を突きながら朝日を見つめる。

その傍らには、応急処置を受け、ルキアや恋次、織姫、茶渡、雨竜たちと共に立つ宝鐘マリンの姿があった。

マリンの失われた左腕は、織姫の『双天帰盾』による決死の治療によってなんとか修復されたが、まだ完全に動かすことはできない。

それでも、彼女は真紅の海賊コートを羽織り、風に吹かれながら、眠る街を見下ろしていた。

「……ああ。……本当に、綺麗な海(そら)だ」

マリンは、眼帯型のバイザーを押し上げ、オッドアイを細めた。

この平和な景色は、市丸ギンが己の全てを懸けて藍染の心臓に毒を置き、一護が自身の力の全てを捨てて放った『無月』によって、辛くも護り抜かれたものだ。

「……黒崎のやつ、自分のベッドで爆睡してるみたいだぞ」

恋次が、現世の通信機からの報告を受けて笑う。

「……そうか。あいつが目を覚ました時……もう、私の姿は見えなくなっているのだろうな」

ルキアが、少しだけ寂しそうに伏し目がちに言った。

「……ルキアちゃん」

マリンが、ルキアの肩をポンと叩く。

「見えなくなったって、アタシたちの絆が切れるわけじゃない。……あいつが護ってくれたこの街を、今度はアタシたちが護る番だ」

マリンは、腰の『紅海月』の柄を力強く握りしめた。

「藍染は封印されたけど、まだアタシの魂の中には『虚の毒』が残ってる。……失敗作だろうが何だろうが、この力を使って、アタシはこの海を荒らすバケモノどもを全部叩き斬ってやるワゾ!」

マリンの元気な宣言に、ルキアも、織姫たちも、ふっと顔をほころばせた。

「……頼もしいッスねぇ。これからは、宝鐘サンが現世の用心棒ってわけですか」

浦原が帽子を揺らして笑う。

「用心棒じゃない。アタシは海賊船長だ!」

マリンは、朝日に向かって大きく深呼吸をした。

「宝鐘海賊団、これにて現世防衛の任に就く!……一護がいつか、またアタシたちの姿を見つけるその日まで……この街の平和は、アタシがガッチリと錨を下ろして護り抜くからな!!」

昇りゆく太陽の光が、マリンの真紅のコートと、仲間たちの笑顔を暖かく照らし出す。

神を騙る悪魔との長きにわたる死闘は、ここに完全に終結した。

代償は大きかった。

失われた命、失われた力。

だが、彼らが勝ち取ったこの「普通の明日」は、何よりも代えがたい宝物だった。

一人の死神代行が全てを懸けて護り抜いた平和な海を、今度は強欲で心優しい海賊船長が、その誇りにかけて護り継いでいく。

彼女たちの航海は、終わらない。

どこまでも続く青空の下、宝鐘マリンの新しい日々が、高らかな笑い声と共に幕を開けたのである。

(現世決戦篇・完)

 

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