自分用   作:raian sinra

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X9話

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】千年血戦篇:第二次侵攻・霊王宮の落日

### 第一章:影の帝国の再来、群青の咆哮

### 第一節:天を裂く隕石、塗り潰された故郷

霊王宮と瀞霊廷を隔てる七十二の障壁。

本来ならば王属特務の鍵と正規の手順を踏まなければ通過できない絶対の防壁が、凄まじい轟音と共に次々とガラスのように粉砕されていく。

「退けェエエエエエッ!!!」

空座町を、そして世界を護るための力を取り戻した死神代行・黒崎一護。

そして、己の魂に潜む『虚(ホロウ)の劇毒』を完全に統べ、真の海賊船長として覚醒した宝鐘マリン。

霊王宮の清浄なる大気から、戦火と血の匂いが立ち込める下界へと、二つの特異点はまさに隕石のごとき速度で降下していた。

摩擦熱で赤熱化する大気のドームの中で、マリンは『真・紅海月』の柄を強く握りしめ、眼下を見据える。

だが、そこに広がっていた景色は、彼女の知る『瀞霊廷』ではなかった。

「……嘘だろ。どうなってんだよ、これ」

風圧に逆らいながら、マリンが呟く。

本来ならば、白壁と木造の隊舎が立ち並ぶ、古き良き街並みが広がっているはずの場所。

しかし、眼下にあるのは、一面を冷たく無機質な「氷と白の建造物」に覆い尽くされた、見知らぬ異世界だった。中央には禍々しい巨大な十字の塔がそびえ立ち、空は不気味な暗雲と霊子の膜に覆われている。

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の拠点『真世界城(ヴァールヴェルト)』——いや、彼らが千年の間、瀞霊廷の影の中に潜ませていた氷の帝国『見えざる帝国(シルバーン)』そのものが、瀞霊廷の空間を文字通り「上書き」して顕現していたのだ。

「……影の中から、街ごとひっくり返したってのかよ。……ふざけやがって!」

マリンのオッドアイに、激しい怒りの炎が灯る。

ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!

一護とマリンが、氷の帝国の石畳に激突した。

着地の衝撃だけで、周囲数百メートルの建造物が粉塵となって吹き飛び、巨大なクレーターが形成される。

もうもうと立ち込める煙の中、マリンは真紅の海賊コートを翻し、ゆっくりと立ち上がった。

「来たぞォ!! 霊王宮からの降下者だ!!」

「一斉射撃!! 塵も残すな!!」

着地と同時。すでに周囲を包囲していた見えざる帝国の聖兵(ゾルダート)たちが、一斉に光の矢を放ってきた。

全方位からの、数百にも及ぶ神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)の豪雨。

「……一護、ここはアタシが引き受ける! あんたは先に行け!!」

「頼む、マリン!!」

一護が響転(ソニード)にも似た絶烈な歩法で、一瞬にして包囲網を抜け、遠くの戦場へと消えていく。

残されたマリンに、無数の光の矢が殺到する。

だが、彼女は一歩も動かず、ただ右手に握った漆黒と群青の刃——『真・紅海月』を、軽く横に薙いだ。

「——『水鏡の盾(みずかがみのたて)』」

ザバァアアアアアアアアアッ!!!

マリンの足元の空間から、突如として真っ黒に濁った高水圧の壁がドーム状に吹き上がった。

数百の光の矢が水壁に突き刺さる。しかし、矢はマリンに届くどころか、水壁に触れた瞬間にジュウウウッという異音を立てて、ドロドロに溶け落ちてしまった。

「な……矢が溶けた!?」

聖兵たちが驚愕に目を見開く。

「……悪いね。今のこの船長(アタシ)は、全身にアンタらが一番嫌いな『猛毒(ホロウ)』をパンパンに溜め込んでるんだ。……触ったら、火傷じゃ済まないワゾ!!」

マリンが水壁を解除し、刃を振り下ろす。

放たれた群青と漆黒の斬撃が、前方の聖兵数十人を一瞬にして薙ぎ払い、その霊子構造を完全に腐敗させて砂へと変えた。

「ひ、退け! 虚の力だ!! この死神、特記戦力に匹敵する劇毒を持っていやがる!!」

聖兵たちが恐慌状態に陥り、後退しようとする。

圧倒的なワンサイドゲーム。海賊船長の上陸は、滅却師たちに未知の恐怖を植え付けたかに見えた。

だが——。

「……なるほど。確かにこいつは、厄介な毒物だ」

瓦礫の山の上から、奇妙な格好をした男が、その様子を冷ややかに見下ろしていた。

ゴーグルを額に乗せ、白と黒の格子模様が入ったコートを着た男。星十字騎士団(シュテルンリッター)の「U」の聖文字を持つ男、ナナナ・ナジャークープである。

### 第二節:『無防備(アンダーベリー)』の分析、霊圧の格子

「……誰だよ、アンタ。その変な柄のコート、海賊のセンスから言わせてもらうと最悪なんだけど」

マリンは刀を肩に担ぎ、ナナナを睨みつけた。

「フン。センスを語るには、お前のそのツギハギだらけの霊圧はどうなんだ? 死神の力と、虚の泥水。……霊王宮で何をされてきたかは知らないが、見事なまでに歪な魂だ」

ナナナは、指先で自身の歯をカチカチと鳴らしながら、マリンの周囲を歩き始める。

「俺の聖文字は『U』。……『無防備(アンダーベリー)』」

ナナナが右手を掲げると、マリンの周囲の空間に、突如として緑色に光る無数の「格子模様」が浮かび上がった。

それは、マリンの肉体と霊圧の構造を、精密なグリッド線でスキャンするような異様な能力。

「え……? なにこれ」

マリンが警戒して刀を構えるが、格子は彼女の動きに合わせてピタリと追従する。

「無駄だ。俺の眼からは逃れられない。俺の能力は、相手の霊圧の分布や流れを完全に視覚化し、その中にある『致命的な隙(弱点)』を特定すること」

ナナナは、ゴーグル越しにマリンの霊圧構造を観察し、口角を歪めた。

「どんなに強大な霊圧を持っていようが、生物である以上、霊子の循環には必ず『ムラ』ができる。お前のように死神と虚という相反する力を無理やり混ぜ合わせている混成体(ハイブリッド)なら、なおさらだ。……見えたぜ。お前の霊圧の結合が、最も脆くなっている箇所がな」

ナナナが指を鳴らすと、マリンの腹部付近の格子が「U」の字に赤く発光した。

「そこを俺の霊子で突けば、お前の霊圧は完全に麻痺し、指一本動かせなくなる。……いくら猛毒を持っていようと、撃ち出せなければただの的だ!」

ナナナの指先から、「U」の字の形をした特殊な霊子の弾丸が発射される。

それは、物理的な破壊力ではなく、相手の霊圧システムを内部からショートさせるための麻痺針。

「……アハッ。かかったな、失敗作!」

ナナナが勝利を確信した笑みを浮かべる。

だが、マリンの顔には、焦りも恐怖も一切なかった。

彼女は、迫り来る「U」の字の弾丸を避けることすらせず、ただ静かに、そして獰猛に笑い返した。

「……バカだね、アンタ。アタシの海図(システム)を、たかが数秒覗き見たくらいで理解した気になってんのかい?」

### 第三節:群青の咆哮、深淵の卍解

ズチュゥウウウウウウウッ!!!

「U」の字の弾丸が、ナナナが特定したはずのマリンの「弱点」に正確に命中した。

しかし、マリンの体は麻痺するどころか、ピクリとも揺らがなかった。

弾丸は、マリンの腹部に触れた瞬間、そこに渦巻いていた「漆黒の重圧」によって、まるでミキサーにかけられたように粉々に粉砕されてしまったのだ。

「な……!? 馬鹿な! 確かにあの瞬間、そこがお前の霊圧の最も脆い部分だったはずだ! なぜ麻痺しない!?」

ナナナが驚愕し、何度も目をこする。

「あの瞬間、はね」

マリンは、真・紅海月の切っ先をナナナへと向けた。

「アンタのその計算尺(能力)……止まってる水たまりを測るには丁度いいかもしれないけど、アタシの『海』を測るには小さすぎるよ」

マリンの周囲に展開されていた緑色の格子模様が、内側から発生した凄まじい水圧によってミシミシと軋み始める。

「海ってのはね、絶えず流れてるんだよ。表面が凪いでいても、底では恐ろしい海流が渦巻いてる。死神の清浄な水と、虚の黒い猛毒……アタシはこの二つの力を、一箇所に留めずに常に全身で激しく循環(ミックス)させ続けてる。……アンタが『弱点』を見つけたと思った次の瞬間には、そこはもう、アタシの体で一番凶悪な『毒の渦』に変わってるんだよ!!」

マリンの言葉と共に、彼女の全身から、先ほどまでとは比較にならない、霊王宮で鍛え上げられた極限の『覇気』が立ち昇る。

瀞霊廷の氷の石畳が、水圧に耐えきれずに砕け沈んでいく。

「……海賊船長(アタシ)の船(リズム)は、アンタなんかの物差しじゃ、永遠に計れない。……その生意気な計算尺ごと、深海一万メートルで押し潰してやる!!」

マリンが、真・紅海月の柄を両手で握り、刀身を天へと突き立てた。

「——卍解」

ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

「——『覇海・宝鐘紅海月(はかい・ほうしょうくれないくらげ)』!!」

その言葉が解放された瞬間。

見えざる帝国が上書きしたはずの氷の空間が、ドロリと「群青色」に歪んだ。

ナナナの視界から、空が消え、大地が消える。

気がつけば彼は、光一つ届かない、底知れぬ深海の底——圧倒的な水圧と、息を吸うことすら許されない『猛毒の海』の中へと引きずり込まれていた。

「がはッ……!? なんだ、この……異常な重力(プレッシャー)は……!!」

ナナナが膝をつく。立っていることすら不可能な重圧。

マリンの真・卍解。

それは、かつてのように巨大な幽霊船を顕現させるだけのものではなかった。

空間そのものを、マリンの魂の形である「毒の海」へと強制的に置換する、絶対的な固有結界。

展開された海は、清浄な霊子と虚の黒い霊子が複雑に絡み合い、秒間数万回という途方もない速度でその構造(海流)を変化させ続けていた。

「測ってみなよ。アンタのその『無防備(アンダーベリー)』で、この海の弱点をさ」

マリンの冷酷な声が、深海に響き渡る。

ナナナは必死に能力を起動しようとするが、緑色の格子模様は展開された瞬間に、激しい海流によって引きちぎられ、猛毒によって腐食し、使い物にならなくなっていく。

「ば、馬鹿な……霊子の構造が、狂ったように変わり続けている……! 演算が……演算が追いつかないッ!! これが、死神と虚のハイブリッドの力だとでも言うのか……!!」

### 第四節:断界の海流、海賊の錨

「演算が追いつかないなら、あとは溺れるだけだね」

マリンが刀を構える。

その背後に、漆黒と群青の霊子で構成された、巨大な『錨(いかり)』の幻影が浮かび上がった。

それは、彼女が霊王宮の試練で手にした、己の存在を世界に繋ぎ止める絶対の意志の象徴。

「アタシの毒は、滅却師(アンタら)を絶対に逃がさない。……沈みやがれ!!」

マリンが真・紅海月を大上段から振り下ろす。

「——『断界の海流(だんかいのかいりゅう)』・『重撃の錨(アンカー・ブレイク)』!!」

深海の全水圧と、純度100%の虚の猛毒を圧縮した、極大の水柱。

それが、逃げ場のない海の中で、巨大な錨の形となってナナナ・ナジャークープへと真っ直ぐに叩きつけられた。

「ヒィイイイイイイイイイイイイイッ!?」

防ぐ術などない。静血装(ブルート・ヴェーネ)を展開しようにも、触れた端から虚の毒が霊子を腐敗させていく。

絶対の死の質量が、ナナナの体を直撃した。

ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!

瀞霊廷の一部が、文字通り「陥没」した。

氷の帝国に、底知れぬ深淵の穴が開く。

凄まじい衝撃波が、周囲にいた聖兵たちを枯れ葉のように吹き飛ばし、結界の海が晴れた後には、全身の骨を砕かれ、猛毒によって霊子を焼き切られて完全に気絶したナナナの姿だけが残されていた。

「……ふぅ」

マリンは刀を振り下ろした姿勢から、ゆっくりと立ち上がり、残心と共に刃を鞘へと納めた。

カチリ、と鍔が鳴る音が、静まり返った戦場に響く。

「……計算通りに動く世界なんて、クソくらえだ。アタシたち海賊は、いつだって予想外の嵐を乗り越えて進むんだよ」

倒れた星十字騎士団を一瞥し、マリンはすぐさま踵を返した。

彼女の眼差しは、すでに次なる戦場——瀞霊廷の各地で苦戦を強いられている死神たちの気配へと向けられている。

「……待ってなよ、みんな。この船長(アタシ)が戻ってきたからには、これ以上好き勝手はさせないワゾ!」

海賊船長・宝鐘マリンの帰還。

それは、絶望に沈みかけていた尸魂界にとって、滅却師のシステムを根底から破壊する「劇毒」であり、同時に、反撃の帆を上げるための最強の「防波堤」の誕生であった。

群青の咆哮は、氷の帝国に確かに響き渡り、神の眼を欺くための最初の一滴となったのである。

 

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