自分用   作:raian sinra

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X11話

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】千年血戦篇:第二次侵攻・霊王宮の落日

### 第三章:天蓋の崩落と海賊の直感、世界を繋ぐ猛毒の錨

### 第一節:音のない終焉、空から降り注ぐ「黒い泥」

それは、爆音ではなく「完全な無音」として始まった。

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)によって氷の都市へと作り替えられた瀞霊廷。

ナナナ・ナジャークープを深海の底へと沈めた宝鐘マリンが、荒い息を吐きながら真・紅海月を鞘に納めた直後。

彼女の足元の石畳が、ふわりと、無重力空間に放り出されたかのように浮き上がった。

「……え?」

マリンは自身の足元を見下ろした。

重力が消えたのではない。世界を固定していた「絶対の理(ルール)」が、根本から消失したのだ。

風が止み、時間が凍りついたような奇妙な静寂。

その直後、尸魂界の空——幾重もの霊子の障壁に守られ、霊王宮へと続く絶対不可侵の「天蓋」に、ピキッ、と巨大な亀裂が走った。

パァアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

遅れて届いたのは、世界そのものが悲鳴を上げているような、鼓膜を破るほどの凄まじい崩壊音。

空が、文字通り「割れた」。

青空を模した霊子の膜がガラスのように砕け散り、その向こう側に、光一つない真っ黒な宇宙のような虚無がパックリと口を開けた。

「……嘘だろ。一護のやつ、間に合わなかったっていうのか……!?」

マリンのオッドアイが見開かれる。

割れた空の向こうから、何かが落ちてくる。

雨ではない。隕石でもない。

それは、どす黒く粘り気のある「巨大な泥の奔流」だった。

よく見れば、その泥の一つ一つが、不気味な「単眼」を持った異形の群れ(※霊王の力の暴走した姿)としてうごめいている。

「ひ、ヒィイイイッ! なんだあれは!!」

「空が……空が落ちてくるぞォオオオッ!!」

生き残っていた死神の隊士たちや、敵であるはずの滅却師(クインシー)の聖兵たちまでもが、迫り来る世界の終焉を前に、武器を放り出して絶望の悲鳴を上げた。

黒い濁流は、触れた空間そのものを「無」に還しながら、瀞霊廷に向かって滝のように降り注いでくる。

逃げ場など、どこにもない。

霊王という世界の楔(くさび)が破壊された今、尸魂界も、現世も、虚圏も、等しくこの黒い濁流に飲み込まれ、一つの混沌へと還る。

それが、ユーハバッハの望んだ「死のない世界」への強制的な書き換えだった。

### 第二節:混成体の直感、境界線を繋ぐ者

「……みんな、逃げろォッ!!」

死神の隊士の一人が叫ぶが、腰を抜かして動けない者が大半だった。

マリンもまた、その圧倒的な終焉のスケールを前に、一瞬だけ足が竦んだ。

(アタシ一人で、空が落ちてくるのを止められるわけがない……。逃げる? どこへ? 世界が壊れるなら、逃げる場所なんて……)

だが、絶望に支配されそうになったマリンの魂に、突如として強烈な「警鐘」が鳴り響いた。

ドクンッ!!

マリンの心臓が激しく跳ねる。

それは、恐怖によるものではない。彼女の魂の奥底——霊王宮の試練を経て完全に同化を果たした『虚(ホロウ)の力』が、空から降ってくる「霊王の黒い泥」に対して、異様なほどの対抗心と生命力を爆発させたのだ。

(……なんだ? アタシの中の海が、あいつらを『喰える』って言ってる……?)

マリンは直感した。

世界を安定させていた霊王。それは純粋なる神の力。

それが失われたことで、世界の境界線(ボーダー)が崩壊している。

だが、マリン自身の魂の構造はどうだ?

死神の清浄なる力。

人間の温かな魂。

そして、それらを繋ぎ止めるための劇毒——『虚の力』。

彼女は元々、藍染惣右介によって人為的に三つの世界を混ぜ合わされた「混成体(ハイブリッド)」である。

つまり、彼女の存在そのものが『三つの世界の境界を無視した特異点』なのだ。

世界が混ざり合って崩壊しようとするならば、最初から混ざり合ってなお「宝鐘マリン」という個(アイデンティティ)を保ち続けている彼女の魂こそが、この崩壊を食い止める最高の『接着剤(アンカー)』になり得る。

「……なるほどね。失敗作の泥水だからこそ、このバカでかい泥水に耐えられるってわけだ」

マリンは、逃げ惑う隊士たちに背を向け、一人、崩落する天蓋に向かって歩み出た。

彼女の顔に、もう恐怖はない。

あるのは、どんな理不尽な嵐が来ようとも、絶対に自分の船(せかい)を沈ませないという、海賊船長の途方もない強欲さだけだった。

「一護……アンタが霊王宮で何をしてるかは知らない。でも、アンタがユーハバッハをぶっ飛ばすまで……この下界の空は、アタシが護る!!」

### 第三節:天蓋の防波堤、深淵の海を天に敷く

マリンは腰を深く落とし、真・紅海月の柄を両手で強く握りしめた。

「——卍解」

先ほどナナナを沈めたばかりの卍解。しかし、今度は規模が違う。

相手は一人の滅却師ではない。「落ちてくる空」そのものだ。

マリンは自身の魂のエンジンを、安全装置を全て無視して限界の彼方までオーバーロードさせた。

「——『覇海・宝鐘紅海月(はかい・ほうしょうくれないくらげ)』ッ!!!!」

ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

瀞霊廷の中央から、極太の、巨大な群青色の霊圧の柱が、天に向かって逆巻くように立ち昇った。

それは上空でドーム状に広がり、崩落してくる黒い濁流を迎え撃つための「巨大な海の天蓋」へと姿を変える。

ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!

空から落ちてきた霊王の黒い泥と、下から展開されたマリンの群青の海が、上空数千メートルの位置で正面衝突した。

衝撃波だけで、瀞霊廷に残っていた氷の建造物が次々と粉砕されていく。

「がはァッ……!!」

マリンの口から、鮮血が噴き出した。

重い。あまりにも重い。

世界の崩壊という物理的・霊的な全質量が、真・紅海月の刀身を通して、マリンの華奢な両腕と魂に直接圧しかかってきたのだ。

「ふ、ざけ、るな……ッ! こんなもん……波に比べたら……ただの小雨だワゾ!!」

マリンは歯を食いしばり、刀を天に突き上げたまま、一歩も退かない。

空では、異次元の攻防が繰り広げられていた。

霊王の黒い泥(単眼の異形たち)が、マリンの海の防壁を食い破ろうと無数に群がってくる。

だが、マリンの海はただの水ではない。純度100%の『虚の劇毒』がブレンドされた、触れるもの全てを腐食させる深淵の海。

ジュウウウウウウウウウッ!!!

黒い泥たちが海に触れた瞬間、劇毒によって細胞を焼かれ、悲鳴のような音を立てて蒸発していく。

神の力による世界の崩壊を、不純なバケモノの猛毒が中和し、相殺しているのだ。

「す、すげぇ……! 空が、落ちてこない!」

「宝鐘隊長が……たった一人で空を支えてる……!!」

生き残った死神たちが、上空に広がる群青の防波堤と、血を流しながらそれに耐えるマリンの姿を見上げて震えた。

だが、マリン自身の状況は、端から見るほど余裕のあるものではなかった。

### 第四節:極限の侵食、魂の楔(くさび)

ミシッ……。

マリンの右腕の骨が、嫌な音を立てた。

霊圧の放出量が、肉体の許容量を完全に超えている。血管がはち切れ、毛穴という毛穴から血が滲み出し、彼女が立つ地面はすり鉢状に深く沈み込んでいた。

「アァアアアアアアアアッ!!」

限界を超えた力を引き出し続けるマリンの顔に、異変が起きた。

彼女の意思とは無関係に、右目の周囲の霊子が凝固し、白い骨の『仮面』が顔の半分を覆い尽くすように強制的に形成され始めたのだ。

魂が、この異常な重圧から生き延びるため、より強靭な『虚(ホロウ)』の肉体へと強引に変質しようとしている。

(くそッ……意識が……持っていかれる……!)

マリンの視界が赤黒く染まる。

頭の中で、バケモノの声が囁く。

『死ぬぞ、マリン。全てを私に委ねろ。理性を捨てて、ただ暴れ狂う獣になれば、この空の重さにも耐えられる』

「……黙れッ!」

マリンは、仮面に侵食されながらも、残された左目で空を睨み据えた。

「理性を捨てて、獣になって生き残るくらいなら……アタシは、海賊船長(にんげん)のまま、ここで死んでやる!!」

彼女は自身の魂の核を、決して虚に明け渡さなかった。

自分が何者であるか。

両親が命を懸けて残してくれた愛。

一護たちと過ごした、バカみたいに平和で愛おしい日常。

それらを護るために、彼女はここに立っているのだ。

「アタシの船に……バケモノの居場所はない。……一緒に空を支える気がないなら、海の底に引っ込んでろォオオオオオッ!!」

マリンの魂からの咆哮が、彼女自身の暴走しかけた虚の力を力ずくでねじ伏せた。

顔の半分を覆っていた仮面が、彼女の意志によって「眼帯」のような形へと再構成され、ピタリと固定される。

死神、虚、人間。

三つの力が、極限の死地において、奇跡的なまでの「完全な均整(バランス)」を保った瞬間だった。

「——『断界の海流』・『不動の極大錨(グランド・アンカー)』!!!」

マリンの霊圧が、さらに一段階跳ね上がる。

上空で濁流を食い止めていた群青の海が、巨大な漆黒の「錨」の形へと変化し、崩れゆく天蓋と瀞霊廷の大地を、物理的に、そして霊的に縫い付けるように突き刺さった。

ドズゥウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!

世界が、止まった。

霊王の死によって崩壊し、落ちてこようとしていた黒い空が、マリンの展開した巨大な群青の錨によって、上空で完全に固定されたのだ。

黒い泥たちがどれほど暴れようと、猛毒の海がそれを喰らい、分解し、世界の均衡を無理やり維持し続ける。

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

マリンは、両手で刀を天に突き上げたまま、肩で荒い息をしていた。

全身は血塗れで、右腕は骨折し、皮膚は霊圧の熱で焼け焦げている。

だが、彼女のオッドアイは、かつてないほどに強く、澄み切った光を放っていた。

「……見たかよ、ユーハバッハ」

マリンは、割れた空の向こう側にいるはずの神に向かって、血だらけの口元を歪めて笑った。

「アンタが壊そうとした世界は……アタシたち海賊が、力ずくで繋ぎ止めてやったワゾ」

彼女は知っていた。

自分が空を支えていられるのは、長くても数十分、あるいは数分かもしれない。

限界を迎えれば、錨は砕け、彼女の魂ごと世界は崩壊する。

だが、その「数分」があれば、あいつなら必ず奇跡を起こす。

「頼んだよ……一護。……アタシたちの空を、取り戻してくれ……!!」

瀞霊廷の大地に一人立ち、世界の崩壊を背中で支え続ける宝鐘マリン。

「失敗作」と呼ばれた少女は今、三つの世界を繋ぐ真の特異点となり、見えざる帝国の神話を根底から食い破る、最も美しく強靭な『劇毒の錨』として、その命を燃やし尽くしていたのである。

 

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