自分用   作:raian sinra

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4話

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】第三部:引き裂かれた空と、紅き海月の出航

### 第一章:滅却師の宣戦布告と、崩壊の始まり

空座町の平穏は、一人の少年の冷酷な指先によって唐突に終わりを告げた。

「僕は滅却師(クインシー)。死神を……君たちを、決して許さない」

空座第一高校の裏庭。手芸部員で、どこか影のある優等生・石田雨竜は、黒崎一護に向かってそう冷たく言い放った。彼の指先には、青白い霊子で形成された弓が握られている。

一護と、その横に立つ朽木ルキア、そして宝鐘マリンの三人は、その張り詰めた霊圧に息を呑んだ。

滅却師。それは、かつて死神たちによって滅ぼされた、虚(ホロウ)を消滅させる力を持つ人間の集団。

石田は懐から小さなカプセルを取り出すと、それを指先で無造作に砕いた。

「勝負だ、黒崎一護。どちらがより多くの虚を倒せるか……僕と君、どちらがこの街を護るに相応しいか」

それが『撒き餌』と呼ばれる、虚を強制的に呼び寄せる危険な道具だとルキアが気づいた時には、既に遅かった。

ゴゴゴゴゴ……という地鳴りのような低い音が、空座町の空を震わせる。

見上げた空には、ガラスが割れるような黒い亀裂が無数に走り、そこから禍々しい虚の目玉が次々と覗き込んでいた。

「おい、冗談だろ……!」

一護が顔を引きつらせる。

「バカモノ! こんな数の虚を現世に呼び寄せるなど、街がどうなるか分かっているのか!」

ルキアの怒鳴り声も虚しく、空の裂け目から雨粒のように虚が降り注ぎ始めた。

その瞬間、マリンの全身をかつてない悪寒と、そして奇妙な「高揚感」が襲った。

「っ……あ……」

胸の奥底で、ドクン、と重い鼓動が鳴る。街中から立ち昇る無数の虚の霊圧。それが、マリンの魂の奥深くに封じられた『虚の力』を激しく揺さぶっていた。息が荒くなり、視界の端が赤黒く明滅する。

「マリン! 大丈夫か!?」

一護が心配そうに振り返るが、マリンは自らの腕を強くつねって意識を保ち、無理やり口角を上げた。

「へ、平気! それより一護、あっちこっちで霊圧が爆発してる! 早く行かないと、街中が喰われちゃう!」

「……ああ! クソッ、石田! てめぇ絶対後でぶん殴るからな!」

一護が死神化し、弾かれたように街へ飛び出していく。石田もまた、飛廉脚(ひれんきゃく)を使って別の方向へと姿を消した。

残されたマリンとルキア。

「マリン、貴様は顔色が悪い。ここに隠れて……」

「ダメ。たつきちゃんや織姫ちゃんたちが、まだ学校にいる。私が行かないと……!」

マリンは自身の内側で暴れ狂う力を必死に押さえ込みながら、校舎へ向かって駆け出した。

### 第二章:半覚醒の海賊、出航せよ『紅海月』

校舎は既にパニック状態に陥っていた。

グラウンドには巨大な猿のような虚が降り立ち、逃げ遅れた生徒たちにその巨大な腕を振り下ろそうとしていた。その標的の先には、足がすくんで動けない井上織姫と、彼女を庇うように立つ有沢たつきの姿があった。

「たつきちゃん! 織姫ちゃん!」

マリンは無我夢中で二人の前に飛び出した。

迫り来る巨大な拳。霊的な防御力など持たない生身の体で受ければ、間違いなく即死する。

(力が欲しい。この理不尽を叩き斬る、剣が!)

マリンが強く念じた瞬間、彼女の意識は深い精神世界へと引きずり込まれた。

荒れ狂う暗い海。その水面から、顔の半分に白い骸骨の仮面を被った「もう一人の自分」が姿を現し、嘲笑う。

『ほら見ろ。お前は無力だ。私を解放しろ。そうすれば、全てを喰らい尽くしてやる』

「……黙れ。私は、誰かを傷つけるための力なんていらない。私が欲しいのは……仲間を護るための力だ!」

マリンは暗い海に向かって、迷うことなく両手を突っ込んだ。

指先に、冷たくも確かな硬い感触が触れる。それは紛れもなく、彼女の魂の形。

『影』が舌打ちをするのと同時に、マリンは光り輝く一本の刀を海中から引き抜いた。

「——あなたの名前、教えてもらったよ」

現実世界。

虚の拳が直撃する直前、マリンの口から静かに、だが確かな霊圧を伴った言霊が紡がれた。

「出航せよ『紅海月(くれないくらげ)』」

ドォンッ!!

凄まじい水圧が爆発し、蒼い水柱がグラウンドにそそり立った。虚の巨大な拳は、その水流の壁に弾き飛ばされる。

「え……? マリン……?」

腰を抜かしたたつきと織姫が、信じられないものを見る目で親友の背中を見つめた。

水煙が晴れた後、そこには制服の一部が死覇装のように黒く変質したマリンが立っていた。

彼女の右手には、鍔が海賊の操舵輪のような形をした、滑らかな曲線を描くカットラス(海賊刀)が握られている。刃の表面には、まるで生きているかのように清らかな水流が絶えず纏わりついていた。

「ごめんね、二人とも。ちょっと船長、本気出すから下がってて」

マリンは振り返らずにそう言うと、地面を蹴った。

そのスピードは、先ほどまでの彼女とは別次元だった。一瞬で虚の懐に潜り込むと、水流を纏った刃を一閃する。

「シィッ!」

斬撃と共に高圧の水刃が飛び、虚の足を深く切り裂いた。悲鳴を上げる虚の頭上へ跳躍し、脳天から刃を突き立てる。

『紅海月』の能力は、水流の操作と機動力の強化。流れるような連撃で、巨大な虚はいとも容易く崩れ落ちた。

しかし、着地したマリンの息は絶え絶えだった。

右目だけが、虚ろな金色に染まっている。刀から放たれる清らかな水の霊圧に混じり、彼女自身の体からドス黒く重い霊圧が漏れ出していた。死神の力(始解)を無理やり引き出したことで、魂の底にある虚の力が封印を破って表層に溢れ出そうとしているのだ。

(くっ……体が、重い……。バケモノの声が、頭の中でガンガン響く……!)

「マリン、アンタその姿……!」

「こっちに来ないで!」

近づこうとするたつきを、マリンは鋭い声で制止した。今の自分は危険だ。いつ理性を失い、暴走するか分からない。

それでもマリンは、震える手で『紅海月』を握り直し、次なる虚の気配に向けて再び走り出した。

### 第三章:巨人の右腕と、盾舜六花

同じ頃。

空座町の別の場所でも、石田の撒き餌によってもたらされた未曾有の危機が、一護の仲間たちの運命を大きく変えようとしていた。

黒崎夏梨を護るため、見えない敵と対峙していた茶渡泰虎(チャド)。

彼は昔から、霊の姿を見ることができなかった。だが、その強靭な肉体は確かに霊の存在を感じ取っていた。

今、彼自身の命を狙い、夏梨を傷つけようとしている見えない怪物。

『……護るんだ』

かつて、愛する祖父(アブエロ)から教わった言葉。己の巨大な拳は、誰かを殴るためではなく、誰かを護るためにある。

その強い意志が限界を超えた時、チャドの右腕を黒と赤の装甲が包み込んだ。

「巨人の右腕(ブラソ・デ・ヒガンテ)」。

霊気を物理的な破壊力に変換するその力が覚醒したチャドは、見えなかったはずの虚の姿を明確に捉え、その強烈な一撃で怪物を粉砕した。

一方、学校に残り、親友の有沢たつきを連れて逃げていた井上織姫にも、魔の手が迫っていた。

『ナムシャンデリア』と呼ばれる、種子を打ち込んで人間を操る虚。その毒牙にかかり、操られた生徒たちが織姫たちに襲いかかる。さらには、たつきまでもが虚の攻撃を受け、重傷を負ってしまった。

「いやああああっ! たつきちゃん!!」

血を流す親友の姿。自分を護るために、いつも傷ついてくれたたつき。

(もう嫌だ。私ばっかり護られてるなんて……。私も、たつきちゃんを護りたい!)

織姫の純粋で強烈な悲痛と祈り。それが、兄から貰ったヘアピンに宿る霊力を目覚めさせた。

光の中から現れたのは、六人の小さな妖精たち。彼女自身の魂の力が具現化した能力、『盾舜六花(しゅんしゅんりっか)』。

「私は……たつきちゃんを、みんなを護る!!」

「孤天斬盾(こてんざんしゅん)! 私は拒絶する!」

織姫の叫びと共に、六花の一人・椿鬼が虚に向かって突撃し、その体を真っ二つに切り裂いた。

奇しくも同じ日、同じ空の下で。

黒崎一護という強大な霊圧の中心に引き寄せられ、影響を受けた者たちの魂が、次々と未知の力への扉をこじ開けていったのだ。

### 第四章:引き裂かれた空、大虚(メノスグランデ)降臨

街中の虚を片っ端から斬り伏せていた一護と、矢で射抜いていた石田。

二人の勝負は、既に勝敗の次元を超えていた。あまりにも多くの虚が現世に現れ、そして消滅したことで、空間の霊子濃度が異常な数値に達していたのだ。

ゴアアアアアアアアアアッ……!!!

突如、これまでとは比較にならないほど重く、濃密で、絶望的な霊圧が空座町を押し潰した。

空に走っていた黒い亀裂が、まるで巨大な爪で引き裂かれるように、メリメリと大きく広がる。

「なんだ……ありゃあ……」

息を呑む一護。

裂け目の奥から姿を現したのは、ビルよりも遥かに巨大な体躯を持つ、漆黒の外套を纏った怪物。顔には長い鼻を持つ白い仮面。

無数の虚が共喰いを繰り返すことで誕生する、最下級の大虚(メノスグランデ)『基力安(ギリアン)』であった。

「逃げろ一護! アレは死神の精鋭部隊が相手にするクラスの化け物だ! 貴様らでどうにかなる相手ではない!」

駆けつけたルキアが絶叫する。

しかし、大虚はゆっくりと仮面の口を開き、その口元に禍々しい赤い光を収束させ始めた。

虚閃(セロ)。

それが放たれれば、空座町の一部が跡形もなく消し飛ぶ。

「逃げるだぁ!? 冗談じゃねぇ、あんなモン撃たせてたまるか!」

一護は巨大な斬魄刀を背負い直し、大虚に向かって真っ直ぐに走り出した。石田もまた、「死神の好きにはさせない」と憎まれ口を叩きながら、霊子の弓を最大まで引き絞って一護の隣に並ぶ。

そこへ、一筋の水流が地面を滑るように駆け抜けてきた。

「はぁ……はぁ……! 船長を、置いていくな……!」

「マリン!?」

現れたマリンの姿に、一護は目を見開いた。彼女の右手には見慣れぬ刀が握られ、その全身からは死神の力と、それを喰い破ろうとするような禍々しい虚の力が混ざり合った、酷く不安定な霊圧が立ち昇っていた。

マリンの右目は完全に虚ろな金色に染まり、顔の右半分には白い仮面の破片のようなものが浮かび上がっている。

「お前、その姿……それにその霊圧、まるで……!」

「今は……そんなこと気にしてる場合じゃないでしょ……!」

マリンは自身の胸を強く叩き、暴走しそうになる意識を無理やり現実に縛り付けた。

「あのデカブツの攻撃……一護と石田くんの力で押し返す! 私が……隙を作る!」

### 第五章:一撃の決着

大虚の口元で、赤い閃光(セロ)が極限まで圧縮されていく。

マリンは『紅海月』を両手で握りしめ、自身の限界を超える霊圧を刀身に注ぎ込んだ。

(バケモノ……力を貸せ! この街を……私の居場所を護るために!)

彼女の内なる声に応えるように、紅海月の刃から噴き出す水流が、青から赤黒い色へと変色していく。

マリンは渾身の力で地面を蹴り、大虚の足元へ向かって跳躍した。

「大波(おおなみ)……喰らえッ!!」

振り抜いた紅海月から、赤黒く染まった巨大な水流の渦が放たれた。それは大虚の巨大な足首に巻き付き、その巨体を大きくぐらつかせる。

「ギィイイイイイ!?」

足場を崩された大虚の口元から放たれた虚閃の軌道が、大きく上に逸れる。

「今だ! 一護!!」

マリンが叫ぶと同時に、一護が石田の背中を踏み台にして大虚の頭上へと跳び上がった。石田もまた、一護の刀に自身の最大の霊子を込めた矢を放ち、一護の斬撃の威力を底上げする。

「うおおおおおおおおおおッ!!」

一護の巨大な斬魄刀が、大虚の白い仮面を上から下へと一刀両断に叩き斬った。

凄まじい霊圧の爆発が起こり、一護の放った巨大な斬撃が空の亀裂をも切り裂いていく。

「ガァアアアアアアアッ……!!」

仮面を割られた大虚は、耐えきれずに悲鳴を上げながら、引き裂かれた空の奥深くへと退却していった。

そして、空の裂け目は見えない糸で縫い合わされるように、ゆっくりと塞がっていく。

静寂が、街に降りてきた。

「……終わった、のか……?」

一護が地面に降り立ち、荒い息をつく。石田も弓を下ろし、その場に座り込んだ。

少し離れた場所では、限界を迎えたマリンが、刀を握ったまま膝をついていた。

顔に浮かんでいた仮面の破片は消え、右目の色も元のオッドアイへと戻っている。手の中の『紅海月』も、役目を終えたように元の浅打の姿に戻り、ふっと消滅した。

「マリン!」

一護が慌てて駆け寄り、倒れ込むマリンの体を抱き留めた。

「ははっ……やればできるじゃん、一護……」

「お前こそ、なんだよあの力。無茶しやがって……!」

マリンは一護の腕の中で、安心したように目を閉じた。

彼女の半覚醒。それは彼女がこれから向き合わねばならない、残酷な運命と自身の正体への扉を開いてしまったことを意味していた。

だが今はただ、全員が生きてこの街を護り抜けたことだけが、彼女にとっての唯一の救いであった。

空には、虚騒動の余波を洗い流すかのように、静かな雨が降り始めていた。

それぞれの魂が新たな力を目覚めさせた、長く激しい一日が、こうして終わりを告げたのである。

 

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