## 【BLEACH × 宝鐘マリン】千年血戦篇:真世界城(ヴァールヴェルト)の激闘
### 第三章:天守閣の落日、全知全能(ジ・オールマイティ)の絶望
### 第一節:目覚める神、絶望の玉座
真世界城(ヴァールヴェルト)の頂にそびえる、巨大な天守閣。
かつて霊王宮の中枢であったその場所は、今や見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の皇帝ユーハバッハの霊圧によって、禍々しくも静謐な「神の玉座」へと変貌していた。
崩れゆく回廊を駆け抜け、ついにその最深部へと到達した黒崎一護と井上織姫。
彼らを待っていたのは、玉座の上で静かに微睡むユーハバッハの姿であった。
「……来たか、暗闇に生まれし我が息子よ」
ユーハバッハがゆっくりと目を開く。
その瞳孔は、異様に分裂していた。二つ、三つと、一つの眼球の中に複数の瞳が蠢く、神の力を完全に開眼させた『全知全能(ジ・オールマイティ)』の瞳。
その視線に射抜かれた瞬間、一護は自身の魂の底から、名状しがたい悪寒が這い上がってくるのを感じた。
「……てめェを斬りに来た。霊王を吸収し、世界を壊そうとするてめェを!!」
一護が二刀の『真・斬月』を構え、全身から死神の霊圧と虚(ホロウ)の力を融合させた、強大な白と黒のオーラを立ち昇らせる。
「私を斬るか。……面白い。ならば視せてみろ、お前が私をどう斬るのかを。私は全てを視ているぞ」
一護が動いた。
「『響転(ソニード)』!!」
虚の高速歩法を用い、一瞬にしてユーハバッハの背後へと回り込む。右手の長刀が、ユーハバッハの首筋を捉えた。
——だが。
「……遅いな」
一護の刃が届くより先に、ユーハバッハの霊子の剣が一護の腹部を浅く切り裂いていた。
「がはッ!?」
一護が後方へ飛び退く。織姫が即座に『三天結盾』を展開し、ユーハバッハの追撃を防ごうとする。
しかし、ユーハバッハは歩みを止めることなく、ただ空間を「歩いた」だけで、織姫の絶対防御である盾がガラスのようにパリンと砕け散った。
「なっ……私の盾が!?」
「無駄だ。お前たちがどう動き、どう防ぐか。私は遥か前からその『未来』を視て知っている。知っている力で私を倒すことはできず、防ぐこともできない」
ユーハバッハの剣が、見えない軌道を描いて一護を執拗に追い詰める。
一護が避けたはずの空間に、突如として霊子の罠(トラップ)が出現し、一護の体を切り裂く。
まるで、一護が『自分から剣の前に飛び込んでいる』かのように。
「くそッ……!! なんなんだ、こいつの動きは……!!」
一護は、虚化の究極形態である『完全虚化(完全なホロウの力を死神の力と融合させた姿)』——頭部に一本の角を生やした姿へと変貌し、至近距離から王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)と月牙天衝を融合させた絶大なる一撃を放った。
ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
天守閣の半分を吹き飛ばすほどの凄まじい閃光。
「やったか!?」
だが、煙が晴れた先には、かすり傷一つ負わず、悠然と立つユーハバッハの姿があった。
一護の放った絶対の破壊光線は、ユーハバッハの体を『避けるように』空間ごと逸らされていたのだ。
「……言ったはずだ。私が視て、知った力で、私を殺すことはできないと」
ユーハバッハの複数の瞳が、冷酷に一護を見下ろす。
「……なら、てめェが視ていようが関係ねェほどの、最大の力で叩き斬るだけだ!!」
一護は、残された全霊圧を二振りの斬月に注ぎ込んだ。
刀身から噴き上がる霊圧が、天守閣の空間をビリビリと震わせる。
これが、彼が霊王宮で手にした、全ての因縁を束ねた究極の刃。
一護が二本の刀を交差させ、その真の名を叫んだ。
「——『卍解』!!」
「『天鎖斬月(てんさざんげつ)』ッ!!!!」
### 第二節:折られた未来、全知全能の真実
凄まじい霊圧の爆発。
二つの刃が一つに融合し、巨大で無骨な、白い外殻に包まれた真の『天鎖斬月』が顕現する——。
——はずだった。
バキィイイイイイイイイイイインッ!!!!
「……え?」
一護の口から、間抜けな声が漏れた。
彼の手に握られていた、今まさに解放されたばかりの『天鎖斬月』。
その巨大な刀身は、ユーハバッハに向かって振り下ろされるよりも前に。
一護が卍解の霊圧を放ち終えた、まさにその瞬間に。
——刀身の中腹から、無残に、真っ二つに『折られて』いたのだ。
「な……に……?」
一護は、折れた自らの刃と、落ちていく刀身の先端を、信じられないものを見るような目で見つめた。
ユーハバッハは一歩も動いていない。剣を振ってもいない。
ただ、玉座の前で静かに立っているだけだ。
「……なぜ折れたか、理解できないという顔だな。黒崎一護」
ユーハバッハが、絶望に凍りつく一護に向けて、残酷な真実を口にする。
「お前は、私の『全知全能』を、単なる『未来を視る力』だと勘違いしている」
ユーハバッハが右手を虚空に伸ばす。
「未来とは、一つではない。無数の砂粒のように散らばった、無数の可能性だ。私はその全てを高い場所から見下ろし、視ることができる。……だが、真の絶望はそこではない」
ユーハバッハの手が、空中の見えない砂粒を『つまむ』ような動作をした。
「私の力は、未来を視るだけではない。視た未来を『改変する(書き換える)』力だ。……私は今、ここで剣を振ったのではない。お前が私に斬りかかってくる『未来』において、お前のその卍解を『折っておいた』のだ」
「……未来で……折った……?」
一護の頭が真っ白になる。
防御も、回避も、反撃も、全てが無意味。
どんなに強力な技を放とうとも、どんなに速く動こうとも、敵は「現在」ではなく「未来」で、すでにその武器を破壊し、罠を仕掛けている。
抗うことすら許されない、真の『神の力』。
「終わりだ、黒崎一護」
ドンッ!!
ユーハバッハの影が一護の胸を強打し、その体を天守閣の壁まで吹き飛ばした。
「がはァッ……!!」
「一護くんッ!!」
織姫が悲鳴を上げて駆け寄ろうとするが、ユーハバッハの霊圧だけで地面に縫い止められ、身動きが取れなくなる。
「お前が私を倒す未来は、どの砂粒を探しても存在しない。……お前の力、お前の魂、お前の絶望。その全てを、私が喰らってやろう」
ユーハバッハの足元から、底知れぬ真っ黒な影が溢れ出し、倒れた一護の体を這い上がり始めた。
### 第三節:天蓋の落日、光の略奪(アウスヴェーレン)
その頃。
天守閣の遥か下方、真世界城の広場では、宝鐘マリンたちがジェラルド・ヴァルキリーを粉砕し、一息ついた直後であった。
「……急ぐぞ!! 一護が危ない!!」
マリンが天守閣から放たれた異様な霊圧の揺らぎを感じ取り、真・紅海月を握り直して階段へと駆け出そうとした。
だが、その瞬間。
カァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
天守閣の最上部から、真世界城の空を貫くような、目も眩むような『純白の光の柱』が天から降り注いだ。
「なっ……なんだ、この光は!?」
日番谷冬獅郎が腕で顔を覆う。
光は、城の下層で浦原喜助たちと死闘を演じていたアスキン・ナックルヴァールや、今まさに粉砕されたばかりのジェラルド・ヴァルキリーの霊子の残滓を、容赦なく包み込んだ。
「……陛下……なぜ……」
光に包まれた滅却師たちは、自身の力が、命が、魂の底から「強制的に剥がれ落ちていく」のを感じていた。
——『聖別(アウスヴェーレン)』。
それは、ユーハバッハが自身の力として分け与えた滅却師たちの魂を、命ごと強制的に徴収する絶対の略奪。
「……あいつ、味方まで食い物にしてんのかよ……!!」
マリンのオッドアイに、戦慄と激しい怒りが走る。
自分が作り出した「船員(クルー)」を、ただの道具として使い捨て、自らの糧とする。それは、仲間を何よりも大切にする海賊船長・宝鐘マリンの信条に対する、最悪の冒涜であった。
ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
聖別によって親衛隊たちの膨大な力を吸収したユーハバッハの霊圧が、ついに限界を超え、天守閣の上部を内部から大爆発させて吹き飛ばした。
「一護ォオオオオオオッ!!」
マリンは、崩れ落ちてくる瓦礫の雨を『響転(ソニード)』で縫うように躱しながら、一直線に天守閣の王座へと飛び上がった。
白哉や日番谷もそれに続くが、彼らの前には、ユーハバッハの放つ濃密すぎる「影の霊圧」が壁となって立ち塞がる。
「退けェエエエエッ!!」
マリンは真・紅海月を一閃し、影の壁を『虚の劇毒』で強引に腐食させ、単身で天守閣の内部へと突入した。
だが、彼女がそこで目にしたのは、あまりにも残酷な光景だった。
### 第四節:虚ろな抜け殻、神の重圧(プレッシャー)
「……一、護……?」
マリンの足が、玉座の間でピタリと止まった。
崩壊した天守閣の中心。
そこには、純白の死覇装を血に染め、両手をついて泥のように地面に這いつくばる、黒崎一護の姿があった。
彼の傍らには、無残に真っ二つに折られた『天鎖斬月』が転がっている。
そして何より異常だったのは、一護の体から、彼を構成していた「虚の力」である白い装甲と、「滅却師の力」の象徴であった霊圧が、完全に消失していたことだ。
「あ……ああ……」
一護の瞳には、光がない。
絶望の底に沈み、魂そのものを空洞にされたような、完全な『抜け殻』。
「……遅かったな、混成体(ハイブリッド)の小娘」
玉座の上に立つ影の王、ユーハバッハが、ゆっくりとマリンを見下ろした。
彼の体は、一護から奪い取った虚と滅却師の力、そして霊王の力を完全に吸収し、もはや形を持たない『真っ黒な影の塊』に無数の瞳が浮かぶ、真の異形(かみ)へと変貌していた。
「黒崎一護の力は、全て私が喰らった。死神と虚、滅却師の力……これほどまでに美味な力は久しぶりだ。……全ては、私の中で一つに還った」
「……てめェ……!! 一護に……一護に何しやがったァアアアアッ!!」
マリンのオッドアイが、激しい怒りに燃え上がる。
彼女は真・紅海月を両手で構え、ユーハバッハに向けて跳躍しようと、地面を蹴った。
——ドズゥウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!
「がはァッ!?」
跳躍した瞬間。マリンの体は、上空から見えない巨大な山に押し潰されたかのように、激しく地面に叩きつけられた。
「ごふッ……な……んだ、これ……!?」
物理的な攻撃ではない。
ユーハバッハの体から発せられる、ただの『霊圧の重み』。
それが、マリンの全身の骨を軋ませ、肺から空気を強制的に絞り出していた。
「……無駄だ。泥水の海賊よ」
ユーハバッハが、冷酷に見下ろす。
「お前の中にある『虚の毒』。確かにそれは、かつての私にとっては致命的なノイズとなり得る不快な代物だった。……だが、霊王を吸収し、黒崎一護の力すらも喰らい尽くした今の私にとって、お前の毒など、広大な海に垂らした一滴の泥水に過ぎない」
ユーハバッハが視線を向けるだけで、マリンの体内にあった『虚の毒の霊子』が、凄まじい拒絶反応を起こして悲鳴を上げた。
「アァアアアアアアッ!?」
マリンの全身から血が噴き出す。
彼女の毒が、ユーハバッハの絶対的な『全知全能の力』によって、完全に制圧(オーバーライド)されてしまったのだ。
「……抵抗するな。お前のそのツギハギの魂も、やがて来る『死のない世界』で、私が一つに纏めてやろう。……そこで、無様に這いつくばって見ているがいい」
ユーハバッハは、一護にも、マリンにも、もはやトドメを刺す価値すら見出さなかった。
彼にとって、彼らはすでに「完全に終わった存在」であった。
「……待て……」
マリンが、血を吐きながら、折れた指で真・紅海月の柄を掴もうとする。
「私は下へ行く。尸魂界(ソウル・ソサエティ)、現世、虚圏(ウェコムンド)。……全ての境界を破壊し、世界を一つにするためにな」
ユーハバッハの足元に巨大な影の門が開き、彼の巨体が、ゆっくりと下界へと沈んでいく。
「待てよッ……! 逃げんじゃねェ!! ユーハバッハァアアアアアッ!!」
マリンの絶叫が虚しく響く中、影の門は完全に閉じ、ユーハバッハの姿は真世界城から完全に消失した。
後に残されたのは、崩壊する天守閣と。
治癒の術すら通じず、泣き崩れる井上織姫。
力を奪われ、瞳の光を完全に失った黒崎一護。
そして、神の圧倒的な重圧の前に、自らの『劇毒の錨』すらも通じなかったという絶対的な敗北感を刻み込まれた、血塗れの宝鐘マリンだけであった。
(……負けた……?)
マリンは、震える手で自身の刀を見つめた。
霊王宮で己の魂と向き合い、手にしたはずの最高の船。
それが、未来を書き換えるという神の理不尽の前に、出航する間もなくへし折られた。
真世界城の空を覆っていた紫黒の雲が、絶望の雨を降らせ始める。
尸魂界の命運は、完全に尽きたかに見えた。
誰もが諦め、世界が終わるのを待つしかない、最悪の落日。
だが、この圧倒的な絶望の底でこそ、真の海賊の『強欲さ』が試される時であることを、彼女はまだ、思い出せずにいた。