自分用   作:raian sinra

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6話

## 【BLEACH × 宝鐘マリン】第六部:深淵の底、真実の海へ

### 第一章:目覚めと、突きつけられた限界

全身を苛む激痛と共に、宝鐘マリンは目を覚ました。

視界に広がるのは、見慣れた浦原商店の天井。どうやら、地下修練場から運び出されたらしい。彼女の傍らでは、握菱テッサイが腕を組み、険しい表情で彼女を見下ろしていた。

「……テッサイ、さん」

「お目覚めですか。無理はなさらないでください。貴女の魂魄は、内なる虚(ホロウ)の暴走によって致命的なダメージを負う寸前でした」

テッサイの言葉に、マリンは地下での出来事を鮮明に思い出した。

一護の虚化に共鳴し、自分の顔を覆い尽くそうとした白い仮面。自我を喰い破ろうとする悍ましいバケモノの声。それを止めるために、自らの爪で仮面を叩き割ったこと。

そして、気を失う直前に聞いた、浦原喜助の冷酷な宣告。

『――マリンサンは、今のままでは尸魂界(ソウル・ソサエティ)には連れて行けません』

「……一護は?」

「店長と、最終段階の修行を行っています。彼の死神の力は、完全な形で目覚めようとしています」

床下から、かすかに響いてくる地鳴りのような衝撃音。それは、一護と浦原が地下修練場で激しい死闘を繰り広げている証拠だった。

マリンは奥歯を強く噛み締め、軋む体に鞭を打って布団から這い出した。

「おやめなさい! 今の貴女が動けば……!」

「止めても無駄だよ、テッサイさん。……海賊が、自分の船を降りる時は、死ぬ時だけだって決めてるの」

ふらつく足取りで、マリンは地下への階段を下りていく。

テッサイは彼女の背中を止めようと手を伸ばしたが、その華奢な背中から放たれる、悲壮なまでの決意に触れ、静かに手を下ろした。

地下空間に出ると、凄まじい霊圧の嵐が吹き荒れていた。

一護は浦原と剣を交え、幾度となく斬り伏せられながらも、決して目を逸らさずに立ち上がり続けている。彼の瞳には、ルキアを救うという確固たる意志と、己の斬魄刀の声を聴こうとする強靭な集中力が宿っていた。

(一護は……あんなに前を向いてる。なのに、私は)

「おや、起きてきちゃったんスか」

浦原が一護の攻撃を軽くあしらいながら、ちらりとマリンに視線を向けた。

「言ったはずスよ。アナタの修行は終わりだ、と」

「……まだだよ」

マリンは折れた浅打の柄を握りしめ、浦原を真っ直ぐに睨みつけた。

「私だって……ルキアちゃんを助けたい。一護と一緒に戦いたい。私の力は、私がコントロールしてみせる」

「無茶を言わないでください」

浦原は扇子で顔を隠し、冷たく言い放つ。

「アナタの魂は、誰かの手によって意図的に虚と混ぜ合わされた『歪な泥水』スよ。死神の力だけを掬い上げようとしても、必ず虚の毒が混ざる。尸魂界でその力を使えば、ルキアサンを助ける前に、アナタ自身が護廷十三隊に『虚』として消される」

「それでも……!」

「マリン」

不意に、浦原と対峙していた一護が剣を下げ、マリンの方を振り返った。

汗と血に塗れた顔。だが、その瞳は驚くほどに澄んでいた。

「……焦んじゃねぇよ。お前がどんなバケモノ抱えてようが、お前は俺の家族で、一緒に戦う仲間だ」

一護はニヤリと笑う。

「俺は先に行ってる。お前も、必ず這い上がってこい」

その言葉は、マリンの心に深く突き刺さった。

一護は、マリンの力を信じている。彼女が必ず、自分自身の力で立ち上がることを疑っていないのだ。

マリンの目から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「……うん。待ってて、一護」

そのやり取りを見ていた浦原は、やれやれと大げさに肩をすくめた。

「……仕方ないですねェ。そこまで言うなら、本当に『死ぬかもしれない』最終手段を試してみますか」

### 第二章:隔離された精神と、深海への潜行

浦原が用意したのは、結界を張った特別な修行場だった。

四方を巨大な注連縄(しめなわ)で囲まれた陣の中央に、マリンは正座させられた。

「今から私が、アナタの魂に直接『特殊な鬼道』を打ち込みます。これは、アナタの魂の表層にこびりついている『虚の霊子』を一時的に麻痺させ、無理やり引き剥がすための劇薬ス」

浦原は杖の先端をマリンの額に向けた。

「ただし、引き剥がされる苦痛は想像を絶します。それに耐え抜き、アナタの魂の『一番深い場所』へ潜りなさい。そこに、アナタの本当の斬魄刀があるはずです」

「……わかった。やって」

マリンは浅打を膝の上に置き、静かに目を閉じた。

浦原が呪文を詠唱し、杖の先端から強烈な光が放たれる。

「――『魂縛・白波(こんばく・しらなみ)』!」

「ァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

マリンの口から、絶叫が弾けた。

全身の血管に焼け火箸を突っ込まれたような激痛。魂そのものが引き裂かれるような感覚に、目の前が真っ白になる。

しかし、彼女は決して意識を手放さなかった。歯を食いしばり、血を流しながら、己の精神世界の奥底へと意識を向ける。

気がつくと、彼女はいつもの暗い海に浮かんでいた。

だが、今回は様子が違った。いつも彼女を嘲笑う『顔の半分の仮面を被った影』の姿がなく、黒い波もどこか力が弱い。浦原の鬼道が、虚の力を抑え込んでいるのだ。

(今しかない……! この海の、もっと奥へ!)

マリンは息を大きく吸い込み、暗い海の中へと頭から飛び込んだ。

冷たく、重い水圧が彼女の体を締め付ける。下へ、下へと潜っていく。

虚の怨嗟の声が耳元でかすかに響くが、マリンはそれを無視してただひたすらに光の届かない深淵を目指した。

どれくらい潜っただろうか。

不意に、周囲を覆っていた暗闇が嘘のように晴れた。

「……え?」

マリンが目を開けると、そこは息を呑むほどに美しい、透き通った瑠璃色の海中だった。

水底には、白砂がどこまでも広がり、色とりどりの珊瑚が淡い光を放っている。そして、その中央には、黄金の装飾が施された巨大で優美な『海賊船』が静かに沈んでいた。

嵐が吹き荒れる暗黒の水面のずっと下には、こんなにも静かで、穏やかで、美しい世界が広がっていたのだ。

### 第三章:真実の『紅海月』

「……よくここまで辿り着きましたね、我が主(あるじ)」

凛とした、しかしどこか包み込むような温かい声が響いた。

マリンが振り返ると、そこには海賊船の舳先に腰掛ける、一人の女性の姿があった。

透き通るような赤い髪。海賊の船長を思わせる豪奢で優美な真紅のコートを羽織り、その足元はまるでクラゲの触手のように、美しいフリルのドレスが水に揺らいでいる。

彼女の顔はマリンに瓜二つだったが、その瞳は穏やかで、深い慈愛に満ちていた。

「あなたが……」

「ええ。私が、あなたの魂の真の形。死神としての力そのもの……『紅海月(くれないくらげ)』です」

紅海月はふわりと水底に降り立ち、マリンの前に立った。

「ずっと、あなたの声は聞こえていました。ですが、あの黒く淀んだ力(虚)が海面を覆い尽くしていて、私の声はあなたに届かなかった」

「ごめん……私、バケモノの声ばっかり気にして、あなたのこと、見ようとしてなかった」

マリンが俯くと、紅海月は優しくマリンの頬に手を添えた。

「謝る必要はありません。あなたの魂にあの忌まわしい力を混ぜ込んだのは、悪意ある何者かの仕業。あなたはただの被害者です。……ですが」

紅海月の瞳が、真っ直ぐにマリンを射抜く。

「あなたは、あの暴風雨(虚)を恐れるあまり、海そのものを恐れ、操舵輪から手を離していた。……真の船長とは、嵐に怯えて船室に引きこもる者のことですか?」

その言葉に、マリンはハッとした。

自分の内にある虚の力が怖かった。暴走して、大切な人を傷つけるのが恐ろしかった。だから、力を心の底から信じきれず、常にどこかでブレーキをかけていたのだ。

「海は時に荒れ狂い、全てを飲み込む暴力となります。あの虚の力もまた、今やあなたの海の一部。……それを切り捨てることはできません」

紅海月は、自らの手から一本の美しい海賊刀を現出させ、マリンに差し出した。

「嵐を恐れず、荒波を乗りこなし、その先にある自由な海へ仲間を導く。それが、あなたの望んだ『海賊船長』の姿なのでしょう?」

マリンは差し出された刀を見つめ、そして、力強く頷いた。

「……うん。私は、仲間を護るために強くなりたい。自分のルーツが何であれ、私の中にどんなバケモノが棲んでいようと……この魂(フネ)の舵を握るのは、私だ!!」

マリンが紅海月の柄を力強く握りしめた瞬間。

彼女の精神世界に、眩いほどの瑠璃色の光が満ち溢れた。

暗く淀んでいた海面の黒が、海底から湧き上がる清浄な光の奔流によって完全に浄化され、見渡す限りの青い海へと姿を変えていく。

紅海月が、満足そうに微笑んだ。

「良い覚悟です、船長。……さぁ、私の名を呼びなさい!」

### 第四章:出航の刻、蒼き霊圧の目覚め

現実世界。

鬼道の陣の中で気を失っていたマリンの体から、突如として凄まじい霊圧が噴き上がった。

「なっ……!?」

様子を見守っていたテッサイが驚愕に目を見開く。

それは、大虚と戦った時に放った、あの禍々しく重い霊圧ではなかった。

圧倒的に澄み切り、どこまでも深く、そして荒れ狂う波のような力強さを秘めた『純粋な死神の霊圧』。

霊圧の余波だけで、浦原が張っていた強固な結界の注連縄がパァンッ!と弾け飛んだ。

「……素晴らしい」

浦原が、帽子を押さえながら目を細める。

「虚の力に一切頼らず、自らの魂の深淵から純度百パーセントの死神の力を引きずり出した。……これでこそ、海賊船長スね」

眩い蒼い光の柱が収まり、砂埃が晴れる。

そこには、ゆっくりと立ち上がる宝鐘マリンの姿があった。

制服のままだった彼女の装いは、一護と同じように黒い『死覇装(しはくしょう)』へと変化していた。ただし、腰の帯は赤く、どこか海賊を思わせる着崩し方をしている。右目も左目も、虚ろな光など一切ない、彼女自身の美しいオッドアイのままだ。

マリンは、右手に握った浅打をゆっくりと体の正面に構えた。

その表情に、もはや一切の迷いや恐怖はない。

「……お待たせ、みんな」

マリンは大きく息を吸い込み、その言霊に全ての霊圧を乗せて放った。

「出航せよ——『紅海月(くれないくらげ)』!!」

ドォォォォォォンッ!!!

マリンの刀から、膨大な水流が間欠泉のように噴き出し、彼女の周囲を渦巻いた。

水流が弾け散った後、彼女の手に握られていたのは、美しい曲線を描く白銀の刃を持つカットラス(海賊刀)。鍔は操舵輪を模した黄金色で、柄には赤い布が巻かれている。

刃の表面には、まるで意志を持っているかのように、澄み切った水流が絶えず滑らかに這わせていた。

「これが……私の、本当の力」

マリンが紅海月を軽く振るうと、空気を切り裂くような鋭い音と共に、残像のように水滴が宙を舞った。刀そのものの重量感は消え去り、まるで自分の腕の一部のように軽く、そして鋭い。

「お見事ス、マリンサン」

パチパチパチ、と拍手をしながら浦原が近づいてくる。

「見事に内なる虚を押さえ込み、純粋な始解に至りましたね。今のその霊圧なら、尸魂界のいかなる死神も、アナタを虚だと疑うことはないでしょう」

「浦原さん……テッサイさんも、ありがとね。無茶な修行に付き合ってくれて」

マリンは紅海月を肩に担ぎ、ふふん、と誇らしげに胸を張った。

「これで私にも、尸魂界へ行くパスポートが発行されたってことでいいんだよね?」

「ええ、もちろんス。立派な戦力ですよ」

そこへ、ドスドスと足音を立てて、巨大な包丁のような斬魄刀『斬月』を背負った一護が歩み寄ってきた。

彼は死覇装姿のマリンと、彼女の手に握られた紅海月を見て、ニヤリと口角を上げた。

「……遅えよ、マリン。待ちくたびれたぜ」

「ふふっ、船長は最後に登場するからカッコいいんじゃない。それに、一護のデカいだけの刀より、私の刀の方が断然スマートで美しいでしょ?」

「あァ? てめぇ、俺の斬月をバカにすんのか!」

いつものように軽口を叩き合い、額をぶつけ合う二人。

しかし、互いの瞳には、過酷な修行を乗り越えた者同士の、絶対的な信頼が宿っていた。

### 第五章:未知なる海、尸魂界へ

数日後。

浦原商店の地下空間には、尸魂界へ向かうためのメンバーが集結していた。

死神の力を完全に取り戻した、黒崎一護。

滅却師の力を極め、専用の装束を纏った、石田雨竜。

巨人の右腕を完全に我が物とした、茶渡泰虎。

盾舜六花を使いこなし、決意を胸に秘めた、井上織姫。

そして、道案内役として人間の姿となった黒猫、四楓院夜一。

「全員、準備はいいスね?」

浦原が杖を掲げると、空間が捻じ曲がり、尸魂界へと通じる巨大な門『穿界門(せんかいもん)』が現れた。

門の奥には、薄暗い霊子の通路がどこまでも続いている。

ここを抜ければ、そこは死神たちの住まう世界、尸魂界。ルキアを救うための、そして護廷十三隊という強大な敵との果てしない戦いの海が待っている。

「……行くぞ」

一護が気合を入れるように声をかけ、真っ先に門へと足を踏み入れた。

石田、チャド、織姫もそれに続く。

マリンは門の前で立ち止まり、一度だけ後ろを振り返った。

現世。自分が育った、温かくて騒がしい日常。

自分のルーツは、藍染惣右介という男の悪逆な実験の産物かもしれない。自分の魂の中には、今も恐ろしいバケモノが眠っている。

けれど、もう迷わない。自分が何者であるかは、自分で決める。

「マリンサン」

浦原が、静かに声をかけた。

「向こうで何があろうと……決して、操舵輪から手を離さないように」

「当たり前でしょ。私は、宝鐘マリンだからね」

マリンはニッと不敵に笑い、腰に差した紅海月の柄をポンと叩いた。

「さぁて……ルキアちゃんを迎えに、いっちょ派手に出航しますか!」

翻る赤い帯と、黒い死覇装。

宝鐘マリンは、仲間たちの待つ穿界門の奥へと、迷うことなく駆け出していった。

彼女の真の戦いが、尸魂界という巨大な嵐の海で、今まさに幕を開けようとしていた。

 

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