悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
真新しい電子ロックの扉の前にレタリアが立つと、かすかな電子音と共に自動で生体認証が行われ、滑らかに扉が開いた。
「まあ……!ここが新居ですのね!」
レタリアは思わず感嘆の声を漏らした。
目の前に広がった空間は、以前の防空壕のような部屋とは比べものにならないほど広々としていた。玄関からまっすぐ伸びる廊下。その奥には広々としたキッチン付きの居室があり、通路の左手側にもう一室、さらに右手側には個別のバスルームとトイレが完備されている。
「一応、単身者向けの標準的な間取りね。高級とまではいかないけれど、セキュリティも設備も悪くない部屋よ」
そう説明するミレアを横目に、レタリアは荷物を運んできた自律Botを引き連れて、嬉しそうに部屋をぐるぐると回り始めた。
「広いですわ! わたくしが故郷の屋敷で使っていたお部屋の、半分くらいの広さはありますわね!」
無邪気に胸を張る彼女の言葉に、ミレアはその場で固まった。
「えっ……」
(この広さで、実家の部屋の『半分』……?)
この居住区は管理局の高官も使うそれなりのクオリティなのだが、異世界の公爵令嬢の常識的なスケール感には、内心驚かされるばかりだった。とはいえ、レタリアの言動に全く悪意や嫌みがないことは分かっているので、ミレアはそのままツッコミを入れずに聞き流すことにした。
一通り部屋を確認したレタリアだったが、ふと足を止め、贅沢な空間をそっと見渡した。
「ですが……なんだか、こう広すぎると少し落ち着きませんわね」
「ふふ。すっかり前の、あの狭いお部屋に身体が慣れてしまったのね」
ミレアは心底おかしそうに笑みをこぼした。
「さあ、まずは荷物を置いていきましょう」
元々レタリアの私物は非常に少なかったため、Botへの指示も含めて、あっという間に荷物の配置は完了した。
作業を終えて一息つくと、レタリアは備え付けのふかふかとしたソファに深く腰掛けた。
ミレアは手慣れた様子でキッチンへ向かうと、部屋の機能として常備されているサーバーから温かいハーブティーを淹れ、リビングへと持って戻ってきた。
「これから生活していく上で、新しく必要な家具や日用品が出来たら言ってちょうだい。こちらで使いやすいものを見繕ってあげるから」
レタリアの前にそっとハーブティーのカップを手渡しながら、ミレアが伝える。
「まあ、そこまで細やかに面倒を見ていただけますの? ――ふふ、ありがとうございます、『お姉さま』」
ハーブティーを受け取りながら、レタリアは悪戯っぽく、笑みを浮かべてミレアを見上げた。先ほどの「身内」という言葉をそっくりそのまま返された形だ。
面と向かって「お姉さま」などと呼ばれたミレアは、一瞬にして耳まで頬を染めた。
「っ……! 言っておくけれど、新しく買う家具のお金はあなたが出すのよ」
あからさまに動揺してそっぽを向くミレアの、可愛らしい表情を見て、レタリアは「うふふ」と楽しそうに笑った。
「分かっておりますわ!」
そこでレタリアは、何か名案を思いついたように小さく指を鳴らし、ブレスレットの端末を操作し始めた。
◆
それからしばらくして、二人がソファでハーブティーを飲みながら寛いでいると、小気味よい音を立てて玄関のインターホンが鳴り響いた。
「あら、来ましたわね!」
レタリアは嬉しそうに席を立つと、弾むような足取りで玄関の扉を開けた。
そこに立っていたのは、金髪のショートカットを揺らした自警団の少女、ステシア。そしてその後ろには、彼女の同僚である薄茶色のロングヘアの女性、ヘルタの姿があった。年齢はレタリアたちと同年代だが、ヘルタの方がどこか少し大人びた落ち着いた雰囲気を纏っている。
「来ましたよー、レタリアさん! 突発のメッセージびっくりしました!」
「引っ越しおめでとー。お祝い持ってきちゃった」
「ふふ、どうぞお入りなさいな!」
レタリアは誇らしげに胸を張り、新しい我が家へと二人を快く招き入れるのだった。
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