悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「……?」
突如、紫紺のアーデンがピタリと動きを止めた。
『どうした、レタリア?』
並走していたリーズのコックピットから、グレインの警戒を孕んだ声が飛ぶ。
「いるはず……なのですが、目の前には何も見えませんわ」
レタリアは困惑した様子で答えた。研ぎ澄まされた彼女の魔力は、すぐ目の前にある「異物」の存在を確かに察知している。にもかかわらず、アーデンのメインモニターにも、視界の先にも、ただ暗い宇宙とデブリが広がっているだけだった。
『なに……?』
グレインは短く呟くと、思考を巡らせる。
レタリアの魔力がこれほど近くに何かを捉えているにもかかわらず、リーズのセンサーすら何一つ反応を示していない。
『なるほどな。――レタリア、君の感覚で「そこに居る」と思う場所を攻撃していい。俺が許可する』
「……? 分かりましたわ、ではっ!」
グレインの言葉に一瞬首を傾げつつも、レタリアはすぐさまアーデンを前方へ加速させた。巨大なデブリの傍へ肉薄し、何も存在しないはずの空間へ向けて、アーデンの裏拳を勢いよく繰り出す。
「っ……!」
何もない虚空を殴りつけたはずのアーデンの腕に、手応えのある強い衝撃が跳ね返ってきた。
その感触を確認したグレインは、素早くリーズをアーデンの側へと寄せた。
『やはりな』
アーデンの拳が直撃した空間がジジジ……と歪み、空間にノイズが走るような感覚と共に、一機の小型機械が姿を現して漂っていた。
「なんですの、これは……? 隠匿の魔法の類かしら?」
目の前に突如現れた謎の機体に、困惑を深めるレタリア。
虫の様な四脚の機械、以前対峙した小型機を思い出す。
『光学迷彩だ。光の屈折を誤認させて姿を消す技術だよ。……すぐに向こうの信号パターン解析に入る。少なくともセルディア管理局や、シンセ社の規格じゃないな』
「こーがくめーさい? よく分かりませんけれど……とりあえず、この感覚は、他にもたくさんありますわよ!」
レタリアの言葉に、グレインは不敵な笑みを浮かべた。
『良し、片っ端から叩きのめしていいぞ。俺も解析が終わり次第、すぐに手伝う』
「ええ!」
レタリアは強く頷くと、自らの魔力が示す場所へとアーデンを向けた。
視界には相変わらず何も映らない。だが、確かにそこに「こーがくめーさい」を使って潜んでいる敵がいる。そして――その動きは、アーデンの機動性に比べればあまりにも鈍い。
「見えなくても、位置さえ分かれば十分ですわよ!」
レタリアはアーデンのマニピュレーターで近く漂う小さなデブリの破片を掴むと、魔力を示す空間へ向けて勢いよく投げつけた。
空間を滑るように飛んだ石が、何もない虚空で弾け、ジジッ……とノイズを上げて新たな小型機体が姿を現す。
「ふむ……人が乗っている気配はありませんわね。これは無人機ですわ」
レタリアが敵の性質を見抜きかけたその時、アーデンのメインコンソールが一斉にアラートを鳴らし、暗闇のあちこちに複数の赤い光点が浮かび上がった。
『解析が終わった。アーデンにもデータを共有したぞ。これからは視界でもセンサーでも、はっきり見渡せるはずだ』
グレインからの心強い通信が入る。
光学迷彩のカラクリを破られた無人機群は、もはやただの標的に過ぎなかった。ここからアーデンとリーズの二機による、周辺の小型無人機群の掃討戦が始まった。
隠れ潜んでいた無人機群は、以前対峙したエスカドの小型機に比べればやや劣るものの、決して遅くはない俊敏な機動で襲いかかってくる。
しかし――
「その程度の間延びした動きでは、このわたくしには遠く及びませんわよっ!」
レタリアは一閃のもとにフォトンセイバーを振るい、迫る無人機をまとめて真っ二つに両断した。
少し離れた宙域ではグレインのリーズが戦っているが、通信モニターに映る敵の光点が次々と消滅していることから、あちらも一切の苦戦なく撃破を進めているのが分かった。
「持っている武器も実体剣だけ。一体何のためにこんな場所を徘徊していますの……?」
手応えのなさに首をかしげた、その瞬間。
レタリアの魔力が、何かを捉えた。
(……上!?)
頭上。これまでの小型無人機とは異なる何かが迫っている。
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