悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「いたいた! 見つけたー!」
セルディア一般居住区、第2セクター――通称『ライムシティ』と呼ばれる区画。
活気に満ちたシャトルステーション前の広場で、大勢の人混みを縫うようにして、眼鏡をかけた茶髪おさげの少女――ファルが、レタリアに向かって元気に手を振りながら歩いてきた。
「ファル! ここは少し人が多すぎますわ……」
周りの視線を気にするように、レタリアが困惑した様子で眉をひそめる。
今日の彼女は、白の洗練されたブラウスに鮮やかな青のロングスカートを合わせ、大きめのつば付き帽子を深めにかぶって顔を隠していたが、それでも帽子から覗く特徴的な美しい髪は目を引いてしまう。
「これくらい人が多い方が、かえってアンタの顔や髪が目立たないのよ」
ニシシといたずらっぽく笑うファルに、レタリアは帽子を目深にかぶり直しながら応じる。
「……そう言われましたら、そういうものなのかもしれませんけれど」
キョロキョロと周囲を見渡してみるが、確かに誰もレタリアを特別視してジロジロと見てくる様子はない。
「本当に人が多いですわね。わたくしもたまに街に出ることはありますけれど、ここは特に多いですわよ」
「なんか前々から思ってたけど、アンタあんまり外に出ないみたいね。まあ良いわ! 今日は折角のお休みなんだから、思いっきり遊びましょ!」
ファルはそう言うと、レタリアの手を迷いなくぎゅっと握り、グイグイと歩き出した。
握られた手の温もりを感じながら、レタリアの視線にファルのはつらつとした後ろ姿が映る。
(なんだか……かつてルティルに手を引かれてお屋敷を歩いていた頃を思い出しますわね)
遠い故郷で、まだ幼かった妹のルティルに「お姉さま、あっちへ行きましょう!」と強引に手を引かれ、無邪気に遊んでいたあの頃。
目の前のファルの年齢は、きっと今のルティルと同じくらいだろうか。……もっとも、レタリアの記憶にある「仲が良かった頃の妹」は、もっとずっと小さくて愛らしかった頃の姿だったけれど。
レタリアがそんなノスタルジーに浸っている間に、二人はステーションのシャトルには乗らず、そのまま徒歩でとある大きな建物の正面へと移動していた。
「着いたわよ!」
ファルの弾んだ声に促され、レタリアが眼前の建物を見上げる。
周囲に立ち並ぶ店舗と比べてもひときわ存在感を放つ、洗練された外観の巨大な5階建ての建造物だった。
「大きいですわ……! まるで小さなお城みたいですのね」
幼い頃に目にした王城の威容を思い出させるほどの、圧倒的なスケール感。
セルディアの一般居住区の中において、これほどの規模を持つ建造物自体は決して珍しくはない。だが、こうして市民と同じ目線で外部から直接巨大な商業施設を見上げる機会は、レタリアにとってほとんど無かったのだ。
「ここは『シーズモール』っていうショッピングセンターよ! 女の子の休日と言えば、やっぱりお買い物でしょ!」
ファルが元気に話しかけてくる。
そこでレタリアは、いつもファルと行動を共にしている無精ひげの男――ゼインの存在を思い出した。
「そう言えば、ゼインはお見かけしませんけれど……今日はご一緒ではないのですの?」
その名前が出た瞬間、ファルはあからさまに眉をひそめて不満げな顔になった。
「親方がショッピングなんかに興味あるわけないでしょ! だから今は行きつけのバーで呑んでるわよ。昼間っからただの酔っ払いよ、酔っ払い!」
「あら、そうなのですか。お昼時からお酒だなんて、ふふ、慎みが足りませんわね」
レタリアは以前ミレアと一緒に街にくりだしたときに彼女がすぐにビールを飲もうとしていた事を思い出した。
微笑むレタリアを見てファルは肯定と受け取ったようだ。
「でしょー!? だから放っておいて、アタシたちはアタシたちで思いっきり楽しんじゃいましょう!」
ファルはそう言ってレタリアの手を再び引っ張り、高揚感に包まれた賑やかなモールの中へと弾むような足取りで入っていった。
「ふふっ、そうですわね。今日はいっぱい楽しみましょう!」
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