悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
シンセ・フィブラ社内、ミレアのラボにて
「――はい、これで検査は終わったわよ」
ミレアの声に促され、レタリアはひんやりとした診察台からゆっくりと身体を起こした。
「最近、また検査の時間が少し長くありませんの?」
髪を軽く整えながらレタリアが尋ねると、ミレアは「そうね」と頷きながら、淹れたての温かい紅茶が入ったカップを彼女に手渡した。
「ええ。あなたの脳波パターンを、最近は今まで以上に細かく記録させてもらっているからね」
「わたくしの『魔力』が、こちらの世界でもお役に立つかもしれないのですわよね……なんだか不思議な感覚ですわ」
湯気の立つカップを両手で包み込みながら呟くレタリアに、ミレアはくすっと優しく微笑んだ。
「何を言っているの。今までだって、その力はあなた自身やみんなを何度も助けてきたじゃない。本当に素晴らしい力よ」
「ま、まあ……貴女がそこまで仰るのならば……」
ストレートな賛辞に少し照れたレタリアは、頬をかすかに朱に染めながら紅茶に口をつけた。
――その時だった。
レタリアの左手首に装着された通信ブレスレットが、甲高い警告音とともに激しくコールを鳴らした。
「あら、何かしら……?」
レタリアがブレスレットの操作パネルをタップすると、空中に緊急通知のホログラムモニターが展開された。そこに赤文字の警告表示を見て、レタリアは息をのむ。
「これは……民間輸送船からの救難要請……!?」
レタリアの声を聞いたミレアは、即座に自身の端末へと向かい、情報をモニターに表示させた。
「……民間輸送船『シーライン号』よ。セルディア近郊の宙域で、武装したレイダーに襲撃されているわ! あなたに来ているのは、エリア内の全フリーランサーに向けた緊急救助依頼ね」
状況を把握したレタリアは、躊躇することなく立ち上がった。
「わたくし、行きますわ! 一刻も早く助けなければ!」
「待ちなさい、レタリア! フリーランサーだけじゃなく、セルディア自警団にもすでにスクランブルがかかっているわ。急いであなたが一人で向かわなくても――」
「ですが、わたくしのアーデンは他のどの機体よりも速度に優れていますわ! わたくしが今すぐ向かえば、誰よりも素早く現地へたどり着けるのではなくて!?」
まっすぐな瞳で訴えかけるレタリアに、ミレアは言葉を詰まらせ、思案するように数秒間沈黙した。
「それは……確かにそうだけど、最高速度で急行すればそれだけエネルギー消費が跳ね上がるわ。現地に着く頃にはエネルギーの問題が……。――いえ、待って。『アレ』があったわね」
ミレアは何かを思いついたように力強く頷くと、レタリアの肩をしっかりと掴んだ。
「レタリア、今すぐドックへ向かってアーデンに乗り込んで頂戴。すぐに準備するから、少しだけ待っていて!」
「分かりましたわ!」
◆
レタリアは走ってドックへと向かい、すでに顔なじみとなった整備班のスタッフたちへ素早く挨拶を済ませると、迷いなくアーデンのコックピットへ乗り込んだ。
各種システムが立ち上がり、紫紺の機体が静かな覚醒を果たす。
「お嬢様! 主任から話は聞いてるぜ、一分だけ待ってくれ!」
ラインのスピーカーから聞こえる整備班長・モーランの怒号のような声に、レタリアは「分かりましたわ!」と力強く返事をした。
直後、ドックの天井から大型のアームが滑り降りてきて、アーデンの両肩部分へ未知の巨大なユニットを力強くドッキングさせた。両肩に取り付けられたそれは、まるで重厚な増加装甲のようだった。
「――準備完了よ、レタリア! 『これ』を使って、気を付けて行ってきなさい!」
ミレアの通信がコックピットに響き渡る。
「承りましたわ! レタリア・アーデニアム、アーデン――行ってまいりますわ!!」
爆発的なスラスター光がドックを眩しく照らし出し、紫紺のマキナは一直線に広大な星の海へと飛び出していった。
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