悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
漆黒の宇宙空間――輝く星々が広がる海へと飛び出したアーデン。
レタリアはコックピットの中で、普段と明らかに異なる両肩の大型装備に視線を落とし、少し気になった様子で尋ねた。
「ミレア、これは一体なんですの?」
『レタリア、現在のアーデンのメインエネルギー残量を見てみなさい』
ミレアに促され、レタリアがアーデンのグラフィック・インターフェイスを確認する。すると、最高速度で巡航しているにもかかわらず本体のメインエネルギーがほとんど減少しておらず、代わりに『エクステンション』と表示された拡張項目のゲージが滑らかに減っていた。
「……一体どういうことですの……!?」
『それはね、新開発の「増設巡航ブースター」よ。これがあれば長距離の超高速移動が可能になるわ。ただ、圧倒的な推進力が出る代わりに搭乗者への負荷が強すぎるから、パイロットを乗せての最終実証テストはこれから行う予定だったの。無人での安全確認は既に終えていて……本当はきちんと手順を踏んでから実戦投入したかったのだけどね』
通信の向こうで、ミレアが少し申し訳なさそうに吐露する。
「そうでしたの。言われてみれば最初だけ少しガクンと急加速した気がいたしますけれど、今は特に何ともありませんわ」
実質的に自分自身が実験台になっていたことについて、レタリアは全く意に介していなかった。
『……あなただからこそ、肉体・精神ともに問題がないと判断して装着させてもらったわ。あの急激な初期加速、普通のパイロットなら確実に気絶しているレベルなのだから』
「そういうことでしたのね! ふふん、このアーデンを完全に乗りこなせるわたくしならば、この程度の負荷、何の問題もありませんわよ!」
急遽とはいえ、実質的には安全性を担保するための実験体に近い導入ではあったが、ミレアの言葉を最高の「賞賛」と受け取ったレタリアは、鼻を高くして得意げに微笑んだ。
『ふふ、頼もしいわね。トレースモードへの連動対応も完了しているわ。あなたの操縦でさらに速度を上げて、一刻も早く輸送船へ向かって』
「分かりましたわ、急ぎますわよ!」
アーデンは両肩のブースターから凄まじい尾条を噴き上げ、さらなる超加速を見せて宇宙空間を爆進していった。
◆◆◆
アーデンのレーダーが敵機を捉えるより、遥かに早く。
「居ますわ……!」
レタリアの魔力が、遠方の異物を鮮明に捉えた。
巨大な存在がひとつ。これが救援を求めている輸送船だろう。
そして、そのすぐ近くに位置する、二つの不穏な反応。
レタリアが思案している間に、遅れてアーデンのレーダーが対象を感知した。
画面には輸送船と思われる反応と、レイダーと思われる反応――大型の機体がひとつ、中型の機体がひとつ。
間もなく、レタリアの肉眼の視界にも民間輸送船の姿が映り込んだ。
その反対側には、凶悪な威容を誇る『赤い大型マキナ』と、機動力に長けそうな『緑色の中型マキナ』が滞空していた。大型のマキナは、通常の汎用機の倍以上の異質な巨体を有している。
「聞こえますか!? 救援に参りましたわ!」
レタリアは即座に輸送船の通信チャンネルを開き、声を張り上げた。
『助かった……! だが気を付けてくれ、うちの護衛機は既に全員やられてしまった! あいつらに照準を合わされていて、こちらも下手に動けなかったんだ!』
見れば、輸送船の周囲には半壊した護衛マキナの残骸が複数漂っていた。命懸けの戦闘が行われた後であることが伺える。輸送船自体もすでに完全に捕捉されており、下手に逃走すれば即座に撃沈される積の残された状況だったのだ。
「……あちらが不逞の輩ですわね」
レタリアの視線が、不気味に佇む2機のレイダーマキナへと向けられる。
対峙する2機は、突如現れた紫紺の機体に対し、すぐには仕掛けてこずにこちらを様子見するように牽制していた。
『リーダー、これ以上手間取るとセルディアから本格的な救援が来ちまうぜ』
緑色の中型マキナのパイロットが、焦れたように通信で声をかける。
『焦るな。……ですが、この独特なカラーリングと機動。噂の「暴走令嬢」ですか。手加減は不要です、一気に畳みかけましょう』
赤い大型マキナに乗るリーダー格の男が、返答する。
直後――レタリアの研ぎ澄まされた魔力が、空間の歪みを察知した。
二機のマキナからの同時砲撃の予兆。
「っ! 見えていますわよ!」
レタリアはアーデンを急速回避させ、射線から一瞬で離脱した。
直後、先ほどまでアーデンがいた空間を極太の光条が通り抜けていく。
「挨拶もなしにいきなり攻撃してくるなんて、まったくマナーがなっておりませんわね!」
レタリアが怒りの声を上げる間もなく、追撃を掛けようと緑色の中型マキナが怒涛の勢いで接近してきた。
敵機が放ってくるフォトンライフルの連射を、いつも通り大きく跳ねて回避しようとした――その瞬間、レタリアの感覚が周囲の異変を捉えた。
(……これは、大きく動けば巻き込んでしまいますわ!)
先ほど撃破されてしまった護衛マキナの『脱出ポッド』が、数機周辺の宙域を静かに漂っていたのだ。いつものように豪快かつ大きく機体を回避させれば、その推進波や余波で脆弱な脱出ポッドを巻き込み兼ねない。
「……やってみせますわ……!」
レタリアは歯を食いしばると、最小限の機動を選択した。
横や後ろへと逃げるのではなく、向かってくる敵機の猛射の合間を縫い、自ら相手の懐へと最短距離で超至近距離に滑り込む。
『なにっ!?』
回避ではなく、まさか射線をくぐり抜けて突進してくるとは思わなかった中型マキナのパイロットが、一瞬の隙を見せる。慌ててフォトンセイバーを抜き放とうとするが――
「遅いですわよっ!」
アーデンは抜刀されるより早く、フォトンセイバーを握ろうとした敵機の右腕へ向けて強烈な正拳突きを叩き込んだ。
激しい衝撃が響き、勢いそのままにもう片方の拳で左腕の関節部も破壊。瞬く間に敵の戦闘能力を完全に奪い去った。
「お下がりなさい!」
レタリアはそのまま無力化した敵機の頭部をマニピュレーターで掴むと、全身の質量を乗せて遠くの虚空へと豪快に投げ飛ばした。
『うわあああああっ!?』
投げ飛ばされた勢いのまま、ぐるぐると回転しながら遠ざかっていく中型マキナ。もはや体勢を直すこともできず、脱出ポッドのない方向へと遠く飛んで行った。
「さて……次は貴方の番ですわよ」
レタリアはフッと息を整えると、残された赤く巨大なマキナへと視線を向けた。
『……ふむ。思った以上にやりますね、お嬢さん』
敵リーダーは不敵に呟くと、両肩に装備された巨大なキャノン砲と大型フォトンライフルの照準を、同時にアーデンへとピタリと向けたのだった。
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