悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
対峙する紫紺のアーデンと、赤い大型マキナ。
敵レイダーのリーダーが駆るその機体が放つ威圧感は強大なものだった。
『ブラングをあっさりと返り討ちにしたこと、そして巨大な起動兵器すら撃破したという噂……どうやらあながち大げさな話ではなさそうですね』
大型マキナが右腕の大型フォトンライフルと左肩の重キャノンをアーデンへ一斉に向け、言い終わるか終わらないかのうちに、容赦なく閃光を解き放った。
「っ!」
レタリアは直前の鋭い直感でその射線を完璧に読み切り、紙一重で回避。そのまま一気の間合いを詰めるべく、直線的に大型マキナへと接近する。
「本当に、とことん無粋な方ですわねっ!」
『そうでなければ、この商売は務まりませんからね!』
そう叫ぶと同時に、リーダー機はもう片方の肩に増設された大型ガトリング砲を起動。途切れのない実弾の雨を同時に掃射してきた。
大型マキナの強大な機体容量だからこそ実現できる、圧倒的な密度の重火器の弾幕。
アーデンは、射線の延長上に民間輸送船や漂流する脱出ポッドが入らないよう、巧みに位置取りを変えながら旋回し、接近の機会を伺う。
「しつこい……ですわねっ!」
射線を背後から逸らすために選んだ大きな回り込みの軌道。
脱出ポッド群を巻き込まないための選択であったが、それと引き換えに超高速域での急旋回が重なり、レタリアの身体にかかる負荷は上がっていく。
外部のモニターから見れば、それはもはや人間が耐えられる領域を超えた、恐るべき挙動として映っていた。
最初は優位を誇っていたリーダーの声にも、急速に焦りと驚愕が滲み出始める。
『なんて速さだ……! これほどのGに、パイロットがどうして耐えられる……!?』
極限の機動で瞬時に懐へと滑り込んだアーデン。
レタリアは迷いなく、右腕から光の刃を出現させた。
「がら空きですわ! ふぉとんせいばー!」
鋭い一閃。袈裟斬りに振り抜かれた光の刃が、リーダー機が構えていた大型フォトンライフルを腕ごと綺麗に切り落とした。
『ちっ!』
しかし、相手は百戦錬磨のリーダー。至近距離から残された肩部ガトリングをゼロ距離掃射する。
深追いすれば相打ちになりかねないと判断したアーデンは、即座に身を引いて追撃を断念し、距離を取った。
『恐ろしいな……だが、これでどうだ!』
リーダー機は腕を失いながらも即座に体勢を立て直し、肩のキャノン砲のモードを別の武装へと素早く切り替えた。
その瞬間――レタリアの感覚に激しい警報が走る。
(……あの砲から放たれるのは、広域に散らばる弾丸の塊……「しょっとがん」!)
「くっ……!」
レタリアは瞬時にアーデンを旋回させ、広域に拡散するショットガンの散弾とガトリングの実弾の猛射を、絶妙な機動で回避していく。
『正直、ここまでとは思わなかった! だがコイツは古臭い機動兵器なんかより遥かに強力なマキナだ、どこまで逃げ切れる!?』
執拗に弾幕を浴びせかけてくるリーダー機。
回避運動を続けるレタリアだったが、アーデンの動きが大きくなればなるほど、胸の中に強い危惧が膨れ上がっていった。
(……ダメですわ。このまま回避のために大きく動き続けては、いつか輸送船や脱出した方々を巻き込みかねません……!)
その思考の隙を突くように、眼前に迫る巨大な散弾の塊。大きく動けば――
「避けて!!」
レタリアの強い意志に呼応するかのように、アーデンの両肩に装着された『増設巡航ブースター』が激しく光を吹き上げた。
直撃コースを辿っていた弾丸の塊を、目にも留まらぬ推進力で強引に回避する。
急激すぎる推進力によってコックピット内に凄まじい圧力が押し寄せ、レタリアの視界が歪む。しかし、彼女はその衝撃をそのバイタリティでねじ伏せた。
「……っ! これなら……行けますわ!」
レタリアは歯を食いしばり、再び大型マキナの正面へと突撃を開始する。
『もうこれ以上は近づかせませんよ!!』
リーダー機は死角を消すように、両肩のガトリングとショットガンを同時に限界まで連射した。面で覆い尽くされる空間。
できる限り機体を大きく動かさず、それでいて確実にこの弾幕を潜り抜ける――レタリアが選択した解は、過酷な一手だった。
「近づけますわよっ!!」
アーデンは両肩のブースターを、進行方向ではなく『真横』に向けて同時に炸裂させた。
一瞬にして、空間をスライド移動(横滑り)するアーデン。
さらに、次の弾丸が届くより早く、今度は逆側のブースターを噴射。
両肩の増設推進ブースターを瞬間的・爆発的に噴射させることで、本来の質量と物理法則を完全に無視したかのような、完璧な『直角移動』。
直線的に滑り、直角に折れ、弾丸の隙間を最少限の移動距離で抜けていく。
――だが、その代償は大きかった。
慣性を無視した瞬間的な直角旋回がもたらすGは、アーデンが全力で宙域を疾走している時を上回る圧となってレタリアを襲う。
「くうぅっ……!!」
衝撃を耐え抜き、再び――そして完璧に、敵の懐へと潜り込んだ。
『バカな……っ!!?』
物理限界を超えた追従不能の機動に、驚愕の声を上げるリーダー。
その目前で、紫紺の機体がフォトンセイバーを抜刀した。
「――終わりですわよっ!!」
閃光が奔る。
横一文字に薙ぎ払われた光の刃は、赤い大型マキナの重装甲を切り裂き、その巨躯を綺麗に真っ二つへと両断したのだった。
「あなたのマキナと実力ではその『古臭い機動兵器(レストフル)』にも遠く及びませんわ」
爆散する機体を背にレタリアは呟いた。
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