悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
シンセ・フィブラ社内、ミレアの専用ラボ。
無機質な機械音が静かに響く部屋の中に、ミレアとセルディア自警団長であるグレインの姿があった。
「どうした? 急に呼び出して」
グレインの問いかけに対し、ミレアは無言で手元のコンソールを操作し、空間へ大きなホログラムモニターを展開させた。
そこに映し出されたのは――先日レタリアが撃破したレイダーの『赤い大型マキナ』。そして、かつてレストフル宙域で回収された『謎の小型偵察機』と『細身のマキナの右腕』の立体データだった。
「これを見て頂戴」
ミレアが手元で操作を加えると、ホログラム上のそれぞれの機体モデルの一部パーツが青く発光し、拡大されてピックアップされる。
「……これは。内部フレームの接合規格や、ジェネレーターのバイパス構造が……『同一の規格』ということか?」
ホログラムを見つめるグレインの言葉に、ミレアは静かに頷いた。
「ええ。これだけじゃないわ」
彼女がさらにデータを更新すると、装甲の裏補強パーツや伝達系回路など、酷似した設計思想を持つ複数の共通パーツが次々と赤くハイライトされていく。
「いずれも既存の大手メーカーのデータベースには存在しないパーツよ」
ミレアの言わんとすることを、グレインは即座に理解した。
「レイダーのリーダーが搭乗していた大型マキナと、レストフル宙域に潜んでいた謎の偵察機どもが、同一規格の専用パーツを使用している、か……」
深く顎に手を当て、思考を巡らせるグレイン。
「あの大型マキナも、データベースに一切の該当データがない未知の機体だったわ。最初は闇市で手に入れたジャンクの継ぎ接ぎかとも思ったけれど、解析を進めるとあまりに構造が洗練され過ぎているの。大型機とはいえ、単機での戦闘スペックは各メーカーの標準的な軍用マキナを超えていたわ」
「ふむ……となると……」
グレインの呟きに、どこか引っかかるようなニュアンスを感じ取ったミレアが首を傾げる。
「どうしたの?」
グレインは少し考えるそぶりを見せてから、重々しく口を開いた。
「……実はセルディア管理局に、宇宙自治区ステーション『コルーシェ』から、あの大型マキナの残骸の引き渡し要請が届いた」
◆◆◆
ミレアはデスクの上のカップを手に取り、温かい紅茶に一口口をつけた後、静かに尋ねた。
「コルーシェって……あの『コルーシェ』?」
「ああ」
コルーシェは、宇宙自治区としてはかなりの歴史を持つ老朽化した古株のステーションだ。現在の連合国が結成される以前から独立して存在しており、連合国へ組み込まれた今なお、強固な独自の自治権を保持している。
老朽化が進んで一時は廃れる一方だったが、ここ数年で新興企業による巨額の資本注入がなされ、大規模な大改築が行われたという噂を聞く場所だ。
「コルーシェの管理局経由で届いた申し立てによれば……『コルーシェ自治区管轄の企業から盗み出された試作型マキナの残骸であるため、速やかに返還されたし』……とのことだ」
「試作型マキナの返還……。ということは、コルーシェに本拠を置くあの企業――『アーグリア』の機体、ということかしら?」
アーグリア。今、コルーシェ内で急速に影響力を強めている新興の軍需企業である。
元々は小さなマキナのパーツ下請け製造企業に過ぎなかったが、ここ数年で急成長を遂げ、独自規格のマキナを自社製造し始めたという噂があった。
「可能性は高いな。……とはいえ、あのレストフル宙域に現れた謎の機体群までもがアーグリアの手によるものだと、現時点で断定することは出来んがな」
「そうね……。で、マキナの残骸の返還に応じるの?」
「ああ。形式上は合法的な正式要請だ。拒否する明確な理由もない」
「だとしたら、もう一度、内部システムとフレームのメタ物質解析を徹底的に行っておいた方がいいわね。返還までの間、うちのラボに残骸を持ってきてもらえるように管理局に掛け合って貰える?」
「分かった。任せておけ」
グレインの返事を聞きながら、ミレアはホログラムに浮かぶ赤い大型マキナの残骸を見つめた。
表向きは民間船を襲ったレイダー、しかしその裏には、別の影が透けて見え始めていたのだった。
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