悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
セルディア自警団本部、広大な最新鋭シミュレータールーム。
ここにはレタリア、ミレア、グレイン、プリシラのほか、自警団員たち、そしてプリシラの仲間である二人の兵士が顔を揃えていた。
「アデリナ・クーリエ軍曹です! 本日は宜しくお願い致しますっ!」
元気いっぱいな挨拶をしたのは、ダークブラウンのポニーテールを揺らし、ぱっちりとした青い瞳を輝かせる少女。年齢はレタリアと同じくらいだろうか。小柄ながら全身から溢れ出るようなハキハキとした活気を感じさせる。
そして――
「……ランセス・コールマン中尉です。プリシラ中尉にお呼ばれしたのでお邪魔させてもらいました。皆さん、よろしく」
飄々とした口調で片手を上げる男。黒髪に細身ながら鍛え上げられた筋肉質な体躯、顎にはうっすらと無精ひげを生やし、細く黒い瞳を覗かせる。どこかつかみどころのない、油断ならない雰囲気を漂わせる人物だ。
「この二人が現在の私の部隊のメンバーです。部下と言うよりは、私の指揮下に入っていただいている仲間ですね」
プリシラが二人を紹介する。
「皆さんお強いと聞いてます! 本国の模擬戦とは一味違いそうで、とっても楽しみにしていますね!」
アデリナの明るい言葉には、裏を返せば「自治区の自警団がどれほどできるのか」という、どことなく挑戦的なニュアンスが透けて見えた。
「軍曹、口の利き方には十分気をつけてくださいね?」
プリシラがニコニコと満面の笑顔で釘を刺すが、その背後には圧倒的な威圧感が漂っている。
「は、はいっ! 分かっていますって、プリシラさん……!」
即座に背筋をピンと伸ばして怯えた反応を見せるアデリナ。しかし、その瞳の奥には依然として余裕の色が色濃く残っていた。
「これは、我々も負けていられませんね」
グレインがクスリと笑って応じる。余裕に満ちた大人な対応だ。
――しかし、レタリアは一連のやり取りを観察する中で、鋭く感じ取っていた。
周囲を取り囲む自警団の団員たちから、この本国軍の三人に対して、静かだが確実な「対抗意識」とプライドがメラメラと燃え上がっていることを。
「今回の模擬戦にあたり、私たち三人に対し、自警団の方々から三名、そしてレタリアさんの合計四人――『3対4』での対抗戦としたいと考えていますが、いかがでしょうか?」
プリシラがグレインへ打診する。
グレインは気にする風もなく、淡々と問い返した。
「構いませんが……本当にその人数で良いのですか?」
「ええ……少し変則的ではありますが、私たちが搭乗するのは特殊な軍用機という仕様上の違いもありますので……」
少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるプリシラ。だがその佇まいには、明確な自負と揺るぎない余裕が満ちていた。
『……おいおい、端からハンデをくれているつもりか?』
『いくら本国軍だからって、自警団を舐めすぎだろ……』
周囲に控える自警団員たちから、隠しきれない不満とどよめきが漏れ聞こえてくる。
そんな荒れる周囲の反応などどこ吹く風で、グレインは泰然と頷いた。
「分かりました。では、本国軍の皆様からご指導いただくという形で進めさせていただきましょう」
◆◆◆
模擬戦開始前の、軽い準備時間。
シミュレーション設定端末の前で、自警団の面々が集まりヒソヒソと話し合っていた。
「ちょっと団長、本当にいいんですか!? あからさまに舐められてますよ!」
ラジェルが我慢ならないといった様子でグレインに詰め寄る。
「まあ落ち着け。機体スペックに明確なハンデがあるのは紛れもない事実だ。それに……彼女たちが文字通りの精鋭であることもな」
グレインは極めて冷静に周囲を宥める。
「お嬢様は、この条件についてどう思ってるんだ?」
アランドがレタリアに話題を振った。
「ふふっ、良いではありませんか! 数がどうあれ、わたくしが全員まとめて叩きのめして差し上げれば良いだけのことですわ!」
いつもの高飛車で自信満々なレタリアの言葉。
あまりにもブレないその姿勢に、自警団の面々は感心半分、呆れ半分といった苦笑いを浮かべる。
「さて、自警団からの出撃メンバーだが……」
グレインがそう言ってぐるりと周囲へ視線を巡らせると、団員たちの視線が一瞬で『3人の人物』へと集中した。
「まあ、俺と、イーサン、そしてメリーだな」
「えっ!? 私もですか!?」
指名されたメリーが、驚きのあまり目を丸くして困惑の声を上げた。
「純粋な操縦技術だけならお前に劣らない面子は他にいるが、遠距離においてはお前の右に出る者はいない、何より副団長だ」
「……副団長は博士が……ですが、分かりました」
グレインの真摯な言葉に、メリーは頷いた。
「イーサン、アンタも異論ないな?」
尋ねられたイーサンは、どこか参ったように苦い顔で眉をひそめた。言葉には出さないものの、無言の了解である。
「あの、グレイン」
そこへ、端末を操作していたミレアが静かに声をかけてきた。
「なんだ?」
「あなたの現在の愛機『リーズ』だけど……シミュレーターにそのままの機体データを読み込むのは、ちょっと都合が悪いのよ」
現在グレインが駆る『リーズ』は、シンセ・フィブラ本社から極秘裏に貸与された最新のプロトタイプ機だ。ミレアは本国軍の前にその秘匿性能を軽々に晒してしまうことを懸念していた。
「ふむ……では以前乗っていた旧愛機『シュエル』のデータで出すか?」
「いえ、本当は嫌だけれど……機体の性能実証にもなるわ。出力を『少しだけデチューン』したリーズのデータで手を打つわ。本社には後から私の方で承諾を取っておくから」
「それは助かる。――よし、ではそろそろ、あの頼もしいお客様方を驚かせるとしようか」
不敵な笑みを浮かべるグレインと、気合の籠もった瞳でシミュレーターカプセルへと向かうレタリア。
セルディア自警団の誇りと、本国軍の意地が激突する模擬戦の火蓋が、いま切られようとしていた。
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