悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
静まり返ったミレアのラボ。モニターの淡い光が、室内を青白く照らしていた。
「やはりそうよね……」
ミレアは椅子に深く腰掛け、先ほどの模擬戦で記録された無数のフレームデータを繰り返し検証していた。
白熱した模擬戦の直後、プリシラたち特務部隊とグレインをはじめとする自警団の上層部は、今後の協力体制に向けた本国軍およびセルディア管理局との合同協議へと向かっていった。
一方、激戦を制したレタリアは「一仕事終えたらお腹が空きましたわ~!」と晴れやかな顔で食堂へ直行していったのだった。
ミレア自身は管理局との直接的な交渉を行う立場にはない。だからこそ、採取したばかりの貴重な実戦データをいち早く確認・解析するという、研究者としての業務であり最大の楽しみを満喫していた。
「アーデンの左腕の損傷……やっぱり『本来のデータ』通りの装甲値と追従性があれば、あの状態でも小破程度で抑えられていたはずだわ」
シミュレーターのデータ制限による誤差を弾き出し、安堵の息を吐く。しかし、画面に表示された損傷箇所をタップしながら、彼女の表情は再び陰りを見せた。
「とは言え、敵の手数と精密射撃に対して、被弾リスクがある事そのものは無視できないわね……」
頭を抱えながら、幾重にも重なるログデータをじっと見つめる。
「プリシラさんたちが持ち込んだラデュールの詳細な内部データも、喉から手が出るほど欲しいところだけど……さすがに本国の特機仕様マキナのデータなんて、見せてもらえるはずもないわね。戦闘映像があるだけでも儲けものだと思わなきゃ」
独り言を呟き、一息つこうとしたその時――ラボのメインコンソールから甲高い通信受信音が鳴り響いた。
「ん……? セルディア管理局からの呼び出し……? 本国の方々との協議関係かしら……」
ミレアは首をかしげつつ端末を操作し、表示された呼び出し状を確認する。
作業でボサボサになっていた頭髪を手ぐしで手早く整えると、彼女はデータ端末を手に取り、静かにラボを後にした。
◆◆◆
セルディア管理局、重厚な扉に閉ざされた特別会議室。
室内には、セルディア管理局代表のルエリオ、自警団団長グレイン、ウィステルム連合国軍大尉ヘイラス、同軍中尉プリシラ、そして呼び出されたミレアとレタリアの姿があった。
「来てくださってありがとうございます、イチノセ主任……それと、イチノセさん。これでは少し分かりにくいですね。アーデニアムさん」
温和な笑みを浮かべ、ルエリオが二人へ声をかける。ミレアは軽く頭を下げて室内の全員に一礼した。
「プリシラ中尉からは既に伺っております。私はヘイラス大尉です。よろしくお願いします、お二方」
「よろしくお願いいたしますわ」
ヘイラスの挨拶に対し、レタリアもカーテシーで丁寧に応じる。
全員が指定の席に着いたのを確認し、ヘイラスが口を開いた。
「ルエリオ代表、そしてグレイン団長とはすでにお話しさせていただいているのですが……今回は我がウィステルム本国より、ここセルディアへの全面的な協力要請となります」
ヘイラスは言葉を区切り、まっすぐミレアを見つめた。
「そのためには、シンセ・フィブラ社セルディア支部の協力も不可欠と判断し、本日こうしてイチノセ主任をお呼びさせていただきました」
ミレアが静かに頷く横で、レタリアが少し不思議そうな表情を浮かべる。
「あの……わたくしも関係のあるお話なのでしょうか?」
「はい、アーデニアムさんにも是非お耳に入れていただきたいのです。貴女のお力も必要になる可能性が極めて高いですので」
ルエリオの言葉に、レタリアも「それならば」と納得したように頷いた。
ヘイラスが再び場を仕切るように着席し直し、本題へと踏み込む。
「実は、我々が今回セルディアを訪れた理由は、先日の重犯罪者の護送だけではありません。もう一つの極秘案件――『コルーシェ』についての調査です」
「こるーしぇ……?」
聞き慣れぬ単語にレタリアが首をかしげる。しかし、その名を聞いた瞬間、ミレアの表情が引き締まった。
「コルーシェ……」
◆◆◆
「先日、セルディア自警団およびアーデニアムさんが交戦した所属不明機、そして輸送船を襲撃していたレイダーたちのマキナについて詳しく報告を受けました」
ヘイラスが静かなトーンで言葉を続ける。
「あの機体群……コルーシェ、そしてそのステーション内に拠点を置く企業『アーグリア』のものである可能性が、こちらでも極めて高いと分析されています」
話の全容を掴みきれていないレタリアが、素直な疑問を投げかけた。
「あの、そのコルーシェとアーグリアとは、一体どのような存在なのですの?」
「先日君がレストフル宙域で交戦した謎の機体や、民間輸送船を襲っていたレイダーたち――そのどちらも、コルーシェという古参のステーションと、そこに構える『アーグリア』という企業が裏で絡んでいるらしい。どうやらここ最近、セルディア近郊を探ってきているようでな」
グレインがわかりやすく補足すると、レタリアも「そういうことですのね、理解いたしましたわ」と納得したように頷いた。
「急激に力を付けているステーション、そして企業。それだけならば特に問題はありません。しかし……その出所がどうにも不明であり……」
ここでヘイラスは一度言葉を切り、腕を組んで何かを推敲するかのように、深く思案する素振りを見せた。
「……遥か遠方の宙域より漂流してきている『何か』を取り込んでいるのではないかと、本国の情報部では睨んでいるのです」
その言葉を聞いた瞬間、ミレアの息が止まり、小さな呟きが漏れ出た。
「それって……まるで……」
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