悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「レストフルの時の様な……」
ミレアがポツリと呟いた。
会議室内に、重々しい沈黙が落ちる。
「ええ……本国も報告を受けておりました。先日のセルディアにおける、旧エスカド社の漂流物による無人機騒動の件を」
ヘイラスが静かに肯首する。
「コルーシェにも別の宙域から不明な漂着物があったと聞いております。……ですが、コルーシェからの正式な報告は一切ありませんでした」
「漂流物の管理、報告は厳重に義務付けられていますね」
グレインが相槌をうつ。
「ええ。さらに言えば、以前よりコルーシェにおいては不穏な報告を幾度となく受けておりました。どうにも他の自治区や本国に内密で、何かを推し進めているのではないかと。……そんな折に、先日のセルディア宙域における所属不明機、そしてレイダーの機体のお話を伺ったというわけです」
「……」
ミレアはヘイラスの一通り説明を飲み込み、静かに頷いた。
「レイダーの機体については『盗まれた』との連絡をアーグリアから受けたと聞いていましたが……それについては、どうお考えですか?」
ミレアの問いかけには、すでに自らの中で確信めいた仮説がある、そんな響きが含まれていた。
ヘイラスは少し考える仕草を見せ、隣のプリシラと短く目線を交わしてから口を開いた。
「そうですね……コルーシェ、いえ、正確にはアーグリアが『レイダーに試作機を実質的に譲渡していた』可能性が極めて高いと考えています」
「譲渡……」
グレインの呟きにヘイラスは重々しく頷く。
「実を申し上げますと、すでにコルーシェのステーション内には内偵を送り込んでおり、秘密裏に探らせております。先日のセルディア宙域の件以外にも、強奪されたという体裁を取りながら、裏で機体を与えていると見られるケースが複数確認されているのです」
その言葉に、レタリアが不審そうに首をかしげた。
「理解できませんわ。なぜそのようなならず者たちに貴重なマキナを譲渡したりしますの? 相手は民を脅かす犯罪者たちですのよ」
不信感を持つレタリアの問いに、ヘイラスはどこか困ったような、苦い笑みを浮かべた。
「……かつて様々な国でも同じ事がありました。開発中の新たな兵器を『奪われた』という形にして、外部の無法者に実戦テストを行わせる、という手法が」
「その為にならずもの達を利用して街や輸送船を襲わせていたと……? まあ……なんてことを……」
衝撃の事実に、レタリアは目を丸くした。
「勿論、断じて許されることではない非道な犯罪です。先日のレストフル宙域における不法侵入を含め、コルーシェ、そしてアーグリアの不正を暴くこと――それこそが、今回の我々の真の目的なのです」
ヘイラスは言葉を区切り、まっすぐミレアとレタリアへと視線を向けた。
「どうでしょう。……我々に力を貸していただけますか?」
◆
迷うことなく、レタリアが力強く頷いた。
「分かりましたわ! わたくしも喜んでご協力いたしましょう!」
レタリアの頼もしい返事に続き、ミレアも静かに言葉を紡ぐ。
「実際、レストフル宙域に現れた時点で、私たちセルディアも既に当事者となっているわけですしね。……ルエリオ代表、管理局としても既にこの案件を引き受けている、ということでよろしいのですよね?」
ミレアの確認に、ルエリオは頷いて応じた。
「ええ。今回のヘイラス大尉のお話を聞き、管理局としてもコルーシェが今後これまで以上に過激な手段に及ぶ可能性が高いと危惧しています。静観できる段階ではありません」
「了解いたしました。シンセ社セルディア支部としても協力を惜しみません。……まあ、ヘイラス大尉のことですから、すでに我が社の本社へもお話を通された上でのことでしょうけれど」
ミレアの鋭い指摘に、ヘイラスは少し苦笑いを浮かべながら頷いた。
「ふふ、お見通しですな。はい、シンセ・フィブラ本社からは『現場である各支部の判断に任せる』との回答をいただいております。正式なご協力、感謝いたしますぞ」
ヘイラスは一息つくと、今後の体制について語り始めた。
「私は連行した犯罪者を連れ、本国へ戻ります。私を含めた大所帯で動いては目立ちすぎますからね。……ですが、プリシラ中尉を含む特務部隊の三名を、そのままセルディアに残していきます。今後は彼女らに自警団のサポート、およびコルーシェ調査の一翼を担っていただく予定です」
ヘイラスが目線を送ると、座っていたプリシラがすっと立ち上がり、深々と頭を下げた。
「改めまして、宜しくお願い致します。プリシラ中尉、ランセス中尉、アデリナ軍曹の三名、当面の間セルディアに滞在させていただきますわ。それに伴い……ミレア主任、私たちの機体の整備や調整もお願いすることになるかと思います」
プリシラは柔らかく微笑みながら、ミレアへと視線を向ける。
「えっ……あの特機仕様のラデュールですか? ですが、本国軍の機密なのでは……」
「ご安心ください。上層部よりすでに特別な許可を得ております。整備用のデータもすべてお渡しいたしますので、お引き受けいただけますでしょうか?」
本国軍開発部の最重要機密データを一般企業に開示する――その政治的・技術的な意味の大きさを、本国もミレアも十分理解していた。ミレアは驚きつつも承諾した。
「分かりました……! こちらで責任を持ってお引き受けしますね」
「プリシラさんたちがいてくだされば実に心強いですわね! コルーシェの不埒者どもなど、あっという間に蹴散らして差し上げますわ!」
レタリアが拳を握りしめ、気合十分といった様子で声を上げる。――が、すかさず隣から声が飛んだ。
「いやレタリア、しばらくは調査と様子見がメインになると思うぞ……」
グレインの冷静すぎるツッコミが入る。
「な、なんですって!? なぜですのよ!?」
納得いかない様子で抗議するレタリア。そのやり取りに、会議室を包んでいた重苦しい空気は一瞬で吹き飛び、一同の間に和やかな笑いが広がった。
過酷な戦いが予感される中、静かに、そして確実に来たるべき決戦への備えを進めていくのだった。
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