悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
セルディア管理局に併設されたドック。
「ふむ……このような装いも、なかなか悪くありませんわね」
ホログラムの姿見を前にレタリアは裾を軽やかにはためかせた。
いつもの幻想的なダークパープルの髪は輝くような金色に染め上げられ、癖のある毛先も美しくストレートに整えられている。身に纏うのは彼女の好みに合わせた上品な仕立ての服だが、一見すると裕福な宙域を旅する身なりの良い旅行者にしか見えない。
これまでにない大掛かりな変装に、映る自分を珍しそうに見つめる。
「へえ、すごく可愛いじゃないですか」
背後から歩み寄ってきたアデリナが、感嘆の声を上げながらレタリアの服装をまじまじと眺めた。――そして、おもむろにレタリアの脇腹を軽くつまむ。
「ひゃっ!? な、何をなさいますのっ!?」
跳ね上がるようにして抗議するレタリアを見て、アデリナはくすくすと楽しそうに笑った。
「あはは、ごめんなさい! でも潜入先でどんなハプニングがあるか分からないから、油断して『素』を出しちゃダメですよ?」
もっともらしい理屈を並べてはいるが、その悪戯っぽい表情からして単にからかわれただけだとレタリアは確信した。
そんな賑やかなやり取りの中、ドックの奥からミレアが歩み寄ってくる。
「……本当に大丈夫なの? 別に、あなたが行かなくても他の人に任せればいいのよ?」
どこか落ち着かない様子で、ミレアが心配そうに声をかけてきた。
その表情を見て、レタリアは数日前の会議室でのやり取りを思い返す。
◆◆◆
『乗り込むって……コルーシェに潜入するってこと!?』
レタリアが「直接乗り込んで証拠を掴めばいい」と口にした直後、ミレアは跳ね起きる勢いで声を荒らげた。
『そうですわ! わたくしがササッと潜入して、魔――ではなく、まあ、その……証拠を見つけてまいりますわ!』
胸を張るレタリアに対し、ミレアは焦りを隠せない。
『ダメよ、危険すぎるわ!』
『どうなさったのですミレア、あなたらしくもありませんわね』
珍しく動揺を見せるミレア。その様子を見かねて、グレインが静かに間に入った。
『まあ落ち着け、ミレア。レタリアが君にとってどれだけ特別な存在かは分かっている』
グレインの言葉に、ミレアが一瞬だけ言葉を詰まらせる。傍らにいたプリシラも「まあ……」と呟き少し頬を朱に染めた。
『この子がセルディアにとって……どれだけ重要なのか、グレインもプリシラ中尉もお分かりでしょう!?』
『ああ、分かっているさ。……だが、ここで手をこまねいて事態が悪化するのを待つわけにはいかない。それに、土壇場における彼女の「勘」は、俺たちにとっても一番頼りになる』
グレインの説得に、ミレアは悔しそうに眉をひそめた。
『そうですわよ、ミレア。わたくしの身を案じてくださるのは素直にありがたいですが、わたくしもセルディアのために一肌脱ぎますわ!』
毅然と言い放つレタリアの言葉に、ミレアの勢いが徐々に削がれていく。
『ミレアさん、私たち本国特務部隊も今回は同行し、コルーシェへと潜入いたします。リスクは十分に承知の上ですが……いかがでしょうか』
プリシラからの後押しもあり、最終的にミレアは深く溜め息をついて折れるしかなかったのだった。
◆◆◆
「ふふ、ミレアは本当に心配性ですわね」
回想から戻ったレタリアは、目の前のミレアへ柔らかく微笑みかけた。
「心配するわよ……。向こうで感づかれるわけにはいかないから、せっかく渡したブレスレットの通信だっておいそれと使えないし……。グレインやプリシラさんたちに任せるしかないなんて……」
ミレアはブツブツと小声で溢しながら、小さな可愛らしい包みをレタリアの手へ手渡した。
「これ、ちょっとした携帯食よ。手軽に高栄養が摂れるの。あなた、よくお腹を空かせるでしょう?」
これといった特別な機能があるわけではない、ただの携帯食。けれど、それがミレアなりの「お守り」なのだとレタリアには伝わってきた。
「……大切にしますわ。ありがとうございます、ミレア」
レタリアが包みをバッグの中に入れると、ドックの奥から足音が近づいてくる。
「レタリア、そろそろ出発の時間だ。行くぞ。……ミレアもそう心配するな、必ず良い結果を持ち帰ってきてやるさ」
旅装を整えたグレインに声をかけられ、レタリアは力強く頷いた。
「それでは行って参りますわ~!」
ミレアに手を振るレタリア。
「無事に帰ってきなさいよ……」
静かに遠ざかっていくレタリアたちの背中を、ミレアは不安な面持ちで見送り続けるのだった。
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