悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
コルーシェの目と鼻の先に位置する、静まり返った貨物ステーション『ピックD4』。
そのドックに、1隻の大型輸送船が緩やかな制動をかけながら着陸した。
「お疲れ様です。定期の納入業者の方ですね」
通路に立つドックの警備員が、淡々とした調子で声をかける。
船のハッチが開き、作業服に身を包んだ十数人の人物が降り立ってきた。
「お疲れ様です。指定の納入品を奥まで運び込みます」
先頭に立つ男がIDタグを提示しながら低く告げると、警備員は特に不審がる様子もなく「奥へどうぞ」と手振りに促した。
指示に従い、大型のコンテナを台車でスムーズに運んでいく一行。
やがて、人目に付かない資材コンテナの死角へ差し掛かったところで、先頭の男を含む4人がスッと群れから離れ、陰へと身を潜めた。
「思っていた以上にあっさり潜入できましたね……」
胸元の作業服の襟を正しながら、メリーが安堵の息を漏らす。
「たまたまこちらの正規納入業者にコンタクトを取ることができましたから。首尾よくいって良かったです」
プリシラが作業用のキャップを目深にかぶり直し、静かに微笑んだ。
「しかしまあ……なかなか思い切った手を打ったもんですな、中尉殿」
グレインが呆れ混じりに感心したような視線を向けると、プリシラはその微笑みをさらに深めて見せた。
「ここに、アーグリアが関わっているという『強化人間』とやらの証拠が眠っているわけですわね」
レタリアの問いかけに、グレインは「……まあ、たぶんな」と言った。
◆◆◆
さかのぼること、2日前。
工業区で忘れていた『細身のマキナ』の記憶を取り戻し、通信でグレインへ連絡を入れた後、レタリアは急ぎ足で拠点であるホテルへと引き返した。
部屋の扉を開けると、そこには固い表情で待機していたグレインとメリー、そして合流していたプリシラたちの姿があった。
「もう少し戻るのが遅かったら、迷子の捜索願を出すところだったぞ」
グレインの言葉に、レタリアは小さく腰に手を当てて抗議した。
「あなたもわたくしを子ども扱いしておりますわね、無礼ですわよ!」
ぷいっと横を向いてみせるレタリアだったが、その表情に本気の怒りは一切ない。そんなやり取りを穏やかに見守っていたプリシラが、身を乗り出すようにして本題を切り出した。
「まずは……レタリアさん、工業区で目撃したという話の詳細を聞かせていただけますか?」
「ええ、喜んで」
レタリアは記憶を呼び起こしながら語り始めた。
工業区の半壊した工場跡地に、かつて自分たちの前に現れたあの気味の悪い細身のマキナが隠されていたこと。そして、その目と鼻の先で出会った、アッシュグレイの髪を持つ不思議な少女・ロフィのこと――。
レタリアの直感は、そのマキナとロフィ、そして地下へ消えていった謎の施設が、すべて太い糸でつながっていると強く主張していた。
一通りの説明を聞き終えた後、メリーが腕を組みながら疑問を口にする。
「そのレストフル宙域や前回の戦闘で現れたマキナがアーグリアのものだと確定したとしても……そのロフィって子が、事件やアーグリアと直接関係しているとは限らないんじゃないかしら?」
「わたくしは絶対に関係していると思っていますわ。……根拠は、その……勘ですけれど」
論理的な説明を求められると弱く、レタリアの声のトーンが次第に小さくなっていく。
そんな彼女の様子を静かに観察していたグレインが、声を挟み込んだ。
「まあ、お嬢様の『カン』は俺も高く買っているんでね。今までもそうだった。そのロフィって子が、もしかすると大ビンゴかもしれないな」
「ええ……団長まで……」と困惑するメリーの横で、プリシラは静かに首肯した。
「ええ、私も同感です。何にせよ、アーグリアの敷地の近くに、そんな不自然な状態の子供が放置されていること自体が異常事態です。どちらにせよ、身柄を含めて調査・保護を進めた方が良さそうですね」
プリシラは素早く振り返ると、待機していたランセスへと視線を送った。
「というわけです、ランセスさん。コルーシェ工業区の地下施設について、大急ぎで諸々調べていただけますか?」
「了解しました、隊長殿。裏のネットワークも含めて洗い出してみますよ」
ランセスが気前よく笑いながら引き受けると、プリシラは再びレタリアたちへと視線を向け直した。
「そして……私たちには、今すぐ向かうべき別の場所があります」
◆◆◆
――そして、現在。
『ピックD4』の暗いコンテナの影に集まっているのは、レタリア、グレイン、メリー、プリシラの4名だ。
「アデリナさんにはバックアップを担当してもらっています。そしてメリーさん、あなたには申し訳ありませんが、このドック付近の安全確保と退路の維持をお願いできますか?」
プリシラの指示に、メリーは「了解です」と頼もしく頷いた。
「私たちはこれより内部の深部区画を探索します。事前に共有したマップの通り、この貨物ステーションは全長1kmに及ぶ巨大施設です。内部は狭くありませんし、警備もあるでしょう。くれぐれも細心の注意を払ってください」
そしてプリシラは真剣な瞳でレタリアを見る。
「先日レタリアさんが出会ったロフィと言う少女に関してはひとまずランセスさんが上手く保護してくれている事を祈りましょう。私たちはこちらで出来る事をします」
プリシラの眼差しに、グレインとレタリアは無言で頷く。
(ロフィはきっと今もコルーシェの地下に居ますわ。あの子に自由は無い、だから、わたくしたちがこの貨物ステーションで悪事の決定的な証拠さえつかめば、きっと……)
「ねえ……レタリアさんは本当に大丈夫なの? 危険な戦闘になるかもしれないけれど……」
メリーが心配そうにレタリアの顔を覗き込んだ。
「まあ、俺も内心ヒヤヒヤしてはいるんだがな。だが、今回の潜入にはレタリアの力があった方が良いと俺は確信している」
グレインはあえて具体的な「能力」についてはぼかすような言い回しをしながら、深く信頼を込めた目でレタリアを見やった。
「私もグレインさんの判断を全面的に信頼していますわ。……レタリアさんが只者ではないことくらい、私にもよく分かっていますから」
プリシラもまた、普段の穏やかな笑みを絶やさないまま、確信に満ちた鋭い瞳で言葉を重ねる。
「そこまで頼りにしていただけているのなら、わたくしも全力でお応えしてみせますわ。どうぞお任せなさい。彼らの暴挙を日の元に晒し……ロフィはわたくしが絶対に助け出してみせますわ」
金髪の変装の下で、レタリアは自身の胸元を強く握りしめ、力強く宣言するのだった。
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