悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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154話:絶対に、離しませんわ――っ!

「私は、この施設の全容とデータが集中している管制室を直接押さえます」

 

 資材コンテナの影で、プリシラが淡々と作戦の変更を告げた。

 

「グレインさんとレタリアさんは、データ管理室が存在する下層区画への移動をお願いします。私が管制室を掌握できれば、正確なデータの所在や進行ルートのサポートを通信でお送りできるはずです」

 

「管制室を直接乗っ取る……?正気ですか?」

 

 グレインが呆れたように問うが、プリシラは意に介さず柔らかく微笑んでみせた。

 

「多少の荒事には慣れておりますので、ご心配なく。……ですが、もし私が失敗した場合は、迷わず撤退を優先してくださいね」

 

 そう言い残すと、プリシラはまるで影に溶け込むかのような軽やかな身のこなしで、一人施設の上層階へと消えていった。

 

 ◆◆◆

 

 残されたグレインとレタリアの二人は、プリシラの言葉に従いデータ管理室が存在する下層区画を目指して歩を進めた。

 

 広大な『ピックD4』の内部には、防衛用の自動巡回ドローンや重武装の警戒兵が往来している。だが、レタリアの魔力探知の前にはそれらの防衛網も意味をなさなかった。

 

(あちらの角に二人……そして上の足場にも1機……)

 

 レタリアは体内の魔力を研ぎ澄ませ、壁の向こうに潜む「動きの起こり」や警備兵の呼吸を克明に捉えていく。安全なルートを即座に割り出し、物陰や暗がりをつないで死角をぬって進む。

 

「……頼りになるな、その力は」

 

 グレインが感心したように小声で呟く。レタリアの完璧な誘導により、二人は一度も監視に引っかかることなく、順調に深部へと侵入を続けていた。

 

 ――だが、その途中の通路で、レタリアの魔力感覚がひとつの小さな気配を捕捉した。

 

(っ……! この、途切れそうな息づかい……!)

 

 それは、昨日に引き続き覚えた、あのアッシュグレイの髪の少女――ロフィの気配だった。すぐ近くの別ラインの通路を、何者かに伴われて移動している。

 

 レタリアの足がピタリと止まった。

 

「どうした、レタリア?」

 

 異変に気づいたグレインが振り返る。レタリアは一瞬だけ葛藤するように唇を噛み締めたが、すぐに意を決してグレインを見つめた。

 

「グレイン、わたくしは向かわなければならない場所が出来ました。」

 

 レタリアは息づかいの方向を見て告げる。

 

「例の少女がここにいるのか?」

 

 察したグレインがレタリアに問いかける。

 レタリアは、すこし瞳を閉じる。

 

「断定は出来ません。ですが……確かめなければ」

 

 レタリアの言葉を聞いてグレインはため息をついた。

 

「分かっているなレタリア、ここは敵地の中だ。周囲に仲間はいない、覚悟があるのか?」

 

 グレインの言葉に、レタリアはまっすぐにグレインを見た。

 

 そして、力強く頷く。

 

「……分かった。ミレアのお叱りは俺も一緒に受けてやる」

 

「恩に着ますわ」

 

 そう言ってレタリアは駆け出した。

 

 ◆◆◆

 

 パイプラインが複雑に交差する物陰へ潜り込み、下層の広い連絡通路を見下ろす。

 そこには、小さな背中を丸めて歩くロフィの姿があった。細い身体に合わない簡素な服、伏せられた瞳。その周囲を、厳重に武装した数人の警戒兵と、昨日のポニーテールの女性――キャロルが取り囲むようにして歩いている。

 

(やっぱりロフィですわ……! ですが、人が多すぎて軽々しくは近づけませんわね……)

 

 レタリアは息を殺し、息づかいの起こりを読み取りながら、物陰から物陰へと巧妙に後を追った。

 

 ロフィの姿を見るたび、レタリアの脳裏には元の世界にいる妹、ルティルの影が重なる。

 理由は分からない、だが――

 

 やがてロフィたちの一行は、重厚な装甲扉で閉ざされた一角へと辿り着いた。扉がスライドして開くと、その奥には上質な仕立ての服を着た紳士的な出で立ちの男――アーグリアの幹部・フィンドレーが待ち構えていた。

 

 ロフィがフィンドレーの元へと引き渡されようとした、まさにその時。

 

「――君。そこで何をしている? 侵入者だな」

 

 背後から、不意に通る声が掛けられた。

 

 ハッとして振り返るレタリア。そこに立っていたのは、レタリアと同い年くらいの、鮮やかな深緑の髪を短く切り揃えた精悍な顔つきの青年だった。その瞳には鋭い光が宿っている。

 

「なっ……!?」

 

 ロフィに集中しすぎていて気付かなかった。あまりに自然体で無駄のない足取り。驚くレタリアの声に反応して、前方でフィンドレーに報告していたキャロルが素早く振り返った。

 

「どうしたの、マレイ――」

 

 キャロルは驚愕に目を見開いた。深緑髪の青年――マレイの視線の先、物陰に佇む金髪の少女の姿を捉えたからだ。

 

「あなた……先日の……!?」

 

 そして、キャロルの傍らにいたロフィもまた、ゆっくりと顔を上げた。

 薄い水色の瞳がレタリアの姿を捉えた瞬間、これまで感情の無かったロフィの顔が、見たこともない激動に揺れた。

 

「リア……!?」

 

 ぽつりと零れ落ちた、ロフィの驚愕の声。

 

「ネズミが紛れ込んでいたか、取り押さえろ」

 

 事態を把握したフィンドレーが冷たく言い放った。その言葉が引き金となり、マレイと警備兵たちが一斉に地面を蹴り、レタリア目掛けて猛然と襲いかかってくる。

 

(迷いませんわ……!)

 

 レタリアは襲い来る男たちに背を向け――ではなく、あえて敵の渦中、ロフィの待つ中心へと向かって弾かれたように地を蹴った。

 

「なっ……正気か!?」

 

 突進してくるマレイの攻撃を、魔力で事前に軌道を読み切り、最小限のスウェーで紙一重にかわす。驚愕するマレイを置き去りにし、直線状に立ちはだかる警備兵の懐へ滑り込むと、強引に弾き飛ばした。

 

 見た目に合わないレタリアの強靭なフィジカルに、警備兵たちは転倒する。

 

(自警団の皆さんと一緒に体力づくりをした甲斐がありましたわ!)

 

 あくまで身体の動かし方を知っただけであり、その身体能力はレタリアが本来持ち得るものだと彼女は気づいていなかった。

 しかし、だからこそ、思い切ることが出来た。

 

 レタリアはアッシュグレイの少女へ一直線に向かう。

 

「ロフィ――っ!」

 

「リア……あぶな――」

 

 叫ぶロフィの元へ一瞬で肉薄したレタリアは、その華奢な腕を強く掴むと、迷わず小さな身体を両腕でしっかりと抱き上げた。

 

「捉えなさい! 行かせないで!」

 

 キャロルの叫び声と、追撃してくるマレイの足音が背後に迫る。

 だが、手に伝わるロフィの温もりと、その心拍を感じ取ったレタリアに恐怖はなかった。

 

「絶対に、離しませんわ――っ!」

 

 抱きかかえたロフィの重みを胸に感じながら、レタリアは全力で通路の奥へと飛び込み、迫る追手を置き去りにして駆け抜けていった。

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