悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「邪魔よ、どきなさいR1……ロフィ!」
キャロルの苛立ちに満ちた怒号が、冷たい金属壁の立ち並ぶ資材エリアに響き渡る。
だが、ロフィはその叫びを無視し、キャロルたちの射線に立ちはだかったまま両腕を広げて微動だにしなかった。極めて高い価値を持つ『重要検体』であるロフィを誤射するわけにはいかず、銃の引き金に指をかけた警備兵たちに大きな躊躇と混乱が生まれた。
「レタリア、早く……っ!」
「ロフィ……!」
自分を庇い、必死の覚悟で背中を向けるロフィの悲痛な声に、レタリアは悔しさと歯がゆさで唇を強く噛み締めた。
ほんの少し前に手を繋ぎ、一緒に遊び、ほんの少しだけ心を通わせたばかりの少女。その少女を一人残して自分だけが逃げ出すなど、レタリアの想いがそれを許さなかった。
(けれど……今わたくしまで捕まってしまっては、あの子を助け出す道すら潰えてしまいますわ……!)
激しい葛藤が胸を押し潰しそうになった、まさにその瞬間だった。
けたたましい放電音と共に、レタリアたちを激しく照らし出していた大型監視ライトの光が一瞬にして消失した。
それだけに留まらず、広大な施設全体を覆っていた非常用の壁面照明や防衛システムの作動音が次々と沈黙し、通路一帯が突如として漆黒の闇に包み込まれる。
「なっ……!? 何が起こったの!?」
「システムダウンです! 上層の管制ネットワークが外部から強制遮断されました!」
暗闇の中でキャロルの動揺した声と、警備兵たちの混乱する足音が跳ね回る。
「レタリア……早く逃げて!」
暗がりの中で響いたロフィの叫びに背中を押され、レタリアは溢れそうになる涙を呑んで目元を拭うと、振り返ることなく闇の奥へと全速力で地を蹴った。
◆◆◆
――時を同じくして、施設最上層に位置する管制室。
電子ロックが強引に破壊された重圧な扉の奥には、首筋を的確に撃ち抜かれて失神した警備員たちが転がり、手錠で頑丈な壁面パイプに固定されていた。その足元には、内部フレームを内部から物理的に破壊されて静まり返った最新鋭ガードロボの無惨な残骸が転がっている。
静まり返った室内で、プリシラ・ハレヴィ中尉は何事もなかったかのように作業用手袋の小さな汚れを払うと、淡々とメインコンソールのホログラムパネルを操作していた。
ひと通りの操作を終えると、彼女は腕のブレスレット端末を起動し、下層にいるはずのグレインへ暗号通信を繋ぐ。
『――プリシラさんですか! まさか』
「お待たせいたしました、グレインさん。メインサーバーのセキュリティを直接書き換え、下層ブロック全体の電源と内部通信網を強制オフにいたしました。これでデータ管理室までのルートにある自動防衛設備は完全に停止したはずです。残った警戒兵に鉢合わせないよう、急いで向かってください」
『……おいおいマジかよ。たった一人で管制室の警備を制圧して乗っ取ったのか……?』
通信越しに聞こえるグレインの独り言には、明確な引きつりが混ざっていた。
画面の向こうで、彼は心底(本国軍特務部隊ってのは……なんて恐ろしいお人だ……)と冷や汗を流しているに違いない。プリシラはそんな彼の反応など意に介さず、いつもの柔らかい微笑を浮かべながら言葉を続けた。
「これでサポートは完了です。……ところで、レタリアさんはどうなりましたか?」
『あー……それが……例のロフィって子を見つけてしまったのか、そちらに行ってしまって』
グレインはレタリアの魔力には触れず、伝えた。
「何ですって……?」
プリシラの柔らかな表情が瞬時に消え、思考の顔つきに変わる。
彼女は端末を操作し、レタリアのバイタルと位置情報の追跡を試みたが、モニターには「信号遮断」の赤い警告が空しく点滅するだけだった。
「……ダメですね。下層の最深部は厳重なジャミング障壁で覆われています。ここからでは監視カメラすら届かない秘匿エリアに足を踏み入れたのかもしれません」
『くそっ……。だが、任せるしかないですね』
「ええ……。私も可能な限り、この管制室からシステムを揺さぶって援護します」
◆◆◆
プリシラの完璧な暗躍によって敵の追撃網全体がパニックに陥っていたが、一人暗闇の中を逃げ延びたレタリアにとっても状況は極めて悪かった。
(どうすれば……どう行動すれば良いのですの……!?)
ブレスレットに表示された簡略マップのルート案内はかろうじて生きているものの、外部通信は完全に遮断されており、グレインやプリシラに状況を報告して助けを求めることはできない。
仮にマップの指示通りにドックへ向かって進んだとしても、ルートが割れている可能性があり、待ち伏せされていたら完全にお手上げだ。
(とにかく……人目のない場所へ身を隠し、呼吸を整えなければ……!)
荒い息を吐きながら、複雑に入り組んだ配管とコンテナが密集する薄暗い通路を必死に歩いていく。激しい疲労で魔力探知の精度が落ちていることが、レタリアの焦りをいっそう強くした。
そうして曲がり角を曲がった、まさにその直後――。
わずか数メートル先の暗がりから、小型ライトを掲げた警備兵のシルエットがぬっと浮かび上がった。
(しまっ――)
レタリアが息を呑み、反射的に身構えようとしたその瞬間。
通路の壁の死角から、ぬっと伸びてきたたくましい腕が、彼女の細い肩を力強く引き寄せた。
「きゃっ!?」
浮遊感と共に視界が反転し、強引に冷たい金属扉の奥――資材がうずたかく積まれた物置倉庫の中へと引きずり込まれる。
驚いて悲鳴を上げようとしたレタリアの口元を、分厚い大きな皮手袋が即座に覆い塞いだ。
「静かに……レタリア殿」
耳元で低く落ちついた、聞き覚えのある男の声が響く。
数秒後、扉の外を捜索する警備兵の重い足音とライトの光が通り過ぎ、遠ざかっていくのを静かに確認すると、そっと口元から手が離された。
レタリアは慌てて距離を取るように壁際まで後退し、身構えながら暗闇の中に佇む人物を見上げた。
そこにいたのは、警備兵として見てもあまりにガタイの良い、見上げるような巨躯の男だった。
「あなた……は……!?」
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