悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
物置倉庫の薄暗い闇の中、レタリアは壁際に背を預けたまま、息を殺して目の前の巨躯を見上げた。
被られた目深の帽子に遮られ、男の特徴的なソフトモヒカンや顔立ちは窺えない。身に纏っているのも、先ほどまで敵として遭遇していた警戒兵と同じ暗灰色の戦闘服だ。
だが――その圧倒的な体格、低く落ちついた声の響き、そして何より肌を刺す独特の静かな気配が、レタリアに確信をもたらしていた。
「あなたは……ツーイン様……」
慎重に声を潜め、絞り出すように呟く。
「……今の施設内の騒ぎは、レタリア殿の仕業のようだな」
ツーインと呼ばれた男は顔を上げることもなく、淡々と告げた。
「どうしてわたくしだと分かりましたの? 今のわたくしは、服装も髪色も潜入用に変装しておりますのよ」
レタリアは怪訝そうに首を傾げた。今の自分は金髪で覆い、偽装しているはずだ。
その問いに対し、ツーインは一切の躊躇なく即答した。
「あれだけ兵や職員たちの声が通路に響き渡っていればな。『レタリア』だのと騒ぎ立てている声が聞こえれば、嫌でも察しがつく」
「……なるほど……」
思わず力が抜けるレタリア。敵側が勝手に自分の名前を大声で叫び回っていただけだった。納得したものの、すぐに彼女の瞳に鋭い警戒の光が戻る。
「では、次の疑問ですわ。……なぜあなたがこのような場所にいますの? まさか、アーグリアに与していらっしゃいますの?」
レタリアは身構え、ツーインの動きを鋭く見据えて問い詰めた。セルディアでの襲撃。もし彼がアーグリアと完全に手を組んでいるのなら、ここで戦うことも辞さない覚悟だった。
だが、ツーインは表情一つ変えずに答えた。
「レタリア殿たちと同じように、こちらも仕事の一環だ」
それ以上は何も語らない、語るつもりもないという意思が、その態度から伝わってくる。
「……そうですか。それで、わたくしをどうするつもりですの? 捕らえて引き渡しますの?」
レタリアの言葉に、ツーインは一度だけ扉の隙間から外の通路の様子を確認し、再び静かに視線を戻した。
「どうもしない。レタリア殿は今、追っ手に追われて身動きが取れず困っているのだろう? ……もしかすると、『あちら』にあるものが役に立つかもしれない」
そう言って、ツーインは倉庫の最奥、物資の陰にある金属扉を指し示した。
レタリアは怪訝な表情を深め、ツーインを睨みつける。
「……わたくしを陥れる罠ではないのですか?」
「信じるかどうかは、そなた次第だ」
どこまでも冷静、しかし嘘を吐いているようには見えない男の佇まい。レタリアはしばらく思案するように沈黙した。疲弊した今の肉体で彼と戦うのは愚策であり、何よりロフィを救い出すための脱出路や反撃の手が喉から手が出るほど欲しい状況だ。
「……分かりましたわ。信じましょう。……で、あなた自身はどうしますの?」
レタリアが尋ねると、ツーインは帽子を目深にかぶり直した。
「こちらはこちらで、もう少し調べ物があるのでな。レタリア殿が外で派手に暴れてくれた方が、こちらとしても好都合なのだ」
「……言ってくれますわね」
その不敵な物言いに対し、レタリアの唇のかみ合わせが緩み、小さな笑みが零れた。
彼女は警戒を緩めぬまま奥の扉へと歩みを進め、すれ違いざまに背後のツーインへ声をかけた。
「わたくし、あの件の後……あなたを一度思いきりぶっとばしてやろうと思っておりましたが……それはまた今度にして差し上げますわ」
その言葉を聞いたツーインの口元が、暗闇の中でフッ、とわずかに歪んだ。
「期待して待っている」
背後に男の気配を感じながら、レタリアは提示された奥の金属扉の前に立つ。ロックがされておらず、扉が開く。
通路を抜け、その先にある広い格納庫のような空間へと足を踏み入れた瞬間――。
「これは……」
レタリアは息を呑み、言葉を失った。
薄暗い照射ライトの下、そこに鎮座していたのは――どこにも塗装が施されていない、銀色の装甲が鈍い光を放つ1機のマキナの姿だった。
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