悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「追っ手……!」
レタリアが最後まで言い終わらないうちに、漆黒の宇宙空間に溶け込んでいたダークグリーンのマキナが凄まじい推進音と共に動き出した。
レタリアが強奪した『カドゥクス』は、マキナの中でもやや小柄なフォルムをしている。かつて彼女が乗っていたアーデンと比較しても頭部一つ分ほど小さい。
それに対して、眼前に立ちはだかる敵機はかなりの大型機だった。アーデンと比べても二回りほど大きく、先日中立宙域で対峙したあの濃紺の重装マキナすら上回るほどの圧迫感を誇っている。
「この圧迫感……!ただのマキナではありませんわ……」
じっと敵機を観察していたレタリアは、ふと違和感に気づいた。
敵機はその巨躯に似合うフォトンライフルなどの携行兵装を『持っていない』のだ。手ぶらと同等の状態である。
だが――先ほど彼女の機体をかすめたフォトンの閃光は、一体どこから放たれたのか。
(手ぶら……? いいえ――!)
大型機らしい力任せで凄まじい加速力により、敵機が一瞬で距離を詰めてくる。モニターに迫る敵機の右腕――鋭利なクローを備えた巨大な掌が、真っ直ぐこちらへ向けられているのが見えた。
次の瞬間、発光した右手の中央から、フォトンレーザーが一直線に放たれた。
「くっ……!」
攻撃の軌道も、放たれるタイミングも、レタリアの魔力探知にはハッキリと見えている。
見えているのだ。だが――操縦がおぼつかない。
「動いて……、この……っ!」
レタリアは必死に操縦桿を倒し、足元のフットペダルを力任せに踏み込んだ。
カドゥクスは紙一重のところでレーザーの直撃を回避した。白銀の光条が空間を削り取り、レタリアの頬を冷や汗が伝う。
『くそっ……避けた……避けやがったか……!』
回避した直後、緊急通信回線から聞き覚えのある苛立ちに満ちた男の声が響いた。
「あなたは……先ほどロフィの傍にいた……!?」
レタリアを画面越しに睨み据えていたのは、緑髪の青年――マレイだった。
◆◆◆
「まともに動けてない……! これなら問題なく墜とせると思ったのに……!」
コクピットの中で、マレイは激しい苛立ちと共に舌打ちした。
「このアクイタスは、俺の為に用意された専用のマキナだ! コイツさえあれば……俺が最強だって証明できる! ロフィなんざ、アーグリアにも、コルーシェにも必要ないんだよ!」
叫びながら、マレイはアクイタスの右腕を向け、連続でフォトン弾を撃ち出していく。
目の前で漂う『カドゥクス』の動きは、誰がどう見ても素人同然でおぼつかない。まともな反撃すら一回もしてこないのだ。
キャロルやフィンドレーからは確保を命じられていたが、マレイに生かすつもりなど毛頭なかった。ここで完全に撃墜し、己の力と専用機の性能を誇示してやる。
しかし無数の光条を放っているというのに――どうしてこうも悉く回避されるのか。
「ちっ……調子に乗るなよ!」
マレイは右肩にミサイルポッドを露出させた。
そこから、誘導性能を極限まで高めた高機動ミサイルを一斉に射出する。さらに、そのミサイルの群れの中に、彼自身の切り札を混ぜた。
◆◆◆
「こちらはまともに動かせないのですわよ! 少しは手加減してくださいましーっ!」
レタリアは叫びながら、汗ばんだ手で必死になって操縦桿と操作パネルを動かし続けていた。
威嚇などではない、こちらの命を明確に奪いにきている直撃必殺の射撃。それを、レタリアはギリギリの紙一重でかわし続けている。
バチバチと火花が散った。強烈なフォトンの光条がカドゥクスの左肩をかすめ、無塗装の銀色装甲がわずかに融解して歪む。
「うっ……!」
直後、敵機の肩部ポッドから大量の高機動ミサイルが噴射煙を引いて拡散し、こちらへ向かって殺到してきた。
「意図は……分かりますわ……!」
フォトン弾で逃げ道を塞ぎ、誘導しながら死角からのミサイルで確実に仕留める複合攻撃。
相手が何を狙い、どのように機体を追い込もうとしているのか、レタリアにはその意図も機動の予測もすべて完全に頭の中で描けていた。
「……やるしかありませんわ!」
レタリアは腹を括ると、機体のメインスラスターのブーストを全力で吹かした。
生身の身体に凄まじい遠心力とGが襲いかかる。トレースモードのように身体の動きがダイレクトに機体へ反映されない分、操縦席の中でシートベルトに強い負荷がかかり、身体が圧迫される。それでも彼女は歯を食いしばり、耐え抜いた。
大きく機体を滑らせ、直撃する危険のある攻撃のラインだけを、操縦桿をとっさに引き倒して無理やり回避する。スラスターの逆噴射による急制動と旋回を組み合わせた、無茶苦茶な機動。
『なんなんだよ……! 素人同然のくせに! ふざけた動きをしやがって……!』
通信越しにマレイの焦燥と怒りが混ざった悲鳴のような声が響く。
レタリアの魔力は、敵機アクイタスのすべての攻撃を的確に読み切っていた。
……はずだった。
迫り来るフォトン弾を間一髪で躱し、追尾してくる高機動ミサイルの旋回性能を上回る変則的な旋回で見事に振り切ってみせた、その直後。
死角から――ミサイルの軌道の陰に隠されるように放たれていた、たった一つの弾丸が、吸い込まれるようにレタリアの乗るカドゥクスの眼前へと迫っていた。
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