悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
突如として放たれた高エネルギー弾が直撃し、強い衝撃で崩れ去るアクイタスの体勢。
レタリアの研ぎ澄まされた魔力がその強烈な存在感を捉えた直後の、まさに一瞬の出来事だった。
「あれは……!?」
思わず息を呑むレタリアの眼前を、黒紅色の凄まじい質量が空間を切り裂くように横切った。
『あっちが敵でいいんですよね!?』
通信回線に飛び込んできた元気溢れる声の主は、レタリアの知る人物だった。
◆◆◆
『はい。そちらの大型機が敵機、もう一機の銀色の機体がレタリアさんの乗っている機体です』
通信の向こう側で、プリシラが冷静に状況を告げる。
『しかし……きちんと目標を確認してから攻撃してくださいね? 味方を巻き込まれては溜まったものではありませんから』
『は、はい……すみません……』
プリシラにピシャリと釘を刺され、縮こまったような声を返したのは、彼女の部下であり仲間であるアデリナ・クーリエ軍曹だった。
彼女が操るのは、自らのために極限までカスタムされた専用機『ラデュール』。
かつて自警団との模擬戦において、あのイーサンと死闘を繰り広げた、圧倒的な機動力と火力を兼ね備えた重装甲機体である。
「この大きなヤツ、なかなか手ごわそうですね……!」
アデリナは不敵に微笑むと、レタリアの乗るカドゥクスへ向けて通信を開いた。
『レタリアさん、アデリナです! ここは私が食い止めますから、早く宙域から脱出してください!』
◆◆◆
「な……何だあれは!?」
アクイタスのコックピットの中で、マレイは激しい動揺と共に叫んだ。
超高速で乱入してきた謎の黒紅色。
見た目だけで言えば、既存のマキナのカテゴリに収まっているのかすら怪しい異形。サイズに至っては、大型機であるはずのアクイタスに勝るとも劣らないほどの巨躯を誇っている。
「機動兵器か!? くそっ、データベースに該当なし……! 所属も不明、ステルスまで施されてやがる!」
『マレイ!』
焦燥に満ちたキャロルの割込み通信が響いた。
「キャロル! アレは何だ!? あんなモンスター、聞いていないぞ!」
『分からないわ! けれど……増援に向かわせたグリドが一瞬で5機やられたの! 所属こそ不明だけど、どう見てもセルディア側の機体よ!』
キャロルの声にも、明確な焦りと動揺が混じり込んでいた。
「くそっ……! あのレタリアだけでもここで確実に潰してやりたかったのに、こんな化け物まで出てきやがって!」
マレイは怒号を上げながら強引に機体の姿態を整えると、アデリナのラデュールへ向けてフォトン弾を連射した。
しかし――障害物の存在しない漆黒の宙域において、アデリナの機動性は次元が違った。
凄まじい推進力で空間を走るラデュールは、襲い来るフォトン弾を置き去りに悠々と回避し続ける。そのまま間髪入れずに全身から無数のミサイルを一斉に解き放った。
「ぐっ……!?」
空間を埋め尽くすミサイルの雨に晒され、マレイは死に物狂いで回避行動をとる。
だが、すべてをかわし切ることは到底不可能だった。爆風と破片がアクイタスの装甲を削り、数発が着弾する。マレイは両腕のフォトンシールドを緊急展開し、損傷は最小限に留めた。
「はあっ……はあっ……くそっ……!」
限界を超えた機体制御と、過剰な負荷による精神の干渉。マレイの疲労と体力的消耗は、既に限界を超えつつあった。
『ステーションへ一度引き上げなさい! 本隊と自治軍に緊急要請を出したわ!』
キャロルからの撤退指示に、マレイは苦々しい表情で歯噛みする。
「……わかった。引き上げる!」
吐き捨てるように応えると、マレイはアクイタスのメインスラスターを逆噴射させ、全力で後退を開始した。
◆◆◆
漆黒の暗闇の中を急速に下がっていくアクイタスの機影を、アデリナは見送っていた。
「引き上げていきますね……追いますか? 墜とすならまさに今ですけど」
アデリナが通信越しにプリシラへお伺いを立てる。
『深追いは禁物です。既に別の敵増援も周囲に接近しています。もう少しだけ現場をひっかきまわして、彼らの意識をこちらへ釘付けにしてください』
「了解です!」
プリシラからの指示に明るく答えると、アデリナは再び機体を旋回させた。
アデリナの乗るラデュールにとって、遮蔽物のないこの開けた宇宙空間は、己のポテンシャルを100%発揮できる最高の戦場だった。
ステーションから緊急迎撃のために飛び出してきた敵部隊だったが、誰一人としてアデリナ機の超高速機動を捉えることすらできない。
防衛部隊の群れは、たった一機の黒紅の異形によって完全に翻弄され続けていた。
アデリナがサブモニターのレーダーを確認すると、レタリアの強奪した銀色の機体『カドゥクス』は、既に安全圏である指定宙域外へと無事に離脱を完了していた。
「よし、レタリアさんは逃げ切れましたね。……それじゃあ、もう少しだけ暴れて、私も帰りましょうか」
アデリナは悪戯っぽい笑みを浮かべると、ラデュールの全身から惜しみなくミサイルとフォトン弾の豪雨をばらまき続けた。
『アデリナさん! 脱出地点のこちらへ弾幕を当てないでくださいよ!?』
合流地点で待機するプリシラの呆れ混じりの叱責が飛んでくる。
アデリナは通信機のボリュームをチラリと見ると、聞こえないフリをして爽やかに叫んだ。
「すみませ~ん! 通信のノイズが凄くて、何を言っているのかさっぱり聞こえませ~ん!」
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