悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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163話:残っている時間

 あれから一日が経過した。

 

 ステーション・コルーシェにある『アーグリア本社』の最上層に位置する社長室にて、緊張した空気が漂っていた。

 

『ウェント社長……先日の貨物ステーションでの騒動について、伺いました……』

 

 大型ホログラムモニターに映し出された男が、憂いを帯びた重々しい声を発する。

 

「テレン代表。事態は一刻を争う急を要する状況です。これからの局面と迫り来る脅威に備えるため、自治軍の全面的な動員を要請させていただきます」

 

 アーグリア社の最高責任者であるウェント社長は、モニターに映るコルーシェ代表テレン・グリーンへ向けて、毅然とした口調で促した。

 

「セルディアは明確に、我々の技術を狙い、牙を剥いてきています。今回は幸いにも貨物ステーションひとつで済みました……ですが、このまま手をこまねいていれば、いずれこのコルーシェ全土が危機へと晒されるでしょう」

 

 その言葉を受け、テレン代表は深々と額を押さえ、苦渋の表情を浮かべる。

 

『……ウィステルム本国の仲裁を待つことはできないのですか?』

 

 すがるようなテレンの問いかけに対し、ウェントは静かに、だが拒絶を示すように首を横に振った。

 

「本国は紛争への介入はしません。動くのは民間への被害が及んでからです。それを待つにはあまりにも遅すぎます。そうなってしまってはもはや手遅れなのです。被害が拡大する前に、我々の手で先に彼らを無力化しなければなりません」

 

 ウェントの弁舌に、テレンはしばらく沈黙を守っていたが、やがて重い溜め息と共に息を吐き出した。

 

『……分かりました。自治軍の編成を進めると同時に、予備戦力として熟練のフリーランサーたちの投入も可能かどうか、至急検討いたします』

 

「ご決断に感謝いたします。すべては、このコルーシェの未来のために」

 

 決意を込めたウェントの言葉を最後に、通信ホログラムが掻き消えるように途絶えた。

 

 張り詰めた静寂が、広い部屋を静かに包み込む。

 

「フィンドレー君、状況はどうかね?」

 

 ウェントは振り返り、部屋の隅に静かに控えていた側近のフィンドレーへと声をかけた。

 

 フィンドレーは視線を一切動かさぬまま、淡々と事実だけを口にする。

 

「強化人間に関するデータが奪われたことは確定でしょう。連中はそれを理由に、間違いなく本国を動かしてきます」

 

 その報告を聞き、ウェントは苦々しげに眉をひそめた。

 

「やはりな……。となれば、本国からの派遣軍がこちらに到着するまでの数日間のうちにセルディアを完全に掌握し、すべてをシンセ・フィブラに被せる必要があるか……」

 

 ウェントの言葉に、フィンドレーは表情を変えずに静かに頷く。

 

「戦力の揃い踏みはどうかね?」

 

「現在動かせるグリドが残り20機程度。ですが……『ゴード』の量産化には間に合いました。あとは『アクイタス』、そして『アレ』が完成しております」

 

「ふむ……。R1、M5、そしてそれ以外の者たちも、調整を急がせたまえ」

 

「はっ」

 

「我々にはまだ時間が残されている。だが一刻の猶予もないのは事実だ……頼んだぞ、フィンドレー君」

 

「承知いたしました」

 

 フィンドレーは深々と一礼すると、踵を返して社長室をあとにした。

 

 ◆◆◆

 

 重厚な自動ドアがスライドし、静かな駆動音と共に閉じられる。

 

 それを背に受けて静まり返った廊下を歩くフィンドレーのもとへ、向かい側から一人の女性が歩み寄ってきた。ライトブラウンのショートヘアをさっぱりと整えた姿。

 

「髪を切ったのか、キャロル」

 

 フィンドレーの不意の問いかけに、キャロルはどこか気恥ずかしそうに己の毛先に触れる仕草を見せた。

 

「はい。これからが本当の正念場ですので……気合いを入れ直しました」

 

「そうだな。この苛烈な局面を乗り切ることができれば、我々はさらに次のステップへと進むことができる。……検体たちの調整は済んでいるか?」

 

 フィンドレーの問いに、キャロルは力強く頷いてみせた。

 

「はい、ぬかりありません。機体の用意も完了しています。……私は、あなたを必ず次の場所へと連れていきます」

 

 普段の冷徹な研究者としての顔を覗かせつつも、どこか献身的な響きを込めたキャロルの言葉に、フィンドレーの口元が微かに緩む。

 

「ああ。私には君の力が必要だ。頼むぞ、キャロル」

 

「はい……!」

 

 わずかに頬を朱に染めたキャロルは、研究棟へと向かって足早に去っていった。

 

 ◆◆◆

 

 去り行く彼女の背中を見送り、フィンドレーは再び一人で無言のまま廊下を歩き出す。

 

(ピックD4での連中の侵入……そして、それより前にコルーシェへの潜入の痕跡……。手際が良すぎる)

 

 誰もいない廊下に、彼の足音だけが空寂に響く。

 

「時間など……残っているはずがないだろう」

 

 そう呟いたフィンドレーの唇から、皮肉な笑みがこぼれ落ちた。

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