悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「セルディアとコルーシェが……」
レタリアは、絞り出すような声でポツリと呟いた。
両陣営の緊張が高まり、いずれ衝突に発展する可能性があること自体は、以前から耳にしていた。
だが、自分が意識を失って一日眠っていただけの間に、これほどまでに事態が進んでいたとは思いもしなかったのだ。
「先日の貨物ステーションでの得た証拠は、既に本国側へ渡っている。だから、あと数日の猶予があれば、本国からコルーシェに対して大規模な強制捜査が入るはずだ。プリシラさんがヘイラス大尉に連絡を取り合って、その手筈を整えてくれた」
グレインが腕を組みながら、淡々と現状を解説する。
「……では、わたくしたちがここで無理に動かなくとも、コルーシェは本国によって自然と押さえられるのではありませんの?」
首を傾げて尋ねるレタリア。しかし、その見通しに対してミレアは少し表情を強張らせ、静かに首を横に振った。
「コルーシェ側――特にアーグリアは、向こう主導での決着を何よりも急いでいるのよ。本国の監察軍が本格的に介入してくる前に、セルディアを武力で落とす……厳密には、このシンセ・フィブラの持つ技術と設備を強引に押さえるつもりね」
「追い詰められた側の悪あがきってやつだな。だが、それを分かっていて無視するわけにはいかん。本国が動く前に攻め込まれれば、当然セルディアに甚大な被害が及ぶ。それだけは絶対に避けなければならん」
グレインの言葉を受け、ミレアは手元のコンソールを操作した。
空間に立体ホログラムモニターが浮かび上がり、コルーシェ側の宇宙ステーションや拠点の詳細な画像が表示される。と同時に、複雑なグラフと共に想定される敵味方の戦力比較データが展開された。
「コルーシェ自治軍が独自に保持している純粋な戦力自体は、そこまで大きなものではないと見ている。少なくとも、正規の自治軍の総戦力だけならセルディアの防衛戦力に劣るだろう」
グレインの言葉に対応する様に、ミレアが別のモニターを操作し、セルディア側のデータを表示させる。青く発光するセルディアの戦力グラフは、コルーシェ自治軍の数値を明確に3割程度上回っていた。
「少なくとも、現場で使用されているマキナの純粋なスペックは、現行機の『ルード』を基本運用しているこちらに分がある。コルーシェ自治軍が配備している機体はやや型落ちの旧式が多いし、パイロットの練度や実戦経験も恐らくこちらが上だ」
グレインが自信を覗かせるように頷く。
「けれど……大きな懸念があるわ」
ミレアがそう言うと、ホログラムのコルーシェ戦力データの下に、赤く輝く『アーグリア』の文字が別枠で大きく表示された。
「アーグリアが独自に保持している戦力……ということですわね」
レタリアの勘の良さに、ミレアは深く頷いた。
「アーグリア自体の企業規模を考えると、通常のマキナや兵装をそこまで大量に隠し持っている訳ではないと思うけれど……」
ここでミレアは一度言葉を切る。
そしてグレインが代わりに口を開いた。
「問題は――『強化人間』だな」
その単語を聞いた瞬間、レタリアの脳裏に、夢の中でも見つめたあのアッシュグレイの髪をした小柄な少女の影が鮮明に浮かび上がった。
「ロフィ……」
「貨物ステーションのデータバンクから入手した情報によると、レタリアが現場で接触したロフィという少女、そして追撃に出てきたマレイという青年……彼らが強化人間部隊の中心となる存在のようだ。だが、脅威は彼ら二人だけじゃない。他にも最低あと5人以上、同様の存在がいることが判明している」
グレインが眉間にシワを寄せながら告げる。
「コルーシェに向かう前、中立宙域でアランドの機体を撃破し、俺が相手にした緑のクラフィドもどきに乗っていたのもマレイだった。となると、レタリアが直接戦ったあの機体のパイロットは……」
「ロフィ、ですわね」
レタリアの確認に、グレインは「ああ」と頷いた。
「得られたデータでは、他の強化人間たちは精神的にも肉体的にも非常に不安定で、まともな実戦投入ができるかどうか疑問視されていた……だが、相手も後がない以上、なりふり構わず実戦へ投入してくると考えた方がいい。当然、あのロフィという少女も出撃してくるはずだ」
グレインの容赦ない言葉に、レタリアの表情がキュッと固く強張る。
「現在、フリーランサーたちへの緊急防衛依頼も同時に進めている。ステーション間紛争はセンシティブなものでな。どれだけの人数が要請を受けて集まってくれるかは未知数だ。だが最悪、彼らには前線に出てもらわなくても、レストフルの時のように火事場泥棒を狙う連中からセルディアの背後を守ってもらいたいと考えている」
そこまで現状を整理して説明すると、グレインはまっすぐにレタリアの目を見つめた。
「間違いなく総力戦になる。レタリア、君の力が必要不可欠だ。……本来ならば、病み上がりの君にこんな戦いを強制すべきではないのだが……」
グレインは苦々しい表情で言葉を濁した。
だが、その不本意な言葉を最後まで言い終わらないうちに、レタリアは間髪入れずに言葉を返した。
「もちろんですわ! やらせていただきますわよ!」
レタリアは不安を吹き飛ばすかのように、敢えて朗らかに、力強く言い切った。
「このセルディアは、わたくしにとってこちらの世界での大切な『故郷』ですもの。何があっても、わたくしの手で絶対に守り切ってみせますわ!」
そこで一拍置き、レタリアは自身の胸にそっと手を当てた。
「そして……ロフィも、きっと戦場に出てくるのでしょう。でしたら……わたくしが彼女を救いますわ」
意志を新たにそう宣言した。
「レタリア……」
ミレアはレタリアの横顔を見つめる。
「どうしましたの、ミレア? そんなに心配そうな顔をなさらないでくださいまし。わたくしには、あなたが調整してくださった『アーデン』がありますもの! 必ずやり遂げて見せますわ!」
胸を張るレタリアの力強い言葉に、グレインも口元を綻ばせ、頼もしそうに頷いた。
「ありがとう。私も全力でバックアップするわ」
ミレアも気持ちを切り替え、力強い眼差しを投げ返す。
「コルーシェが本格的に攻勢へ動き出すのは恐らく二日後だ。それまでの間、各自ができる限りの準備を尽くそう」
グレインの締めの言葉に、レタリアとミレアは深く頷き返した。
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