悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
グレインとレタリアが去り、静寂を取り戻したミレアのプライベートラボ。
ホログラムモニターの青白い光に照らされながら、ミレアは一人、黙々と端末を操作していた。画面に表示されているのは、レタリアの愛機である『アーデン』の最新調整データ、そしてセルディア自警団に所属する団員たちの搭乗機に関する詳細な改修データ群だった。
「初めてね……あの子が自分の明確な意思で、戦うと決めたのは……」
誰もいないラボの中に、ミレアの静かな呟きがぽつりと溶けていく。
思えば、これまでレタリアが戦場に立った理由は、感情の赴くままに、降りかかる火の粉であるレイダーたちを鉄拳粉砕したことは何度もある。フリーランサーとしての活動もあったが、基本的には状況によるものであった。
あのレストフルの時ですら、緊急事態であり、何より「グレインを助けてほしい」というミレアの頼みをレタリアが受け入れる形で出撃していったのだ。
だが、今回は全く違う。
レタリアは誰に強いられたわけでもなく、自らの意思で故郷だと言ったセルディアのため、そして『ロフィ』という少女を救い止めるために、戦うことを選んだのだ。
「成長……したのかしらね」
端末を操作するミレアの口元に、誇らしさとどこか寂しさが混ざり合った、優しい微笑みがこぼれ落ちる。
「さて……あの子の想いに応えるためにも、アーデンの最終確認を完璧にしておかないとね……!」
表情を引き締めたミレアは、再び集中して端末のキーを打ち込み始めた。
◆◆◆
時を同じくして、熱気が充満するセルディア自警団の巨大ハンガー。
「アランド、頼んでいた『ラスタ』の回送が間に合ったようだな」
ハンガーの階段を下りてきたグレインが、真新しいブラウンの機体を見上げるアランドへ声をかけた。
「はい! 先日の戦いで機体を失ったばかりの俺に、まさかもう一機新型を回してもらえるなんて思ってもいませんでした。でも……本当に俺が乗って良いんですか?」
アランドは未だ信じられない様子で尋ねた。
「ああ、気にするな。機体を失ったばかりのお前には丁度いいタイミングだ。それに……」
そう言ってグレインは視線を巡らせ、ドック内に整然と並ぶ自警団仕様のカスタムルード群を見渡した。
「今回の全宙域規模の事態に備えて、シンセ・フィブラが緊急で大幅な戦闘強化プログラムと推力と装甲、武装の強化を加えてくれたんだ。今のうちのルードは、シンセ社の軍用機『ルザム』にも後れを取らない性能に跳ね上がっている」
「へぇ……そいつは頼もしいですね!」
グレインの頼もしい言葉に、傍らで整備用アームを眺めていたステシアがひょっこりと顔を出し、声をかけてきた。
「最初は私だけだったラスタをアランドさんも受け取っちゃいましたし、新型のイニシアチブは無くなってしまいましたよ~!」
ステシアがおどけた様に笑う。
「でも、ラスタが2機になったから私のラスタは正式に専用機として『フロード』の名前も戻ってきて、カラーリングも変わりました、やる気が出ます!」
ステシア機は試験用の状態を脱し、色も白色からかつての彼女の愛機フロードと同じ、イエローを主体としながらも腕部は空色に塗装された機体色になっていた。
「ステシア、アランド。お前たちの『ラスタ』も、単なる素体の状態ではなく戦闘スタイルに合わせてカスタムしてある。操縦の安定性は素体時よりやや下がるが、その分機動性と火力はかなりの次元に達しているはずだ、頼むぞ」
「「はいっ!!」」
二人の元気な返事を聞き届けたグレインは、少し離れた場所で静かに自機を見つめていた男――イーサンへと視線を向けた。
「イーサン機――『リバスト』には、これまでで最も大規模な改造を施してあるそうだ。これまででも高い性能を誇っていたが、現状の改修値ではもはやルードの枠組みに収まらない『別物』になっているらしいぞ。俺のリーズにも負けないくらいだと、スカリア女史が自信満々に胸を張っていた」
その言葉を聞いたイーサンは、呆れたように肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
「やれやれ……平時なら本国の監察局から睨まれかねないレベルの改造だぞ」
「今回は状況が状況だ、特別にお目こぼしを貰っている。安心しろ」
グレインのニヤリと笑う返事に、イーサンは「まあ存分に使わせてもらおう」と再び肩をすくめた。
ここでグレインはくるりと振り返り、ハンガー内にいるすべての自警団員たちへ向けて腹の底から声を張り上げた。
「諸君! 決戦は明後日だ! それまでに、この大幅に強化された機体たちの挙動と感覚を完全に体に覚え込ませておけ! コルーシェの連中に、俺たちセルディア自警団の本当の実力を教えてやるぞ!」
『はいっ!!』
グレインの檄に、ハンガー全体を揺らすほどの雄叫びのような返答が響き渡った。
◆◆◆
必要な精密検査をすべて終えたレタリアは、自分の割り当てられた自室へと戻っていた。
脳波もバイタルも異常なし、体調は完全に回復しているとのことだった。念のためとミレアが手渡してくれた、ドロリとした謎の極彩色ジュースをグラスから一口口に付ける。
「……ふむ、なかなかいけますわね」
自警団の面々は「飲む拷問」と恐れおののくミレア特製の栄養満点ドリンクだが、レタリアは割と気に入って美味しく味わっていた。
今はとにかく、体を休めることが最優先だ。
あの貨物ステーションでの隠密行動、そして強奪した機体『カドゥクス』のコックピットで襲ってきたあの割れるような強い負荷と頭痛――。
(インペラティヴシステム……あの感覚は……)
胸の中に渦巻く気になる予感や疑問は山ほどあった。
だが、今はそんなことに囚われている場合ではない。自分には、大切な仲間たちとこの場所を守り、あの少女を止めるという「やるべきこと」が明確にあるのだから。
レタリアはグラスをテーブルに置くと、小さく、だが力強く意気込んだ。
「よしっ!」
どのキャラクターが好きですか?
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