悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
二日後――。
セルディアの雰囲気は一変していた。各所に張り詰めた緊張感が漂う中、一般ドックでは来たるべき大戦に備えて召集されたフリーランサーたちが、それぞれ入念に愛機の整備と出撃準備を進めていた。
「準備できたよ、親方!」
パイロットスーツに身を包んだ眼鏡の小柄なおさげ少女が、足早に駆け寄って作業用のハシゴを下りてきた。
「よし、こっちもセッティング完了だぞ、ファル」
そう返事をしたのは、ひげ面の男――ゼインだった。
二人とも、かつてレタリアと共に危険な任務をくぐり抜けてきた、腕利きのフリーランサーコンビである。
「いいかファル、今回の仕事はいつもと事情が違いすぎる。くれぐれも前に出すぎるなよ? 俺たちの役割はあくまで後方支援と後方の警戒だ」
念を押すゼインの言葉に、ファルは呆れたように小さく肩をすくめて胸を張った。
「もう何度目なのよ、その話! 言われなくたって分かってるってば!」
反論するファルの威勢の良さに、ゼインは困ったように顎のひげをガリガリと掻く。
「全く……こういう『大規模な勢力間争い』の仕事ってやつは、下手に首を突っ込むと後々フリーランスとしての経歴に傷が付きかねんからなぁ……」
ゼインは他人に聞こえないような小声でぼやいた。
「いいか、今回はいつものチンケで粗暴なレイダーどもが相手じゃない。訓練された正規の軍隊や企業の私兵部隊が相手だ。主役はあくまで自警団の連中で、俺たちは引き立て役だからな」
「分かってるってば! ……でも、レタリアはきっと迷わず一番前線に出ていくんでしょうね」
ファルが遠くを見つめるような瞳で呟くと、ゼインも視線を落として深く息を吐いた。
「……まあな。あのお嬢様なら……どんな無茶を通しても大丈夫だろうさ」
◆◆◆
時を同じくして、シンセ・フィブラ専用ドック。
広大なハンガーの中央に鎮座するのは、紫紺に金の装飾が入ったレタリアの愛機『アーデン』。その足元で、二人の女性が向き合っていた。
「……準備は完璧よ」
ぼさぼさの髪を無造作に束ねたミレアが、目の下の深いクマをさすりながらレタリアに語りかける。
コルーシェとの衝突という最悪の展開をあらかじめ予見していたセルディア管理局、およびシンセ・フィブラは、この二日間どころかそれ以前から密かにこの全面対決に向けた準備を徹底して推し進めてきていたのだ。
「ええ! ソラ様が完璧に調整してくださったノーブル・ロータスⅡの調子も万全ですわ!」
洗練された専用パイロットスーツに身を包み、ヘルメットを小脇に抱えたレタリアが爽やかな笑みを返す。
「そして……」
レタリアは愛機であるアーデンを見上げた。
これまでの中量機体といった見た目と異なり、重量機体と言っても差し支えのないフォルムになっていた。
「さしずめ重装騎士というべき出で立ちですわ、凄く立派な姿になりましたね」
目を細めてアーデンを見つめる。
同じくミレアもアーデンを見上げた。
「ええ、今までの外装だった部分とは違い、『戦闘の為』の装甲と武装を付けているわ。あなたの盾となり剣となる。見た目こそ重厚になったけれど、アーデンの機動力は損なわれていないわ」
ミレアの言葉を聞いてレタリアは微笑んだ。
「とても勇ましいです、ふふ、わたくしに相応しい姿です」
その言葉にミレアも微笑み返した。
「それは本当に良かったわ。今回はシンセ・フィブラのセルディア支部が持てる総力を挙げてバックアップしているわ。貴女も、自警団の面々も……きっと全員が無事にここへ帰ってこられる」
徹夜の連続で疲労困憊のはずのミレアが、優しく目を細める。レタリアはその手を取ると、キュッと力強く握りしめた。
「当然ですわ……! ミレアたちがこうして全力を尽くしてくださっているのですもの。負けるはずがありませんわ!」
不意に手を握られたことに一瞬目を見開いて驚いたミレアだったが、すぐに表情を緩め、温かく握り返した。
「……存分に暴れていらっしゃい。セルディアを守り抜いて、そのロフィって子も救い出す……貴女なら、絶対にやってのけられるわ」
ミレアの確信に満ちた言葉に、レタリアは最高の笑みを浮かべて胸を張った。
「わたくしは最強の騎士となる予定ですもの、やりとげてみせますわ!」
◆◆◆
数時間後――。
漆黒の暗闇が広がるセルディア外縁部宙域。
『偵察部隊より入電。既にコルーシェの侵略部隊は、互いの宙域のちょうど中間付近に展開を終えたとのことだ』
黒白のフォルムを持つ機体――『リーズ』のコックピットから、全セルディア陣営の広域共通チャンネルへ向けてグレインの声が響き渡る。
『これより作戦を開始する。フリーランサーの諸君は指定通り後方支援に専念し、セルディアの守りを固めてくれ』
そう指示を出した後、グレインは通信の暗号ラインを自警団およびレタリア専用のチャンネルへと切り替えた。
『「協力者」たちの支援で、敵は浮足立っているだろう。これを機に、俺たちで押し切るぞ!』
『『『おおおおっ!!』』』
通信越しに自警団員たちの熱い咆哮が爆発する。
それから数分後、緊迫した様子で偵察部隊からの直接割り込み通信が入った。
『敵機動部隊の戦力を確認しました! ……コルーシェ自治軍の主力は想定よりもかなり少数です! 旧型混成汎用機部隊が40機程度、「グリド」が20機程度確認できます。ですが……アーグリアの私兵と思われる規格外のマキナ群を確認! 赤い大型機「ゴード」らしき機体が6機、「アクイタス」が1機、さらに青の新型機が1機確認されています!』
『強化人間部隊の総数は8機程度か……! 各機へ通達、一般機および量産機を中心に相手取れ! 強化人間への対処は、俺とレタリアを含む一部の特化メンバーのみで行う!』
グレインの鋭い檄が全軍へ飛び交う。
アーデンのコックピットの中で、レタリアは魔力を集中させる。彼女の気配を感じ取るだけの魔法、それがアーデンを通して遠くの宙域へと広がる。
(強化人間部隊、ロフィ……あなたもここに居ますの……?)
そこにあるはずのものが感じられない。
レタリアは前方に広がる漆黒の闇を見つめた。
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