悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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17話:謎の令嬢レタリアですわー!

「いい、レタリア。自分の裁量で仕事を選ぶのは許可するけれど、絶対に身の丈に合わない無理な依頼は受けないこと。分かっているわね?」

 

 居住区のターミナル。ホログラムの依頼リストを前にしたレタリア・アーデニアムの背中に、ミレアの母親が子供を諭すような声が降ってくる。

 

「……分かっておりますわよ! わたくしを何だと思っていますの? これでも公爵令嬢ですわ。分不相応な真似などいたしませんことよ!」

 

 レタリアはぷりぷりと怒りに肩を揺らしながら、端末の画面をスワイプした。

 本音を言えば、もっと華々しく、悪の軍団を根こそぎなぎ倒すような大仕事を受けてやりたい。

 けれど、先日メリーから突きつけられた「12000クレジットでは腕一本直せない」という無慈悲な現実は、誇り高い彼女の心に、意外なほど重い楔を打ち込んでいた。

 

(……背に腹は代えられませんわ。まずは着実に、この『アーデン』を維持するだけの蓄えを作らねばなりませんの。無様に壊れた機体をさらすなど、わたくしのプライドが許しませんから!)

 

 レタリアが選んだのは、セルディア居住区の至近宙域に流れてきた小規模な「資源小惑星」の採掘補助任務だった。

 主な内容は、破砕された鉱石を回収船まで運搬する作業のサポート。および、作業員たちの安全を確保する護衛任務である。

 

「地味ですわね……。まるで庭園の石ころを片付けるような仕事ですわ」

 

 ぼやきながらも、レタリアは新調した紫と金のパイロットスーツに身を包み、愛機アーデンのコックピットへと収まった。

 

 ◆◆◆

 

 宇宙の闇に、キラキラと輝く鉱石の破片が舞っている。

 アーデンは、その巨大な手で岩塊を掴んでは運搬ポッドへと放り込む作業を繰り返していた。レタリアの「直感」は、どの岩が脆く、どのタイミングで動けば効率的かを完璧に捉えている。

 

(……大事なことですわ。地道な積み重ねこそが、王道の基本。ルティルも、毎日魔法、武術だけじゃなく周囲への協力を欠かさなかったですわね)

 

 ふと、遠く離れた故郷の妹を思い出す。あちらの世界にいた頃は「退屈な茶番ですわ」と切り捨てていた奉仕活動。

 けれど今、こうして自らの手で糧を得るために汗を流していると(実際には機体が動いているのだが)、その「退屈」の中にある責任の重みが、少しだけ理解できる気がした。

 

 その時、機体内の通信パネルに、不敵な笑みを浮かべた男の顔が投影された。自警団隊長、グレインだ。

 

『やあ、レタリア嬢。精が出るな。前回の初仕事は自警団の差配だったが、今回からはいよいよ独り立ちか。少しはこっちの生活に馴染んできたようじゃないか』

 

「あら、グレイン。……ふん、あいにく、わたくしに馴染めない場所などございませんわ。それより、なぜ通信を? まだわたくしを監視しておりますの?」

 

 レタリアが少し不機嫌そうに尋ねると、画面の中のグレインは肩をすくめた。彼は今、数キロ離れた位置で自警団の哨戒機に乗っているはずだ。

 

『いや、俺が気にしてるのはレタリア嬢、君の後ろだ。……気づいていないのか?』

 

「後ろ……?」

 

 レタリアはアーデンの外部センサーを後方へと向けた。

 そこには、作業用のマキナとは明らかに形状の異なる、平べったい小型船が数隻、一定の距離を保って漂っていた。

 船体には、派手なロゴと「MEDIA」の文字。

 

「……なんですの、あの小蝿のような船は?」

 

『マスコミだよ。先日のブラング団襲撃の時、君がアーデンで暴れ回っただろう? 「謎の旧型マキナがセルディアを救った」って話は、もう街中のニュースで持ち切りだ。

 君の正体と、そのド派手な機体を取材しようと、連中血眼になって追い回してるんだよ』

 

「わたくしが……注目されてますの?」

 

 レタリアの声が、わずかに弾む。

 注目されること、賞賛されること。それは彼女にとって最高の蜜の味だ。

 

『ああ。自警団の中だけで広まってたあだ名も、連中の手にかかれば格好のネタだ。今朝のネットニュースを見てみろ。「暴走令嬢レタリア! その正体は地球の貴族か、あるいは……」なんて見出しが躍ってるぞ』

 

「ぼ、ぼ、暴走……!? その名前だけは、ちょっと困りますわ! わたくしは常に冷静沈着、優雅に戦っておりますのよ!?」

 

『ははは、世間様ってのは刺激的な名前が好きなんだよ。まあ、作業を続けな。俺はこっちで、連中が君の邪魔をしないように睨みを効かせておくから』

 

 グレインの通信が切れる。

 レタリアは「暴走令嬢……センスを疑いますわ……」と独り言を漏らしながらも、まんざらでもない様子で作業を再開した。

 マスコミのカメラが向いていると思うと、レタリアは無意識に優雅にふるまおうと動いた。

 しかし、トレースモード越しのアーデンの動きはよりぎこちなくなっていた。

 

 順調に作業が進み、小惑星の深部へと掘削が進んだ、その時だった。

 

「隊長! こ、これを見てください!」

 

 作業員の一人が、怯えた声を上げた。

 掘り進められた岩盤の亀裂から、青白い光が漏れ出している。

 それは鉱石の輝きではなかった。

 

 ズルリ、と。

 その光の中から、不定形の巨大な塊が這い出してきた。

 

「……な、なんですの、あの気持ち悪い生き物は!?」

 

 レタリアは顔をしかめた。

 それは機械でも人間でもない。宇宙空間に生息する原生生物、通称『ボイド・リーチ』。

 高エネルギーの鉱石を主食とし、その体組織はシリコンと高密度のエネルギー体で構成されている。普段は小惑星の深部で休眠しているが、掘削の振動によって目覚めたらしい。

 

 ボイド・リーチは、長い触手のような器官を伸ばし、近くにいた作業員の回収船へと襲いかかった。

 

『まずい、目覚めちまったか!』

 遠くで待機していたグレインの声が響く。

『レタリア嬢、作業員を逃がせ! 急行するが、この距離じゃ間に合わん!』

 

「仰られなくても分かっておりますわ! わたくしは護衛も兼ねてここにいるのですから!」

 

 アーデンが急加速する。

 マスコミの小型船が、絶好のシャッターチャンスとばかりに接近してくるが、レタリアにそれを気にする余裕はなかった。

 

「この魔物が! わたくしの仕事を邪魔するんじゃありませんわ!」

 

 アーデンの鋼鉄の拳が、ボイド・リーチの胴体へと叩き込まれた。

 ドゴォッ!という衝撃音が真空を伝わって振動として伝わる。しかし、相手は不定形の生物。打撃の衝撃は、そのぶよぶよとした表皮に吸収され、致命傷には至らない。

 

「なんですの、この手応えのなさは……! ならば、これならどうかしら!」

 

 レタリアは反射的に、右手を強く握りしめる。

 トレースモードのパターンとして学習されたそれは、必殺の武器。

 アーデンの右腕から、高出力のプラズマ刃が形成される。

 

「『ふぉとんせいばー』! ですわーーーっ!!」

 

 レタリアの叫びと共に、深紫の騎士が光の剣を振り下ろした。

 物理的な打撃を無効化するボイド・リーチの体組織も、純粋なエネルギーの刃までは防げない。

 鮮やかな光の軌跡が宇宙を切り裂き、巨大な原生生物を真っ二つに両断した。

 

 断末魔の叫び(のような電磁波)を残し、生物は宇宙の塵へと還っていく。

 

「ふぅ……。まったく、お召し物が汚れますわ」

 

 レタリアは優雅にフォトンセイバーを消すと、何事もなかったかのように作業員たちへ向き直った。

 

「怪我はありませんこと? さあ、さっさと作業を終えてしまいましょう。わたくし、お腹が空きましたわ」

 

 仕事を終え、セルディアの格納庫へと帰還したアーデン。

 ハッチが開き、レタリアがタラップを降りてくると、そこには既にマスコミの記者たちが待ち構えていた。

 

「今の戦闘、見事でした!」

「あなたは一体何者なんですか!? 自警団の隠し球という噂は本当ですか!?」

「お名前はレタリアさんとおっしゃるんですよね、一言お願いします!」

 

 フラッシュのような光がレタリアに浴びせられる。

 普通の少女なら気圧されるような場面だが、彼女は違った。

 レタリアは足を止め、優雅にダークパープルの髪をかき上げると、カメラの一台を真っ直ぐに見据えた。

 

「ふふ、わたくしは――」

 

 一拍、間を置く。

 不敵で完璧な微笑み。

 

「――わたくしは、誇り高き謎の令嬢レタリア・アーデニアムですわー!……おーっほっほっほっほ!」

 

 高笑いと共に、彼女は記者たちの間を颯爽と通り抜けていった。

 

 遠くでその様子を眺めていたグレインは、通信機をポケットに放り込み、深いため息をついた。

 

「おいおい……」

 

 呆れるグレイン。しかし、その口元には、そんな存在を歓迎するような、小さな苦笑が浮かんでいた。

 

 翌日のニュースの一面を飾ったのは、言うまでもない。

 『暴走令嬢レタリア、光の剣で原生生物を粉砕!』

 

 その見出しを見て、ミレアがこめかみを押さえて頭痛に耐えることになるのは、また別のお話である。

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