悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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1話:ふざけるなーですわー!

 ◆ 追放儀式

 

「レタリア、お前には失望した」

 父の冷徹な声が、荘厳な儀式場に冷たく響いた。

 

 アーデニアム公爵家の長女、レタリア・アーデニアムは、冷たい石畳の上に跪いていた。ダークパープルの美しい長髪が、屈辱に震える肩に垂れ下がる。

 彼女はまさに追放の儀式を受ける所だった、この世界においてそれは流刑であり、二度とこの地に戻れない死罪と同様のものだった。

 

 きっかけは、些細なことだった。いつものように妹へ因縁をつけようとした、その瞬間、ルティルが足を踏み外して階段から落ちた。手は、触れてすらいなかった。

 

「姉様は悪くないの……!」

 

 ルティルはか細い声で庇おうとした。だがそれは、これまでのレタリアの陰険さと、聖女とも称されるルティルの慈悲深さゆえに、かえって疑いを深めるだけだった。

 庇われている。その事実が、レタリアの胸に、じわりと重く沈んだ。

 

 その時――

「……お嬢様……」

 

 侍女キアラが、震える手で小さな袋を差し出した。中には、わずかな硬貨、食べ物、種、アクセサリ、そして一通の手紙。レタリアは俯いたまま、黙って受け取った。

 キアラの目から大粒の涙が零れている事に意識を向ける余裕は無かった。

 

 わたくしの魔力は、ただ"感じる"だけのもの。

 危険を察知できても、身体が追いつかない。

 誰かを癒すことも、守ることも、ましてや戦うこともできない。

 

 ……そんな魔力に、価値などあるはずがありませんわ。

 

 だから私は…!

 

 魔方陣が、禍々しい光を放ち始める。

「……ふん、このような家、こちらから願い下げですわ!」

 

 その声は、微かに震えていた。

 

 光が彼女の身体を包み込む。次の瞬間、レタリア・アーデニアムの姿は、この世界から消え去った。

 

 ◆◆◆◆◆

 

(……あつい、……息が……)

 

 体が、軽い。

 なのに、内側から押し潰されるような息苦しさがある。

 胃がふわりと浮き上がり、どこが上でどこが下なのか分からない。

 

 目を開けると――

 

 そこは暗闇ではなく、鉄の管が無数に広がる空間だった。

 

 怒鳴り声が飛び込んでくる。

 

「このままじゃ俺たちブラング団が壊滅しちまう! どうすんだよ!!」

 

 男が振り返り、レタリアを見て目を剥いた。

 

「なんだこの……古代地球のコスプレみたいな女は!?」

 

 別の男が怒鳴った。

 

「ブラング! そいつどうする!」

 

「あのボロのマキナにぶち込んどけ! おとりにしろ!」

 

「な、何を言ってますの!? 説明なさいませ!!」

 

 レタリアの言葉を男たちは無視する。

 

 男たちの言葉が何一つ分からない、レタリアは乱暴に引き摺られ――

 

 目の前に鉄の巨人が現れる。

 

(……何、このゴーレムは……)

 

 巨人の胸の一部は開かれていて、そこにレタリアは乱暴に押し込まれた。

 

 ゴーレムの内側。無数の機械仕掛けのからくり。

 

 それはまるで鉄の牢獄だった。

 

(……ゴーレムじゃない。からくり……機械人形、ですの……?)

 

 理解しかけた瞬間、ハッチが音を立てて閉まった。

 

 静寂。

 

 音が消える。

 

 ◆ MTI起動

【Arden System — Ready to Operate】

【MTI:多機能翻訳機構 起動】

【音声パターン解析中……】

【翻訳プロトコル:適用】

 

「……え? 解析……ぷろとこる……?

 さっきまで何を言っているか分からなかったのに……?」

 

 レタリアは目を見開いた。この機械に搭載された翻訳技術が起動し、周囲の言葉が自動的に変換されているとは、彼女には知る由もない。ただ、急に言葉が理解できるようになったことに、困惑していた。

 

 しかし固有名詞だけは別だ。「MTI」といった、彼女の知識にない言葉は、依然として意味不明な音として残る。

 その困惑を、さらなる衝撃が上書きした。

「第3、第4小隊! このボロマキナのおとりを盾にして出ろ!」

 

(おとり……? わたくしを……?)

 

 ◆◆◆◆◆

 

 目の前に広がるのは、全方向に散らばる星々。

 

(夜空……? いえ……夜空が……全方向に……?)

 

 理解が追いつかないまま、戦闘が始まる。

 光の雨が、無音のまま視界を飛び交う。

 

 魔法の矢……? いいえ、音のない、冷たい光だった。

 

 夜空の中で戦いが起こっている。

 

 

 そしてわたくしは、無粋な輩のせいでこんな戦いの中に「囮」として放り込まれた。

 

 

 ……この、アーデニウム家のレタリアが!

 

 

 絶望と悲しみはどこかへ消え、怒りが弾ける。

 

「ふざけるなですわ!!」

 

 その瞬間――

 

(来る……!)

 

 直感が脳を貫き、機械人形が跳ねるように動いた。

 

「きゃっ!? ちょ、ちょっと! わたくし何もしていませんわよ!!」

 

 レタリアはシートに叩きつけられ、体を跳ねさせられながら、必死に耐えるしかなかった。これが機械人形(マキナ)に標準搭載された初心者用の自動補助機能「トレースモード」だ。

 

 戦闘用に使う機能ではない、動きが激しすぎて、一般人ならとうに意識を失っている。それでも機体は止まらない。レタリアも止まらなかった。

 

 敵の攻撃はすべて外れる。

 

「なんだあの動き!? あんなボロがそんな……!」

 

 先ほど私を足蹴にしたと思われる不逞の輩たちの乗っている機械人形が光の粒になっていく。

 

 彼らの相手にしている「敵」がいるのだ。

 

 味方を失っていくブラングが怒鳴る。

 

「あんな古めかしいコスプレ女乗せるんじゃなかったぜ! 俺たちの方がかき乱されたじゃねえか!!」

 

(……コスプレは分かりませんけれど……侮辱されたことだけは、よく分かりましたわ!!)

 

 目標はあのブラングとかいう無粋な男。

 レタリアは思い切り意識をブラングの機械人形に向け、前傾姿勢を取る。

 

 それに呼応するかのようにとてつもない加速をする機械人形。

 

 苦しかった、でもそんなことより――

 

「いきなりこんなところに押し込めて……ふざけるなーですわーーー!!」

 

 レタリアの乗る機械人形の拳が、ブラングの機体の頭部を真正面から殴り抜いた。

 

 金属音。

 

 その勢いのまま打撃を受けたブラングの機械人形はきりもみをしながら星の海の彼方へと消えていった。

 

(……あら? 今の……わたくし……?)

 

 皮肉な因果応報だった。弾避けにした不届き者たちは壊滅し、レタリアだけが生き残った。

 

「なんだか分かりませんが、わたくしをコケにした罰ですわー!」

 

 この声は共有回線に乗って周囲の機体へと響き渡っていた事をレタリアは知る由も無かった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「残るは旧型機だけか……」

 

 セルディア自警団のマキナがレタリアの機体を包囲した。しかし攻撃は来ない。

 

「……敵ではないようだな」

 男の声が聞こえた。

 

「な…何ですの…?」

 先ほどまで勝利の「ハイ」を味わっていたレタリアは正気に戻っていた。

 

 さっきの不届きもの達と戦っていた一団…。

 いざとなればまたさっきの鉄槌を…

 

 等とレタリアが思案していると、不意に自警団の一機が静かに接近し、

 その機体の上部から、一人の男が降り立った。セルディア自警団隊長、グレイン。

 少し年上の、誠実そうな青年だった。

 

 彼はレタリアのマキナのハッチをゆっくりと開けた。

 

 レタリアの前にコックピットの空気を守るための薄い膜が展開される、その膜越しにレタリア見たグレインは

 一瞬怪訝な表情をした。

 

 しかしすぐにその顔を柔らかい笑みへと変えた。

「大丈夫か? 我々は敵じゃない。君は……きっと、巻き込まれた一般市民だろう。

 俺たちが案内する、安心していいよ」

 

 レタリアは訳も分からないまま彼らに付き従い付いていく事になってしまった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 ステーション「セルディア」到着

 

 武骨な鉄の空間の中に降り立つグレインとレタリアのマキナ。他の自警団のメンバーも既に着陸している。

 

 全員のマキナの動きが止まったところで、グレインはレタリアの傍に寄る。ここには空気があるので保護膜は無い。グレインの手を借りてレタリアは機体から降りた瞬間――

 

「■■■■■■…」

 

 また言葉が分からなくなった。マキナに搭載されていた翻訳の機能が、切れた。

 

 混乱と疲労が一度に押し寄せ、レタリアはその場に座り込んだ。

 グレインは困惑しながらも、小型の装置を彼女の耳にそっと装着させた。

 

「……聞こえるか?」

 

「……え? また……分かりますわ……?」

 

 安堵の息が漏れた。

 

「……大丈夫ですわ」

 

 震える声で、しかし誇りを失わずに。

 

 グレインの案内で、レタリアはステーション内部へ足を踏み入れた。

 

(……これは……城……? 神殿……?)

 

 天井は高く、柱は大理石のように白く輝き、壁面には幾何学模様が刻まれている。だが――

 

 

(……違いますわね。これは……石ではありませんわ)

 

 触れた壁は、冷たく、金属のように硬い。光沢はあるのに、どこか無機質で、魔力の気配もない。

 

 少し落ち着いて、レタリアは初めて、周囲の人々をまともに見た。グレインをはじめ、自警団の面々が身に纏っているのは、見たこともない形の衣装だった。滑らかな素材、幾何学的な意匠、肩や胸元に刻まれた紋章のような模様。

 

(……騎士……? いいえ、神職……? 貴族の礼装……?)

 

 どれとも違う。しかし、どれにも似ている。この世界にも、身分と役割を示す装いがあるのだと、レタリアは漠然と感じた。

 

「ここがセルディアだ。安全は保障する」

 

 レタリアは小さく頷いた。

 

(……わたくしは……どこへ来てしまったの……?)

 

 追放された悪役令嬢。異世界の宇宙で、機械人形に乗って生き延びた少女。

 

 彼女の物語は、今、静かに幕を開けた。

 

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