悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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26話:不測の事態は淑女の嗜みですわ!

 中継ステーション「クラネア」の朝は、人工太陽の光が隔壁の隙間から差し込むことで始まる。

 ミレアが手配した最高級ホテルのベッドは、その言葉に違わず、異世界から来たレタリアの疲れを深く癒やしてくれた。

 

 ホテルをチェックアウトし、独特の喧騒が戻り始めたロビーで、レタリアは手首のブレスレットを操作しようとして……ふと動きを止めた。

 

「……さて。わたくし、どうやって帰ればよろしいのかしら?」

 

 来たときは護衛任務のついでだったが、帰りは一人だ。アーデンの格納場所は分かっているが、広大な宇宙の航路をどう辿ればセルディアに戻れるのか。

 そんな悩みを予見していたかのように、またしても電子音が鳴り響く。

 

『ごきげんよう、レタリア。昨日はちゃんと眠れたかしら?』

 

 画面に映るミレアは、昨夜の小言が効いたのか、心なしかいつもより顔色が良さそうに見えた。

 

「ミレア。ええ、おかげさまで熟睡できましたわ。……それで、あなたこそ、昨日はわたくしとの約束通り、きちんと休んだのでしょうね?」

 

『ええ、寝たわよ。寝ました。四時間半もね。……それで、今日戻ってくるんでしょう? どうやって戻るか、分かってる?』

 

「おーっほっほっほ! その程度の事、わたくしに聞くまでもありませんわ! アーデンに乗り込み、最短距離でセルディアへ向かえば良いだけですわ」

 

『……はぁ。やっぱりそう言うと思ったわ』

 

 ミレアは頭を抱えるような仕草を見せた。

 

『いい、レタリア。マキナは本来「移動用」の乗り物じゃないの。セルディアまでの航路をマキナで数時間もぶっ通しで飛ぶなんて、プロのパイロットでも疲労困憊になるわよ。普通はね、民間の輸送船に乗って帰るものなの。

 ここに来る護衛の時だって、途中はマキナを船で牽引してたでしょう』

 

 ミレアの言葉で思い出す、そういえばずっと飛んでいた訳ではなかった。

 

「み、民間船……。あの、大きな箱のような船に乗るのですか?」

 

『そうよ。幸い、あなたにはフリーランサーになった時にバウンティハンターのライセンスも発行しているわ。

 船の「護衛役」として登録すれば、乗船費用を抑えられるし、何かあった時の実績にもなるわ。手配はしておいたから、指定のドックへ向かいなさい』

 

「……。なるほど……ではなくて、宜しくてよ、その提案、飲んで差し上げますわ!」

 

 ◆◆◆

 

 場面は変わり、セルディア行きの大型民間輸送船『サーペント号』のハンガー。

 この船は、数百人の乗客と大量の物資を運ぶ、まさに宇宙のバスのような存在だ。護衛兼乗客として乗船したレタリアは、不測の事態に備えて機体の近くで待機するのが「ハンターの習わし」だと教えられ、アーデンの足元に用意された簡素なベンチに腰掛けていた。

 

「……ふぅ。少々、退屈ですわね」

 

 私服から再び『ノーブル・ロータス』に着替えたレタリアが、手持ち無沙汰にしていた、その時。

 

「――よお、お嬢さん。奇遇じゃねえか」

 

 聞き覚えのある、どこか食えない男の声。

 顔を上げると、そこには無造作な青い長髪を揺らしたゼインと、その隣で少しバツが悪そうにしているファルの姿があった。

 

「あら、ゼインにファル! 貴方たち、クラネアでお仕事があると言っていませんでした?」

 

「ああ、そいつがな。思ったより早く片付いちまってよ。……次はセルディアに行ってみるかって事でな。戻る足を探してたら、この船の護衛枠が空いてたってわけだ」

 

 ゼインはニカッと笑い、隣のファルを肘で小突いた。

「なあ、ファル。お嬢さんも一緒だって聞いて、お前、さっきまで少し嬉しそうにしてたよな?」

 

「ちょ、ちょっと親方! 変なこと言わないでよ!」

 

 ファルは顔を真っ赤にして叫んだが、レタリアの姿を認めると、素直じゃない態度を見せつつも、その瞳には明らかな喜びの色が混じっていた。

 

「……別に、あんたがいたから乗ったわけじゃないんだからね。でも、まあ……あんたがいれば、退屈はしなさそうだし」

 

 消え入りそうな声で呟くファルに、レタリアは高笑いで返した。

 

「おーっほっほっほ! 宜しくてよ。わたくしの輝きが恋しくなったのでしたら、正直にそう仰れば良いのですわ!」

 

「なっ……! 相変わらずムカつく女ね!」

 

 賑やかなやり取り。昨日出会ったばかりとは思えないほど、三人の空気は馴染んでいた。

 ゼインが肩をすくめてアーデンを見上げる。

 

「しかしまあ、本当にこのマキナはエスカド社の『クラフィド』みたいだな、中身もそうなってるのかね?」

 

 ゼインが興味深そうに尋ねる。

 

「分かりませんわ!この子はアーデン、わたくしの鎧であり騎士なのですから」

 

 レタリアのあまりにも潔い発言にファルは絶句、流石のゼインも少し唖然としていた。

 

 そんな穏やか?な時間が過ぎていく。

 

 ◆◆◆

 

 だが、その平和な時間は突如として破られた。

 ハンガー内にけたたましいサイレンが鳴り響き、赤い警告灯が回転し始める。

 

『――護衛パイロット各員へ! こちらサーペント号キャプテン!』

 

 スピーカーから、緊迫した船長の声が飛び込んできた。

 

『所属不明の高速機、三機が急速接近中! 識別信号なし、レイダーの可能性が極めて高い! 直ちに迎撃態勢に入れ! 繰り返す、直ちに出撃せよ!』

 

 ゼインがその言葉にやれやれと言ったしぐさを取る。

 

「この辺りも治安が悪くなったもんだ、お嬢さん、ファル! 準備はいいか!」

 

「当たり前よ、親方! いつでもいけるわ!」

 

 ファルが自分の機体へと駆け出す。レタリアもまた、アーデンのコックピットを見上げ、不敵に口角を上げた。

 

「……全く。わたくしの帰還を邪魔しようなんて、よほど教育が必要なようですわね」

 

 レタリアは流れるような動作でハッチへと飛び乗り、シートに身を沈めた。

 ブレスレットを通じてアーデンのOSが起動し、ダークパープルの機体が重厚な音を立てて目を覚ます。

 

『レタリア、レイダーが出たみたいね、無理は禁物よ』

 

 ミレアからの緊急通信がモニターに割り込む。

 

「ええ、ミレア。わかっていますわ。……たかだか野盗、わたくしとアーデンの敵ではない事、思い知らしめて差し上げますわ」

 

『……全く調子の良い子ね。……無事に帰ってきなさい。いいわね?』

 

「分かっておりますわ!さあ、アーデン、不埒者たちに鉄槌を下しますわよ!」

 

 サーペント号のカタパルトが展開される。

 漆黒の宇宙へと、三機のマキナが次々と射出されていった。

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